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信じられない。信じたくない。
「ツキ、信じたくないって顔してんな」
面白そうに祐樹さんが言う。
面白いことじゃないし…。
祐樹さんの予想が当たっていることがさらに面白くない。
てかそもそも、原因はこの人だし。
「祐樹さん!」
「んあ?」
「んあ、じゃないです! どういうことですか!?」
信じないためには証拠が必要。
どうやってでも突き止めてやる。
絶対に今のソプラノの歌声が祐樹さんじゃないってことを、証明してみせる!
意気込んでいる私に向かって、
「どういうことも何も」
と、けろっと言う祐樹さん。
「普通に考えれば俺以外に誰もいないって思うだろ? ツキ」
「思いたくないです!」
思うか思わないかじゃなくて、思いたくない。
「思うしかねーじゃん。」
にっと笑った祐樹さんに、ウソをついている感じはしない。
じゃ、本当ってこと? さっきの歌は祐樹さんが歌っていたってこと?
「ウソだー…」
扉と同じく古いデザインの椅子と机にふらふらと近寄って、机に突っ伏す。
「祐樹さんのバカー…」
「え、俺!? なんで?」
「ソプラノの声出るとか信じたくないです」
「俺だって信じたくねぇよ」
祐樹さんの拗ねたような声。
男の人らしい低めの声で、絶対にソプラノとかでなさそうなのに。
ふと、もう一つの疑問をぶつけてみる。
こっちの方が重要な質問かもしれない。
「…ところで、祐樹さん」
「今度は何」
「あれ、ほら、さっきの歌ってあれですよね、ほら、あのー歌姫様が歌って、た、や、つ………。」
言いながら、私の思考は一番考えたくないところにたどり着いた。
あり得ないこと考えちゃダメだって自分!
ただ祐樹さんは…そう、歌姫様のファンでー…。
そういうどうでもいい理由だと信じて、おそるおそる祐樹さんを見ると。
「笑顔、引きつってますよ…」
「うん、自覚してる」
微笑を浮かべようとして、失敗したみたい。
くちびるらへんの筋肉がちゃんと動いてない感じがする。
そう言う顔をするってことは、図星?
私が思ったことは、事実?
「それこそウソですよね?」
「……」
「ウソですよねというかウソであって下さい。」
「………」
「ほんとそう言うたちの悪い冗談とかやめてくださいよぉ……。」
「…………」
「祐樹さんっ!」
私がつらつらと言っている間、祐樹さんの顔はさっぱり動かない。
まるで瞬間冷凍されたみたいに。
凍らせちゃったのはたぶん私だろうけど…。
「解凍ぐらい自分でしてくださいっ!」
なんか、『わかってしまったこと』に腹が立って、祐樹さんの引きつった顔をぐにぐにと動かした。いっそのこと、このまま冷凍庫につっこんでしまおうか。
「ふき」
祐樹さんは「ツキ」と言ったようだが、私が顔を動かしているせいで山菜になってしまった。
ふきは嫌いではないが、ふきと呼ばれたくはない。
「…」
少し迷った後、何か言いたいことがあるんだろうなと思い、仕方なく手を離す。
「ツキ」
…言い直した。
別に言い直さなくてもいいのに。
やけに大まじめな顔になって、その漆黒の目を私の目と合わせる。
「…あい」
なんか声がうわずった。
それに対して祐樹さんは少し笑うと、こう言った。
「俺が、歌姫だ」
ほんと、たちの悪い冗談ですまないと思う。




