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015-続・大捕り物劇 -5-

「んで、その依頼の内容は?」


 場面はジョージたちのもとにアッパルが駆けつけた所に戻る。ジョージは急な展開にも落ち着いて応対し、ひとまず話しを聞く。


「私闘扇動、ならびに武装蜂起の首謀者としての疑いがかけられている、ダンダロス家現頭首アルカデディス・ダンダロスの発見ならびに出頭への説得、説得が不可能な場合は捕獲までが今回の大量発注の依頼内容です。

 ただし今回は、裁判の前に議会への出席が必須ですので、容疑者は必ず生きた状態で捕まえる事、正常な証言、供述が可能な状態である事も条件の含まれます」


 やはりなんとも急な展開であるが、ダンダロス家といえばクヴィエギウスの実家である。今回のヒュールゲン強盗団の事件と無関係であるなどと、ジョージには思えなかった。


「武装蜂起、って事は、昨日の暴徒化した作業員たちはダンダロス家の息がかかってた、って事か?」

「まだ断定はできていませんが、あの件を受け持つ事になった対策本部の捜査ではその可能性が高いと」

「その捜査内容、詳しく見られるか?」

「はい。ジョージさんにはむしろ是非みて頂きたいと、あちらの方からも話がありました」


 まったく信用されたものである。


 ジョージたちはさっそく「ダンダロス家反乱容疑対策本部」と書かれた張り紙がされてある会議室まで来る。この張り紙は一度修正されたあとがあり、上張りされた紙の上からうっすらと見える元の名前は「工場作業員一斉蜂起対策本部」であったようだ。


 ジョージそこでさっそく、大雑把にだが纏められた捜査資料の要所要所を読み上げていく。


「485名は勤務先ごとに分けて8グループにわけられる。

 商店街などですれ違う事は多くお互いの顔は知っているが名前も知らないような関係。

 にもかかわらずあの場では一つの目標、この場合はヒュールゲン強盗団めがけて足並みを揃えて襲撃を決行。なんのためにヒュールゲン強盗団を狙い、どうやってあの場所を突き止めたのかは不明。


 ふむ。少し飛ばして。


 本人たちは勤務中や、休日中の自宅で職場の誰かに呼ばれたところまでは憶えているもののそれ以降の記憶があいまいで、誰から呼ばれたのかすらはっきり憶えていない、と。

 485人分ねえ。たった一日でよく調べてある」


 ジョージは素直に感心した。昨日彼らが捕まえられてから今まで、日付を跨いでいるとはいえ実質的には一日どころか半日ほどしかたっていない。ここ半月ほどのジョージによる組織改革の成果が見える。


「んで、彼らが勤務する八つの工場はすべて、ダンダロス家が直接経営している、と。間違いなく決まりだろうな」


 ダンダロス家の主な収入源は、工場街一帯の土地の権利であるらしい。しかし単に土地代だけで隆盛してきたわけではなく、自らの土地に何箇所か直営の工場を持っており、いくつかは都市運営になくてはならない重要な場所だった。


 ダンダロス家の土地に立っている工場、というだけの条件ならば無数にあるため、普段は顔見知り程度でしかない作業員たちの共通点になっていとしてもなんら不思議はないが、ダンダロス家が直営する工場となると数は限られる。およそ五百人の作業員たちが全員、ダンダロス直営の工場に勤務している、となればこれは偶然ではありえない。ジョージは警察の捜査が間違いないと力強く断定する。


「やはり、そうですか」


 この情報をまとめた警官もジョージからのお墨付きをもらえてどこか安堵したようだった。その反応を見て、改めてジョージは自分はただの助っ人でしかなかったのだけどな、と変な気持ちになる。


 しかし、期待されているならまだ依頼を受注したわけではないのだが役に立ってやろうという気にもなってしまった。


「付け加えるなら、全員に同じ記憶障害の症状がみられる事から、同一の薬物か魔法を用いて一時的な精神操作を受けていた可能性が高いだろう。魔法、となると高度な精神操作の魔法になるから、使える魔法使いは多くないはず。実行犯の絞込みは簡単だと思う」

「なるほど!」


 すでにダンダロス家当主の指名手配は都市議会によって決議された決定事項だ。とにかく当主本人を確保する事が最優先であるが、具体的な犯行の手口を今からつきとめておく事は、捕まえた後に行われる裁判で利用できる。自分たちでは思いつかなかったジョージ推理に警官たちは改めて感心する。そんな警官たちの視線をうけて非常にくすぐったい気持ちを抱きながらジョージは続ける。


