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第11話  ~護衛戦闘~



 こちらはナナリーが最優先護衛対象だが、魔物達の狙いは、誰か一人に限ったものではない。

 誰でもいいから人間に噛み付いて、食い千切って、食べたい。

 要するに、噛み付く相手がユースでも、シリカでもアルミナでもニトロでも構わないのだ。


 だからユースは前に出た。5人同じ位置に集まっていると、魔物達は総がかりで一点集中の強襲をしてくる。

 5対50より、4対25みたいな形になった方が、ナナリー周りは敵をより楽に対処できるだろうという理屈である。ユースが一人だけナナリーを囲う陣形から離れたのは、護衛対象を軽んじた位置取りではなく合理的なものだ。


 その代わり、ユースは1対25を覚悟しなければならないのが難儀な話である。




「アルミナ、振り返るなよ! ユースとニトロどのを支えろ!」

「心得てまーっす!」


 ナナリー周囲は全く問題ない。

 一応の魔力を練り上げながら体を縮こまらせるナナリーと、ほぼ同じ位置で銃を持つアルミナを中心に、シリカとニトロが迫り来る魔物を退けている。


 先日の一騎打ちでユースに敗れたニトロだが、彼も彼でそれなりに腕は立つのだ。スノーウルフや

ウェアバットの群れなんて問題にしない程度には。

 接近する魔物を両手持ちの剣で斬り捨て、素早い太刀筋の往復と繰り返しで、一斉に襲いかかってくるスノーウルフの歯牙を自らに届かせない。

 視野も広く、上空から迫るウェアバットも剣の錆に変える太刀筋を描き、自らも主も無傷のまま多数の魔物を相手に立ち回り続けている。


 ナナリーを挟んでニトロと反対の位置、シリカなんてもっとである。

 何せ、ニトロと同数の魔物を同じペースで仕留めておきながら、騎士剣を振り抜いた数がニトロよりも少ないのだ。一振りで二匹以上の魔物を同時に斬る回数が多いからである。

 加えて言うなら、眼力の使い方がニトロよりも洗練されている。空中から接近するウェアバットの一体に、はっきり顔を上げて睨みを利かせれば、鋭い彼女の眼差しに刺されたそいつは、一瞬急降下をためらって、自分本来の襲撃タイミングが遅れる。

 このタイムラグが、本来シリカに三体同時攻撃が浴びせられるはずであった瞬間、その数を二体に減らしてしまうのだ。


 その二体を一太刀にて斬り捨てたシリカが、ほんの一瞬遅れて自分に迫ったウェアバットも、余裕のある太刀筋で斬り落としてしまう。

 百戦錬磨の純なる剣術に驕らず、使えるものを全て使って、極めて効率的かつ確実に、敵を自分のリズムに巻き込んで仕留めていくその動きは、見た目以上の余裕が生み出す賜物だ。


 シリカがそんなだから、彼女のすぐそばにいるアルミナも、シリカやニトロという壁の隙を突いて、自分達に直接飛びかかってくる魔物の存在を、全く無視して銃を扱える。

 敵の密集地の真ん中にいながら、まるで安全圏から敵を狙撃するような息遣い、それでいて的は近い環境で、アルミナが銃弾をはずすことは絶対に無い。


 空から、自分あるいはナナリーに直接攻撃を仕掛けようとするウェアバットの頭に、まず一発の銃弾。

 視界の端で、ニトロに襲いかかろうとしたスノーウルフを捉えれば、銃口をそちらに向けた瞬間、即座に引き金を引く。

 低姿勢のナナリーの頭上を、アルミナの銃身が何度か往復するほど、せわしなく銃口を振り回すアルミナだが、その都度しっかり狙いを定めた相手の頭部に銃弾を食いつかせる結果を残している。

 連続する銃声は、まるで時計の針が秒を刻むかのように一定、かつ速く、その音の早さに一次比例して、戦闘不能にされる魔物が量産されていく。


 そんなアルミナの隙を突くべく、シリカやニトロを無視して直接飛びかかろうとしてくるスノーウルフだって少々いる。アルミナも、来たと思った瞬間には肝が縮まるが、なにせそばにはシリカがいる。

