(3)
「だーから、戻らないって。元気でやってるっつの! そう、……うん、食ってる。平気」
双子の姉からの電話に、辟易しながら鷹政は受け答えする。
二卵性双生児である彼女にはアウルの適正は無く、地元で穏やかな生活を送っている。
今回の事件を機に、田舎へ帰ってこないかと口うるさい。
「どうせ、ラーメン屋くらいしか仕事ないだろうが。俺は大丈夫だから。そっちこそ、男のひとりやふたr」
そこで通話が切れた。
はは、と乾いた笑いをもらし、鷹政はスマートフォンをソファへ放る。
「……引っ越すか」
一人で活動するのなら。ここを引き払って、事務所に住み込んだ方が経済的だろう。
「あれ、待て」
ツルギの住まいは、どうなってる?
あいつ、家族の話なんてしたことなかったよな?
「…………落ち込む暇も、与えちゃくれねぇなぁ」
なぁ、相棒。
『そんなことだから、お前はいつも手遅れなんだ』
(そうだなぁ、だけど……)
いつかのやりとりを思い出す。
(今度はちゃんと、歩くから。お前が手を引かなくても大丈夫なように……歩くから)
零の死に対し、沈んでばかりだった自分の手を、無理やりにでも引き上げたツルギの腕の強さを覚えている。
泣きそうに震えていた。
悲しいのは、あいつも同じだった。
宮原 ツルギという人間がいて、初めて筧 鷹政は自身の能力をフルに発揮することができた。
安心して後ろを任せられたから。
いい年をして、すっかりその存在に甘えきってしまっていた。
情けなく思うと同時に、突き放すことのなかった相棒を思えば、お互いさまと言ったところだろうか。
「歩かないとな。自分の脚で」
パン、と膝を叩き、そうして鷹政は立ち上がった。
季節が移り変わり繰り返し繰り返し、それでも褪せない思いは確実にこの胸に。
【了】
エリュシオンでMSをしており、そちらで担当しているNPCについての、舞台裏エピソードです。
本当に本当に、どこに出すという場所もなく、しかして一度、きちんとまとめておきたく思っていたものでした。
シナリオ【刀狩】を知らなければ、何がなんだかな内容で申し訳なく……。
お目通しいただき、ありがとうございます。