「薬物となると、うーん、これだけの数に一斉に使うとなると、飲み薬や塗り薬、注射というのは考えづらい。ガスか煙か、そういう効果のある臭いを出す薬だと考えられるだろう。心当たりは?」

「ええと、調べます」


 いかにも危険そうな効能をもつ薬物になど、ここの警官は明るくないようだった。すぐに調べに行こうとしたが、ここでまた弟子が知識を披露する。


「昔、死んだオヤジから聞いたことがあるッス。オヤジの祖父さんくらいの世代で流行ってたっていう、狂戦士(バーサーカー)って薬は、嗅ぐだけでお手軽に何にも考えないで敵を殴れるようになる薬だったらしくて、議会に禁止されたあとだったけどオヤジはこっそり嗅いだことがあって、気づいたら周りに大量のドロップアイテムが落ちてた、って言ってたッス」


 ロックは相変わらず自分の言葉で語ろうとするととたんに下手になる。今回は微妙に聞き取りづらい言い回しだったが、これに慣れていない警官たちでもなんとか理解できた。ただ話しの内容は身内の、しかも故人の若い頃の過ちをサラッと混ぜたもので、故人を知らない者たちからするとだいぶ反応に困るものだったが、有力な情報には違いない。


「あんだけの数を扇動した手段は、たぶんそれだな。その線で捜査を進めてみたらいい」

「わかりました!」


 さっそく駆けていこうとする警官をジョージは呼び止める。まだ話は終わっていない。


「あー、それでこんな依頼を出すって事は、容疑者本人は、行方不明、なのか?」

「いえ、臨時議会の召集がかけられた直後に大勢の私兵を引き連れて自分が所有する工場へ向かったという情報が入っています。

 じつはまだ依頼の大量発注はかけていないんですが、どこから嗅ぎつけたのかすでにいくつかの潜窟者ギルドが先行してその工場を半包囲しているみたいでして。さすがに敷地の中にまでは踏み込めずに入り口から大声で呼びかけているだけみたいですが」


 ジョージは思わず渋い顔になる。そんな事、いたずらに容疑者を刺激するだけではないか。かといってこのまま放置してもいい事態ではない。


「居場所がわかってんなら話は早いが、武装蜂起の計画が早い段階で露呈しちゃったから苦し紛れに自分の所有する工場の中に立てこもり、か? そもそもなんのための武装蜂起なのか、目的、要求がさっぱりわかんねぇんだよなぁ」


 交渉するにおいて相手の目的を知る事は非常に重要だ。説き伏せるにしても捕まえるにしても選択の幅が違ってくる。アルカデディスという人物についてまったく知らないジョージは、この中で唯一面識がありそうなアラシの意見に期待する。


「レドルゴーグ全体を牛耳りたかった、とかじゃないんスかね?」


 ところがまず答えたのはロックで、アラシは険しい顔つきでしばし考えた後、身も蓋も無い事を言う。


「……あの豚のような男なら考えかねん」


 どうやら、今回の武装蜂起の動機については、どうやらあまり深く考えないほうがよさそうだ。


「そうかぁ。俺はどうにも、今回のヒュールゲン強盗団と無関係ではないような気がするんだがなあ。いや、まあ、息子の一人が一味に入ってたってだけですでに無関係ではないんだがさ」

「ジョージさんは、ダンダロス家の反乱未遂がヒュールゲン強盗団と関係ある、と考えているんですか?」


 警官から訝しげな表情で尋ねられると、ジョージは困ったように方眉だけ下げ、煮え切らない答えを返す。


「そういうわけじゃないんだけどさ」


 たしかに世間を騒がせたとはいえヒュールゲン強盗団はどう大げさに見てもただの強盗団だ、都市議会に議席を持つ者の武装蜂起、言ってみれば国会議員の一人がクーデターを企んでいたなどという事件と同列に扱えるわけがなく、クーデターに関係しているのなら、つかまった仲間を助け出すなどという目立つ行為をヒュールゲンたちはしなかっただろう。


「なんかもっと単純な事件な気がするんだよな、俺は」


 根拠もない、あいまいな話だがジョージは今この状況、展開に言い知れない違和感を覚えていた。だが、何の確証も無いままこの感覚を押し通すわけにはいかない。


 ジョージがどうするべきかと悩んでいるうちに、どたばたと新たに警官が会議室に殴りこんでくる。


「大量発注の許可が下りました。ただいまより都市警察名義で依頼発注をかけます!」

「……大量発注ならリスクも少ないだろう。ランナに断るまでもなく、俺たちもアルカデディス・ダンダロスの説得もしくは逮捕依頼に参加する」


 もう椅子に座って机を前に考えている段階ではなくなっていたようだ。


 ジョージは立ち上がって、現場に向かった。

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