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さて、次の日は。

相も変わらず完全無視状態。

別に気にしてないけど、という涼しい顔の私に、狭山先生が気遣うような視線を向ける。

ありがたいわー…。担任が狭山先生で良かったよ。

一時限目は理科。田代先生だ。

昨日、職員寮で思いっきり愚痴られたお返しに、今日は逆に思いっきり愚痴ってやろうかなとか思っている。

田代先生は意外に面倒見がいいから、愚痴るのには最適な相手かもしれない。

おっと、意外にって言ってたら田代先生に怒られちゃう。

実験室に移動するため、ノートと筆記用具を持って廊下へ。

その途中で、いじめポイント!

紫香楽宮こと紫咲 香さんが私にぶつかってきた。

その拍子に私の持っていた筆箱が落ちる。

そしてそれを通りすがりみたいにやって来た琴音さんが踏む。

足でだよ? トイレとか入っているその靴で。

「あら、ゴミが落ちているわ」

「ほんとだ! ちゃんと掃除しないとダメよねー!」

どうでもいい大根演技をしあう二人。恥ずかしくないのかね? 棒読みだし……。

そして、二人は拾った筆箱をキャッチボールみたいにしながら、さりげなくゴミ箱へIN。

ふと、私の口から笑い声が漏れた。

「…?」

気付いた香さんが私を見る。

「残念だったわね、2人とも」

「は?」

自分の机まで大股で戻り、机の中からもう一つの筆箱を取り出す。

「んなっ…!」

「さっきのは偽物だよーん♪」

しかもあれ、琴音さんの色鉛筆が入っている筆箱なんだけど。

そう付け足すと、琴音さんの顔が真っ青になった。

「なんですって…!」

真っ青になったまま震え出す琴音さん。

そして、傍らで硬直している香さん。

2人とも、ゴミ箱の中をあさる勇気はないようだ。

「早くしないと実験に遅れるよ?」

私は最後に不敵な笑みを浮かべ、そう一言言ってから実験室に向かった。

…実を言うと。

琴音さんの色鉛筆なんて、入っていない。

あれウソだし。

ていうか琴音さん。自分が持っているものくらいちゃんと覚えなよ。

…何はともあれ、見事にだまされてくれた2人に拍手!

じゃあ誰のかというと、『一週間後に処分します』と書かれた落とし物の布で作った筆箱もどき。誰のものでもない。

これでも私は家庭科が好きだから、一時間ぐらいで筆箱風に仕立てられた。

2人の末路はというと、遅れてきたということで田代先生にものすごーく怒られていた。


* * * * * * * * * * 


職員寮に帰って、私はロビーのソファに倒れ込む。

先生達は会議で、今日は帰ってくるのが遅いらしい。

それまで自由だが、やりたいことはただ一つ…。

宿題なんて後回しにするほどやりがいがある。

それは!

「音楽室〜どこだ〜?」

昨日祐樹さんが言っていた音楽室を探すこと! もちろん、地図とかはナシで。

探すといっても、当てなんてないし。

ふと思ったが、祐樹さんは帰ってきたんだろうか。

「…てか私、祐樹さんの部屋も知らない…」

当たり前だけどね!

聞かないし。今まで会ったときは、偶然だったし。二回しか会ってないし。

ちなみに職員寮は三階建で、一階はロビーや洗面所、浴場などがある。

二階は私や田代先生、風西先生方の女子&女の先生の階。

つまり、祐樹さんの部屋は三階だと思うんだけど…。

違った、目的は音楽室。……一階か三階か?

「…困った!」

探そうと思った私がバカだったかも。

そう思いつつ三階をうろついていると、急に綺麗な旋律が聞こえてきた。



    約束なんてしていない

    だけどここで君を待ち続ける

    なぜ?

    会いたいからに決まってる

    会えるなんて決まってる訳じゃないけど

    ここにいるなら会える気がするから

    おかしいかな?

    でも私はおかしくないと思う

    だって、ほら

    角の向こうに君が見えてきたから…



思わず足を止めて耳を澄ます。

恋の歌だ。

聞き取りにくいけど、そこの部分だけわかる。

なんだったかな…どっかで聞いたことあるんだよね。

てか、先生方いないのに、誰が歌ってるの?

高いソプラノ…。思い当たらない。

あれ、でも歌を歌ってるってことは、音楽室があるってこと…?

これで見つけられる!

そう思って、走り出す。

声が聞こえる方に向かって。

やがて、ある部屋の前についた。絶対にそこから聞こえてくる。

その部屋は、三階の突き当たりにある古びた扉の向こう。

古びた扉が怖い…。

でも、歌ってる人が知りたくて、ドアノブに手をかけた。

勢いをつけて回す。

ガチッ

…鍵かかってるとかないでしょ!

苦労してきたのに…。

部屋で歌ってた人は、驚いたのかわからないが歌うのをやめた。

扉に耳を当てると、誰かが笑いながら近付いてくる気配。誰だろう?どんな人?

「…ツキか?」

………あれ? なんか聞いたことがある声…。

「…げっ、祐樹さん」

私をツキと呼ぶのは祐樹さんしかいない。

でも。…でもっ!

「ちょ、祐樹さん!? 今の歌声誰ですか!? もう一人いますよね部屋に! 絶対そうだ鍵はずしてください! 音楽室ここですよねっ!?」

歌声、ソプラノってことは誰かもう一人いるはずでしょ?

もし、部屋に祐樹さんが一人だったら…!

あり得ない。あの歌声、ものすごく綺麗なソプラノだったんだよ?

祐樹さんは絶対、ソプラノじゃない。テノールぐらいなはず!

それに…今思い出したんだけど。

あの歌、歌姫様が歌ってたやつだ。

まさか…祐樹さんが歌えるわけないじゃん!

歌姫様の声は高くて綺麗なんだから!

パニックになってる私を放って、祐樹さんは鍵をはずして扉を開けてくれた。

おそるおそる部屋の中を見る。

そこにいたのは。


祐樹さん、一人だった。




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