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「…祐樹さん」
「なんだ」
「なぜに『姫』ですか。男でしょう?」
もう少し聞きたいことはあるが、最初に思ったことがこれ。
姫とか…女装っておかしいと思う。しかもさりげに女の服が似合ってた気が。嫌だなぁほんと。
「どう見たって男だな」
はははと祐樹さんは笑うが、目が笑ってない、目が。
「理由があるんですよね? 普通に。いたずら心でやった訳じゃないんですよね?」
「お、おう」
私が笑顔で迫ると、祐樹さんは少し身を引いた。そしてぼそっと呟く。
「お前のその笑顔、すごみありすぎて怖いな……」
だって、なんとなく腹が立つんだもん。
* * * * * * * * * *
ソプラノレベルの声が出ると知ったのは、小学生の頃。
音楽の時間にふざけた罰としてみんなの前で歌わされた…あんまりいい思い出じゃねぇな。
あ? 声変わりならしてたし。だーかーらー…俺でもわかんねぇっつってんだろ。
で、その話はいったん置いておくとしてだ。
歌姫になった理由はさ、…少し難しい話なんだが。
あー、はいはい。別にバカになんてしてねぇから。心配すんな。
<言霊>って知ってるか?
そ、簡単に言えば…言ったことがほんとになるとか、そういう感じのやつ。……ツキの言ったことがほんとの話になったのは後で! いいから、今は俺の話聞けって。
で、みんな生まれたときは普通に<言霊>の能力をもってんのな。それを誰かに名前を付けてもらうことで、生活に影響のない程度まで<言霊>の能力をなくすことができる。まぁ、この『なくす』って表現、『分ける』って言ってるんだけどな。それで、俺は『祐樹』って名前をもらって、お前は『皐月』って名前をもらっただろ?そのことだよ。
でも、その能力がしっかりと分けられないときがある。そうなると、生活の中で言ったことが本当になってしまったりするんだよな。面倒なことに。
しかし! そこで能力を分けられないと世界は混乱に陥るだろ。<言霊>の能力が分けられなかった人が「戦争したい」なんて言ったら本当になっちまうからな。極端な表現だが。
そういうことがないようにするために、もう一つ能力がある。
<言分>の能力だ。
……そのまんまとか言うなよ。俺の考えた呼び方なんだぞ。傷つくじゃねぇか。
<言分>は、能力を分けられなかった人に新しく別の名前を付けると、それによって能力をなくす…っていうか、生活に影響しないぐらいまで分けて、自分のものにするって言うのかな。…まぁ、そんな感じなんだ。<言霊>・<言分>一人ずつでペアだ。分けられたものは<言分>を持つ人のものになる。
…あ、<言分>の能力を持つやつは、あらかじめ<言霊>の能力が少ないんだ。だから別に平気なんだよ。
…ふぅ。わかったか?
で、それがどう歌姫に関係するのかというと。……あーもうっ、これはこれでめんどくさいな。
率直に言うと、俺が<言分>だ。
……おい、ツキ? 大丈夫か? 頭爆発したりしないよな? うん、ならいいけど。
<言霊>の能力を持つやつは、基本的<言分>の能力を持つやつに近付きたがっている。
は?なんでって、そりゃぁ本能的に<言霊>の能力を分けてほしいと思うからに決まってんだろ。いいか、続けるぞ。
あまりにも分けてほしいと思うあまり、周りの平凡な人に危害を加えることもある。だから、分けてほしけりゃとっとと来いということで、ステージに立ってんだよ。まぁ、<言霊>を持つやつが来たことはねぇけどな。俺は別に『姫』じゃなくても良かったんだけど…サヤ先生…田代先生がさ。
ま、これで歌姫になった理由は終わり。何か質問は?
……あ…そっか。ツキの話もあるんだっけな………。