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005-ブラスギアー -5-

「お、来た来た、間抜けなカモ」


 ジョージとロックは見るからにガラの悪い連中に囲まれていた。全員若く精々でも二十を超えたか超えないかくらい。しかし人数が多く男が十名と女が二名。ただし、つれられている女の片方はもう片方と比べてひどくみすぼらしい格好をして浮かない顔をしている。


「あー……一番嫌なパターンだ」


 ニヤニヤといやらしい笑みを浮かべながら二人を囲んでいるチンピラどもとは対象的に、ジョージは眉間をもみながら渋い顔で頭を振っていた。決して焦っている様子は無いが、非常に面倒くさそうにしている。


 それというのも、全ては魔動力舎の立地が原因だった。


 間違いなく都市中枢部にはあるのだが、高層の居住区が並ぶ市街地の大通りからは大きくはずれた、工場街とでも言うべき場所にあった。しかもこの工場街は既に半ば自動化が進められている場所ばかりらしく、勤務する人間の数が少なく、さらにこの時間帯は工場内部に居るので当然人気が無かった。


 しかも魔動力舎へ続く道は事実上一本しかなく、他の道を使おうとすると他の工場の敷地内を通らなければならない。そんな面倒な道のり、こうして待ち伏せが確実にあるとわかっていなければ通らないだろう。


「まあいい。適当に片付ける。と、その前に、こういう奴らは殺してしまって、構わんのか?」


 そういうジョージの口調は全くいつも通りだった。気負いも気張りもない、かといって無感情で平坦なわけでもない。アラシを相手にした時ですら剣を抜くなと自分に指示したというのに、今はそれが普通の事であるかのように言って放った。ロックにはそれが余計に恐ろしく感じてしまったが、いくらなんでもそれはまずいと慌てて止めに入るべく口を開く。


「ぎゃはははははは! なにこのオッサン! オレたちをどうにかするつもりでいんの!?」

「ちょっと良く見ろよ! 人数だけじゃなくってさあ! 俺たちが持ってるモノ!」


 ところがロックより先に音として出たのはチンピラどもの嘲笑だった。


 言われて注目するまでもなく、チンピラどもはけっこうな装備を持っていた。キョーリから鑑定眼の初歩については皆伝をもらったジョージの見立てでは、二人の正面に立っている最も長身で年も上そうな男は頑丈さを強化されたブレストハードレザーアーマー、手には雷撃を放つ長い棍棒。雷撃がどの程度のものかはわからないがおそらくスタンガンのような使い方をするのだろう。


 このチンピラ集団の二番手らしい奇抜な髪型の男もそれに次いでいい装備で、ワンランク落ちるが似たような性能のブレストレザーアーマーに三連装のボウガン。


 残りの連中も防具らしい防具こそ身につけて居ないが、手に持つ得物は何らかの加護、あるいは魔法がこめられた品で固められている。


「知るかよ」

「待っ!」


 ロックの制止も間に合わずジョージは神速の踏み込みでもって真正面に居たチンピラリーダーのハードレザーを割って鎖骨を折った。これでもう右腕は使い物にならない。根性がなければ痛みで立ち上がる事もできないだろう。


「んなっ!」


 せっかく装備で脅していたのに、全く無視されて先手を取られた。しかもリーダーが真っ先にやられたせいでチンピラはとっさに動けない。ところがロックは倒れたチンピラリーダーの有様を見てホッと胸をなでおろす。


 機構刀の刃は剥かれていない。殺すというのは台詞だけで、どうやら本気でそうするつもりはなかったらしい。


「っと! オイラもただ見てるわけにはいかないッスね」


 ロックもロックで、囲まれて驚いてはいたが怖気づいてはいなかった。むしろ、金貨一○○○枚の品を長く持ち続けたせいで感覚がおかしくなっており、目が若干据わっている。


 昨日と同じように鞘ごと剣帯から外して真後ろに振り返ってまだ呆然としていたチンピラの一人に切りかかる。


 ガツンと一発綺麗に袈裟に入ったが、ジョージのように一撃で骨を折るにまでは至らなかった。


「っち! 青緑か緑くらいはありそうッスね!」


 素早く飛びのいてジョージの方に近づきながら悪態をつく。どうやらこのチンピラは、モンスターなり何なりを倒してそれなりに生気を吸い、身体が強化されているらしい。ロックが安定して相手にできるようになったオークよりもいくらか丈夫そうだ。


「ムリすんな。とりあえず囲いから抜けるよう心がけろ」

「うッス!」


 ようやく再起動したのか、飛んできたボウガンのボルトを防ぎつつロックはジョージの声がした方に後ずさる。


「おお? とっさにしちゃやるじゃないか」


 普通、飛んできた矢を剣で防ぐにはそれなりの技が要るものだが。ロックは直感だけでそれをやったようだ。


「自分でもびっくりッス!」


 二射、三射と飛んできたが、二射はロックのだいぶ頭上に飛んで行き、三射目は反応しきれなかったところをジョージが防いだ。


「まぐれか。でもいいまぐれが出る奴は、まだまだ伸び代があるってこったぁっ!」


 ロックの横に並び立って、ジョージはなにかをブン投げた。投げられたそれは次の矢を番えようとしていたボウガン持ちに直撃し青白い光でもって相手をしびれさせる。そう、投げられたのはチンピラリーダーが持っていた雷撃の棍棒だ。