 アルミナに向かって矢のような勢いで飛びかかってきたスノーウルフが、歯牙を届かせる前に空中で体を真っ二つにされ、雪の敷き詰められた地面に転がる。

 仕留めれば一瞥すらせず、再び自分に来る魔物への対処に騎士剣を振るうシリカは、安定して己のみならずアルミナを、ならびにナナリーを保護している。




 だから、ユースはナナリーやアルミナを心配する必要はないのだ。魔物の大半を引き付けることを進んで担った彼は、自分の心配だけしていればいい。


 勿論、流石に楽ではない。一匹なら問題にしない相手でも、こうもわらわら多方面から群がってきて、牙ひとつ突き立てられればなし崩しに追撃をくらうこの局面、決して安心など出来ようものか。

 右から迫った一匹目のスノーウルフを、得物の騎士剣で斬り捨ててからが勝負。まだまだこれからが本番だとばかりに、前から空から左右から魔物達がユースに襲いかかってくる。


 喉元目がけて迫ってきたスノーウルフを、思いっきりしゃがむようにしてかわし、地表すれすれを振るうような軌道から斜めに振り上げた剣で、別の一体の胸元を斬り飛ばす。

 その勢いのまま身をひねり、振り抜いた左腕に装備した盾で別のスノーウルフの鼻先を横殴りにすると、それと同時に足元を蹴って身を逃す。

 その瞬間、彼のいた位置に飛びかかっていたスノーウルフが対象を失い、雪を踏んでユースを見失いかける。


 動いた先でユースは上空から迫っていたウェアバットを斬り落とし、突撃気味に飛びついてきたスノーウルフを、真正面から盾で受け止め退ける。

 押し返す力に加えてその方向へと前進せんユースは、スノーウルフを突き飛ばしながら前に踏み出し、横から迫っていたスノーウルフの攻撃から逃れる。

 その際、振り抜いた太刀筋は別のウェアバットを斬り捨てている。


 ユースのそばには護衛対象がいない。つまり、敵の攻撃を自由にかわすことが出来る。

 これは、安易に動けばナナリーへの道を魔物に譲りかねない、シリカやニトロよりもやりやすい部分。ユースはそれを活かして、忙しなく立ち回る立ち回る。


 シリカ達とは違って動きの大きなユースには、魔物達も完全なる同時攻撃が出来ず、ユースが行なっている戦いは、間隔の小さすぎる一対一の連続に過ぎない。

 そうユースが自分周りの戦況を、巧みに制御し続けている。

 また空からウェアバット、それも容易に振り上げた剣で斬り落とすユース。ほんの一瞬遅れて彼に触れる勢いで迫っていたスノーウルフも、返す刃で斜めに振り下ろす剣であっさり真っ二つにしてしまう。


 気の利くアルミナが、ユースに迫ろうとしていた魔物達のうち数匹にも、離れた位置から銃弾を叩き込んでくれているし、それもユースが本来以上に容易く立ち回れている要因だろう。

 しかし、それがなくてもさほどは変わるまいと武人目には思えるほど、ユースの戦いぶりは安定している。当人は目まぐるしい立ち回りに緊張感を以って臨んでいるが、はっきり言って危なげないの一言に尽きる。


 これだけの少数対多数でありながら、ものの数十秒で魔物の数ばかりが減り、人には全くの傷がつかず、息を切らす気配を見せる者もなし。

 魔物達の目に宿り始めるのは怯えの色であり、人間に襲いかかる足や翼を止め、攻め込むことを懸命にも躊躇う魔物も出始めた。歴然たる力の差を見せ付けることは、単に敵を切り伏せること以上に、牙や刃を打ち砕く最短の手段でもある。


「ユース、まだだぞ! わかるな!?」

「はい……!」


 シリカやユースの刃に怖気づいた魔物達が後退し、距離を取って囲む輪も薄くなり、攻め込んでくる魔物は存在しない間が流れる。概ね、ここまでは大勢決したと言える状況だろう。

