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「いいか? もう気付いてるとは思うが、お前は<言霊>の能力を持ってる。だからお前が職員寮に来たのもそのせいかもしれねぇし………」

延々と続きそうな祐樹さんの話を半分聞き流しつつ、私は頭の中で思ったことを整理していた。

私が言ったことが琴音の身に降りかかったのは、<言霊>の能力を持つ私のせいで。

祐樹さんは<言分>で、私の能力を分けることができる。

あれ、結局わかったことそれだけ?

「………ツキ! 聞いてんのか?」

「…あ、はい」

祐樹さんの声で我に返る。

頭痛が起きたかのように頭を抱える祐樹さんは、音楽室の隅っこにあるホコリを指さして言った。

「あれに、吹き飛べって命じてみろ」

「は? 命じる?」

「そうだ。自分の能力疑ってんなら、それでわかるから」

…ふむ。やってみようか。変人みたいという考えが頭をよぎったが、まあ…気にしないでおく。どうせこの部屋には祐樹さんと私しかいないんだし。

「…吹き飛べ! …?」

「最後のハテナはなんだハテナは!」

鋭いツッコミが入る。

だって、不安になったんだもん。

じぃっとホコリを見ていると、風も吹いていないのにもう反対側の隅っこにすごい勢いで飛んでいった。

か、怪奇現象!?

「ゆゆゆ祐樹さん! 怪奇現象ですよこの音楽室呪われてるんじゃないですか!?」

「それが<言霊>の能力なんだって」

落ち着き払って言う祐樹さん。私は絶句した。

「…あ、あり得ない…」

「現にあり得ているんだなーこれが」

祐樹さんが満足そうに頷いて、私に向き直った。

「どうする? ツキ。能力を分けるか?」

「う…」

決めてない。

能力を分けるかどうかなんて、急に言われたってわかんないし。

これで思ったこととか言ったことが現実になるんだったら、分けないで置くっていうのもありだけど、さっき祐樹さんが例みたいに言ったこととして、たわいない話の中でウソを言ったとしてもそれが本当になったりするってことだよね。

それ、不便じゃない?

「あーう…」

「ん」

「…考えさせてください…」

「別にいいけどさ。…あーそれと、紫香楽宮と琴音も<言霊>・<言分>に関係してんだからな? 気をつけて見てろよ」

「…はい?」

「んじゃな〜」

それだけ言って、音楽室から出て行く。

「や、ちょっ、祐樹さん!?」

…またか。

祐樹さんはいっつもそう。

言いたいことだけ言って、こっちの疑問はそのままで。

わかんないだけじゃん。

気をつけて見てろったって、どこをどういう風に気をつければいいのかわかんないじゃん。

説明してくれたのはありがたいけどさ…。


* * * * * * * * * * 


次の日、私の斜め後ろの席に琴音さんの姿はなかった。いつもなら結構早く来てるのに。香さんもいないんだけど…。

どこにいったんだろう?

疑問に思いつつ廊下に出ると、狭山先生がちょうどいたから、聞いてみた。

「香さんは知らないけど…琴音さんはさっき保健室に行ってたわよ?」

「保健室! …っとー樋山先生かー…。はい、ありがとうございます狭山先生!」

「え、あ、皐月ちゃん!?」

狭山先生の制止の声を無視して、私は保健室に向かって走った。

だって、祐樹さんの言葉を信じるとすると、琴音さんも<言霊>・<言分>に関係してるんでしょ?

だったら、いじめという私の被害とも関係するかもしれない!

「樋山せんせーっ!!」

「はい廊下は走らなーい!!」

樋山先生は、簡単に言うとノリのいい先生だ。

職員寮で決まっている係では、私はご飯係、樋山先生は掃除係ということで係が違う。

だからあんまり話したことはないんだけど、気さくな先生なので初対面でも結構話せたりするのだ。

「琴音さんいますか?」

「もちろんいるわよ。寝てるけど」

保健室に来たんだからねぇ。当たり前か。

「…はぁ、そうですか…」

「なに、聞きたいことでもあったの?」

興味津々、といった顔で聞いてくる樋山先生。どう見ても相談に乗ろうっていう真剣な顔に見えないんだけど…いいのかなぁ…そんなんで。

「いやあのですねぇ…先生方も、<言霊>のこととか知ってるんですよね?」

「当たり前じゃない」

樋山先生が頷く。

…当たり前なんだ…。

「琴音さん、何かあったんじゃないでしょうか…」

「何かあったからここに来たんでしょ?」

からからと笑う樋山先生に、なんか会話が通じてない感じがした。

「あの、話せますかね?」

「誰と? 琴音さんと?」

「はい」

「起きたら話せるでしょうけど…」

樋山先生がベッドの周りにあるカーテンをシャッと開け、様子をうかがう。

「………ん…ぅ…?」

あ、起きた。

ていうか、光が入ったから起こしたの方が正しいのかな?

「…っ、さささ皐月さん!?」

私を見た瞬間、何者かに襲われたかのようにベッドの上で後ずさる琴音さん。

そんなに驚かれたことに対して少しショックを覚えた。

「いや、何もしないからね?」

「…本当?」

「う、うん」

なんかキャラ違ってない?

「琴音さん」

「な、なによ…?」

じぃっと見つめると、さらにベッドのはじっこへ後ずさる。

「危ないよ? 後ろから落ちるってそのうち」

やんわりと注意すると、琴音さんは顔を赤くした。

「ど、どうだっていいでしょ! あなた、私のこと嫌いなくせにどうしてそう優しくするの!?」

…は? なんか今、ものすごい勘違いが聞こえたような。

「私が…琴音さんのこと嫌いだって?」

「そうでしょ!」

「…別に?」

「別にって何!?」

「嫌いじゃないけど」

「嘘言わないで!! 自分のことをいじめた人のこと、好きなわけないじゃない!!」

「…いじめられたって思ってないし…」

「…は?」

口論をしている間に、本音が漏れた。

琴音さんがきょとんとした顔をする。

「い、いじめられたって思ってないですって…?」

「うん」

だって、ストレスの発散になってたしねぇ。

「な、何よそれ…。結局、疲れたのは私と香なの…?」

「そうらしいねぇ」

琴音さん、気付いてなかったんだね…。鈍いなぁ…。

「で、琴音さん!」

「…何?」

重要な質問をしようとすると、琴音さんはめんどくさそうに自分の長い黒髪を払う。

…こういうところはキャラ変わってないなぁ。高貴なお姫様みたいな。

「なんで、私をいじめようって気になったの?」

「……………………」

琴音さんは黙った。

大きな瞳で私を見る。

次第にその大きな瞳がうるんで…。


「やっぱり、私のこと嫌いなんじゃないの!!」


琴音さんの大声が保健室に響いた。

何この人!!

どうやって今の質問からその結果に行き着くの!?

もう、意味わからん!!




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