「ちょっと卑怯なようだがおまえは真っ直ぐあの女だけ狙え。あの気の強そうな方だ。他は全部俺が受け持つ」

「う……うス!」


 少し、不服な指示だったがロックには従うほか無い。


「いけ!」


 一方的な合図のもとに指示どおりガラの悪い方の女に一直線に突撃していくロック。行く手を阻むようにチンピラ男が二人ほど直線上に割って入ったが、ことごとくジョージからの援護が入ってロックを素通りさせた。


「なんだってんだい!」


 ヒステリックに女が叫ぶ。やはりというべきか、このチンピラ女も戦えるようで、腰に巻いていたベルト、だと思われていた鞭をほどくと振りかぶって振り下ろす。


「甘いッス!」


 ロックは実は、鞭を相手に戦うのは始めてではない。ランナのサブウェポンが鞭だった。ランナの鞭使いと比べればこのチンピラ女の鞭は鞭にしては驚くほど見やすい攻撃だった。


 ひょいと右に、ふわりとしゃがんで、三打目を振りかぶっておろす前には間合いは詰められた。鞘に収まったままではあるが、剣の切っ先を喉元に突き付けて警告する。


「武器を捨てろよ」

「く、くそお……」


 チンピラ女は、鞭を振りかぶったままの姿勢で手を離した。


 

 ジョージの方も、実に一方的な展開だった。


 チンピラリーダーを一撃のもとに沈めると返す刀でサブリーダーも一突きにした。


 どちらも刃こそ立っていないが、鎖骨を折る重傷に、左胸の肋骨を数本折る重傷。あいにくとその状態で立ち上がる根性はどちらにもなかったらしく、あえなく戦闘不能だ。


 この中では最も格上だったらしい二人が一瞬で沈められたうちにロックの方が動き始めたがロックのレベルではチンピラを一刀の元に伏す事はできなかった。ここまではジョージも確認していた。


 仕留められずとも狼狽えずに飛び退いた姿を見て、大丈夫そうだなと判断したジョージはチンピラのサブリーダーが持っていたボウガンを拾い上げて三人目の両膝と四人目の左膝を射抜いた。ちなみにボウガンも片手で扱う武器にわけられる。


 三人目も四人目も近接武器であったため、膝を射抜かれてその場からまともに動けなくなった時点で戦力外である。


 そうしているうちにあと一人だけ居た三連装ボウガン持ちがロックに矢を射た。一瞬だけ、まずい、と思ったがロックは見事にそれを防いで見せた。


 チンピラリーダの武器を拾い上げながらも思わず褒めたが、本人もビックリだったらしいと知ってにやける。が和んでいられるわけもなく二射、三射と飛んできて慌ててフォローした。そして指示を出した。


 自分の出した合図に素直にしたがって突進していくロックを道端の石を投げて更にフォローしながら、ジョージが取りかかるのは残り四名だ。


 ここまで来るとさすがに相手も油断していてはくれない。


 さすがにすこしはてこずるか、と思いきやそうでもなかった。


 防具らしい防具をつけていたのはチンピラリーダーとチンピラサブリーダーだけだ。


 五人目と切り結びつつ武器を弾いてがら空きになったみぞおちに蹴り、うめき声とともに手放された炎熱の棍棒を掴んだはしからアンダースローで投げて六人目の眉間にヒットさせつつ七人目の右手首に機構刀の切っ先を叩きこんで折る。


 初手の不意打ちとは違い正面からぶつかったにもかかわらず、あっという間に戦う意志のあった四人のうち三人が沈められた。


 最後の一人は一瞬のうちに三人沈めてなお余裕そうに立っているジョージか、チンピラ女を鞭で拘束しているロックかを選ぶはめになった。ロックはチンピラ女をなかば人質にとっているような状態なので、やぶれかぶれに叫びながら棍棒を振りかぶってジョージの方に襲いかかってきたのだが、そんな隙だらけの姿にはジョージが誇る神速の踏み込みを使うまでもなく、なで斬りである。


 もっとも、最後まで刃を剥く事はなかったのだが。



「……はあ、さすが兄貴ッスねえ」


 チンピラ女を拘束し終えたロックは、余りの技量差に嘆息するばかりだ。


 そして、最後の一人である。


「キミもコイツらの仲間、って事でいいッスね? やるッスか?」


 もどきとはいえチンピラどもに敬語を使う必要などないのだが、ここ数日ですっかり板についてしまった敬語もどきをロックは最後の最後に残ったチンピラ女Bに向けた。


「あっ、うっ……」


 答えたい様子だがチンピラ女Aがすさまじい形相でにらみ付けているので言葉にならない。代わりに答えたのがジョージだった。


「ほっとけよ。このまま全員ふんじばって……いや、ほとんど気絶して、骨折してっから、動くに動けんだろうな。縛るのもそのコだけでいいだろう。帰りに都市警察にでも通報すりゃいい。依頼の帰り道で怪しげな若者たちが大勢倒れてました、ってな」

「……そッスね」


 ロックは少し考えたが、チンピラ女Bは初めから戦意などなかったように見えた。今だって、仲間であるはずのチンピラ女Aと自分たちと、両方に怯えているように見える。


 これが後にまた些細ながらも面倒事を呼び寄せるとはいざ知らず、ジョージとロックはチンピラの集団を放置し、魔動力舎へと向かうのだった。

 中途半端に終わるタイミングがけっこうありますが今回もブラスギアーは今回で終わりです

 次回は来週月曜に…なると思います

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