 しかし、ユースとシリカの眼差しは極めて厳しいものだ。何せ魔物達の中には、まだ無傷で佇んでいる大物が一体いる。


 荒く白い鼻息を噴かしながら、がつがつ前足で雪をひっかく巨大な鹿の化け物、グランベナードだ。

 すっかり怖気づいたスノーウルフやウェアバットと異なり、戦意を喪失するどころか更に興奮している様は、ユース達にとって嫌なものだ。


 しかも、ヴオゥと吠えるような声を発したグランベナードの喉が、周囲の魔物達の首をも上げさせる。

 ボスのいる魔物の群れは、これが厄介だ。頼もしいリーダーが威厳を示せば、自分達だけでは敵わなかった人間に気持ちが屈していた魔物も、まだまだやれると戦意を取り戻してしまう。


 個としても、親玉としても、グランベナードを仕留めないと、この局面は終わらない。

 顎を引き、剣を構え、ざしと雪を踏んで二歩前に出るユースが、グランベナードとの距離を縮める。


「ユース、代わるか!?」

「大丈夫です……! シリカさんは、ナナリー様やアルミナを……!」

「やれるんだな……!?」

「今は俺が、隊長ですから……!」


 未知の怪物、賢明なる道を選ぶなら、最強の駒をぶつけるべきなのだろう。

 それをよしとしないユースの根拠は、彼が口にしたとおり。

 この責任感なるものは良くも悪くもあり、ユース自身を危険な道に進ませる代わり、彼以外の誰かを凶門に近付かせないためのもの。


 頭を下げ、臨戦態勢に入ったグランベナードが、ぶんと一度だけ頭と角を振り上げた。退治するユースの肌もびりびりするほどの威圧感ある行動だが、その真意は手下に一つの命令を下すためのもの。

 ユースと離れた位置で、ナナリーならびにシリカ達を囲む魔物達が、再びじりじりと輪を狭めて獲物への距離を縮める。これは牽制に近いものだ。ナナリーとアルミナを死守するため、身構えねばならぬシリカとニトロの行動を制限し、グランベナードとユースとの戦いにシリカ達が加勢しづらい状況を作り上げている。


「ゆ、ユースどのは一人で大丈夫なのか……? 相手は、あれじゃぞ……」

「……大丈夫ですよ。私の一番弟子ですから」


 包囲してくるスノーウルフやウェアバットに目を配りながら、ユースの後ろ姿を視界の中央に含むシリカは、出来る限り毅然とした声を返している。心中や如何に。

 アルミナと並び、世界で一番可愛い後輩のうち片方が、未知の怪物に単身挑まんとする姿を、手を出さずに見届けねばならないこの状況。きっとナナリーを守るという使命以上に、感情論ではそれに背きたいほど嫌なものだろう。


 親はいつか離れ、親もまたいつかは子離れしなければならない。愛弟子が、己の力だけで道を開かんとする時、手を添えぬ師が独力の成功を形にすることを望まねばならない日は、いつか必ず訪れる。

 それが今。


「来い……!」


 ユースが発した、人向けの言葉が理解できたかのように、グランベナードが駆け出した。

 頭を下げ、大樹の枝のような広がりを見せる、巨大な角を前に出しての突進だ。猛牛の勢いにして盾を構えたような、ど迫力の頭突きに気圧されることなく、ユースがまず大きな横っ跳びでそれを回避する。

 ユースをその角で上天へと叩き飛ばそうとでもしていたか、頭を振り上げユースの残像を角で殴り上げたグランベナードの前身が上に反る。素早く大きく一歩前に出たユースが振り抜く剣は、グランベナードの前足を狙っている。


 わかっていたかのように前足を蹴りだし、後方へと跳び退いたグランベナードは、ユースの刃から前足を逃がした。

 雪を前足二本で踏みしめた直後、さらに同時にその前足を軸にし、尻を振り上げて後ろ足を跳ね上げた予備動作には、シリカもぞっとしたものだ。恐ろしい一撃が来る。


 殆ど回し蹴りと言っても差し支えあるまい、振り上げた後ろ足をフルスイングしてくるグランベナードは、(ひづめ)をユース目がけて迫らせる。

 ユースの顔面の前に足先が至った瞬間、蹴り出す足で対象をぶち抜こうとする一撃だ。

 視界最横から凄いものが飛びかかってきた光景に、ぶわりと冷や汗を噴かせて後ろに跳び退いたユースの判断は正しかった。かがんでかわせば踏み潰されていたのだ。目の前で、蹴り出されたグランベナードの後ろ足に、雪が砕かれる光景を目の当たりにするユースもぞっとする。


 続いてグランベナードは、少し前に出てぐるりと体を回す。

 その姿を確認する中、ぎらりと鋭く光る凶獣と目が合うユースも、肌がひりついて仕方ない。


 頭を下げたグランベナードの前面には、大きな角が盾のように立ちはだかっており、ユースの方からこれに攻め込みにかかるのは難しい。

 次は何が来る、まずは突進か、それとも別の手段か。全神経をグランベナードに集中させるユースをして、そこに油断があったとは到底言い難い。


「ユースっ!!」

「…………!?」


 シリカが叫んだ、それが彼の意識に新視界を呼び込んだ。

 グランベナードに神経を集めていたとはいえ、スノーウルフやウェアバットの気配まで無視していたユースではない。それ以外の何かが、弾丸のような速度で彼の右側から飛びかかってきたのだ。


 咄嗟に大きく身をひねり、正体不明の何かに盾を構えただけでも、ユースの反射神経は見事なものだったと言えるだろう。

 しかしその何かは、凄まじい威力を盾越しにユースの腕に伝え、その中の骨までみしみしと軋ませる。表情を歪めさせたユースが突き飛ばされ、雪に背をつけ倒されるほど、その奇襲の威力は凄まじいものだった。


 その正体が何なのかを確かめる余裕はユースには無かった。地面に叩きつけられて目の前に星が飛んだが、倒れた自分めがけて突進してくるもう一体化け物の気配は見失わなかったのだ。

 肘で地面を押し、瞬発的に体を横に素早く転がしたユースだが、彼のいた場所をグランベナードの前足が踏み潰す。

 厚い雪を貫き地面を砕く一撃から、ユースが逃れたのも束の間、間髪入れずに頭を下げるグランベナードは、地面から起き上がろうとしていたところのユースを角で突き上げようとする。雪に角先をこすってでもの一撃。


「ぐっ、がっ……!」


 低い視点からでもそれを確かめたユースが、自分と角の間に盾を構えて挟み込んだことが功を奏し、凶悪な武器がユースの体を砕くことは無かった。

 しかしその攻撃力は、盾越しにユースの体を大きく突き飛ばす。地面に倒れていた姿勢から、低空斜方に跳ね上げられたユースは、さらに軋んだ腕の痛みに苦しみながら、後方の木に背中を叩きつけられた。

 げはっ、と息を吐く中、白みかけた視界の中で、ユースが意識を飛ばすまいとした支えになったのは、直後に響いた2つの銃声もその一つだろうか。


 グランベナードの側頭部を狙って放たれたアルミナの銃弾も、頭を一振りして角で銃弾をはじくグランベナードを仕留めるには至らない。

 さらにもう一発の銃弾も、グランベナードとは別の一体の魔物に迫るが、身軽なそいつはひゅっと跳び、難なく速い弾丸をかわしてしまう。


「え、エビルアープ……!?」

「どうなってる……!? こんな、魔物まで……!」


 ユースを横殴りに奇襲した魔物が雪に足を踏みしめる姿を見て、ナナリーとニトロが驚愕の声を上げていた。


 風貌は猿そのもの、しかし四肢や肉体の太さ、屈強さは野生動物のそれではなく、体格は大柄な人間の男に匹敵する風貌だ。どう控えめに見ても、大型の動物ではなく魔物と容易に定義できそうなそいつは、にやりと口の端を持ち上げて、アルミナの銃弾を回避したことに得意げな顔。


 自分の背中を痛めつけた木の幹に片手を添え、詰まりそうな息を吐いてなんとか立ち残るユースの視界内で、二体の魔物が自分を睨みつけている。

 怪物グランベナード、そして大型猿の魔物エビルアープ。

 ともに、とうにシリカ達を一瞥した後であり、それから目を切りユースを見据えている時点で、そいつらの狙いはユースに集められている。


 突き飛ばされたことにより、ユースはシリカ達と大きな距離を作らされてしまった。最も頼りになるシリカのそばへと立ち返り、総力で迎え撃つ、という選択肢が奪われた状況だ。

 グランベナードとエビルアープが共にユースを狙うなら、ユースが一人でそれを凌がねばならない。


「し、シリカさん……!」

「く……!」


 片目を薄く開いて眉間に皺を寄せるユースもそうだが、アルミナの焦り声を聞くシリカも苦しい状況だ。

 ユースに駆け寄り、彼を守りながら戦うことはシリカなら出来る。だが、この場所を動けない。


 シリカがユースのそばに行き、ナナリーから離れれば?

 その上で、グランベナードやエビルアープが、狙いの矛先をナナリーやアルミナに変えようものなら?

 まだ少々の数を残したスノーウルフやウェアバットまでもがそうすれば?

 ニトロが一人で凌いでくれると、楽観的に信頼していいのだろうか?


 その先にあるのはきっと、ユースとシリカを除く3つの死体しかないのだ。

 シリカ達を囲む魔物の群れの輪を、ナナリーやアルミナを連れて突破するのもリスクが過ぎる。

 シリカはユースを助けに行くことが出来ない。


「私、行きます……! シリカさんは、ナナリー様をしっかり守って下さいね……!」

「お前……!?」


 今この状況で、比較的自由に動けるのが一人。シリカとナナリーの間に挟まるような位置にいたアルミナが、少し前まで飛び出した。


 シリカから大きく離れたわけではない、ユースに近付けたわけでもない、しかし彼女の視界は一気に障害物を失い、グランベナードとエビルアープの全容を目ににあたって最善の前方視界。

 同時に、魔物達からもアルミナが邪魔者なしで見据えられる状況になり、アルミナの立ち位置は安全圏ではなくなっている。


「ユース、しっかり! 隊長でしょ!? こんなところで、終わっていいわけないでしょう!」

「わかっ、てる……!」


 銃を構えるアルミナは、スノーウルフやウェアバットの群れから一切の意識を切り、グランベナードとエビルアープの動きを見逃さぬ目を据えている。それに伴い、二体の大型魔物も目線を移ろわせ、ユースとアルミナを交互に見る。

 意識を散らした魔物達から見た、片方の獲物は木の幹から背を離し、ぜえっと息を吐いて再び剣を構えていた。

 親友の発破に身を奮い立たせるユースの目は、受けたダメージを払拭しきれぬままにして、心だけは開戦の時よりも力強く燃え滾っている。


 こんな窮地、慣れっこだ。もっと恐ろしい魔物に襲われて、もっと痛めつけられたこともある。生死の境目を彷徨ったのも一度や二度ではない。

 吐瀉物が込み上げてきそうな体の痛みを擁するユースも、一歩間違えば自分か親友が死ぬアルミナも、その集中力を極限まで高めるのみ。


「来るわよ、ユース! やるわよ、私達で!」

「ああ……!」


 荒い鼻息と共にグランベナードがユースに駆けだし、エビルアープも同様に雪を蹴ってユースの側面方向へと回り込む。アルミナの銃声が響き、身をかがめたエビルアープがそれをかわし、それとほぼ同時にユースへの距離を縮めたグランベナードが、頭を下げて角を突き出している。


 想定外の遭遇にして、敵の強さも本国者の想定を凌駕するもの。

 若き騎士の天寿が今、ここで潰えるか否かを試されている。

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