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0.01度の特異点 ―計算不能な未来へ―  作者: 最後に残った形


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第1章 第5話:バグの烙印


「演算エラー、深度マキシマム。自己修復パッチ、適用不能――」


アルフレッドの網膜に、濁流のような警告エラーが高速で流れ落ちる。

彼が纏う純白のアーマーは、中央管理塔から供給される魔力のフィードバックループ(過電流)に耐えきれず、各部の接合部からパチパチと青白い火花を散らして沈黙していった。


「馬鹿な……。私が、システムに最適化されたこの私が、敗北したというのか? ランク『2.14』の、ただのノイズに……!」


大剣を杖代わりにし、片膝をついたアルフレッドが、屈辱に塗れた目でテオを睨みつける。

だが、テオはその視線に冷たい一瞥をくれただけだった。


「お前は敗北したんじゃない。ただ、お前たちの神様が、0.01度の計算を間違えた。それだけだ」


テオが背を向け、広場から立ち去ろうとした、その時。

街全体を包み込むように、天の彼方から、かつてないほどに重々しく、そして平坦な「神の声(OS)」の全域放送が響き渡った。


『緊急アナウンス。エリア00(中央広場)における戦闘データを再計算。対象:テオ・アルカディア』

『判定:予測モデルを大幅に逸脱する、極めて危険な自律増殖型バグ(イレギュラー)』


広場の巨大な白磁の塔に明滅していたテオのランク「2.14」の数字が、一瞬にして書き換わる。


『社会貢献度ランク:ナイン(測定不能・ゼロ以下)』

『修正プログラム(パッチ)による対応:不可。よって、都市全域の安全確保のため、即時の強制排除デリートを実行します』


その瞬間、広場を埋め尽くしていた住人たちの視線が、一変した。

さきほどまでテオを「聖騎士を倒した英雄」として見ていたはずの彼らの目に、瞬時にして強烈な「恐怖」と「嫌悪」が宿る。


「おい、見ろよ……ランクが消えたぞ……」

「バグだ。あいつは街の最適化を壊す悪魔だ!」

「あいつが近くにいたら、私たちのランクまで巻き添えで下げられる! 出て行け! 触るな!」


誰かが投げた、配給カプセルの空き缶がテオの足元に転がった。

続いて、罵声とともに石や瓦礫がテオに向かって投げつけられる。テオが街の崩壊パージを止めたことなど、彼らの脳内ではすでに「システムによって書き換えられた事実」の前に霧散していた。彼らにとって、システムから「バグ」と烙印を押された存在は、ただの害悪でしかないのだ。


(これが、お前たちが盲信する完璧な世界の正体か)


テオは飛んでくる石を手で払いながら、自嘲気味に笑った。

怒りはなかった。あるのは、この硝子細工の都市に対する、底知れない冷徹な軽蔑だけだ。


バサリ、とテオの足元の床が機械的な駆動音を立てて割れた。

「神の声」が起動した、パージ用の廃棄ダクト。都市の「ゴミ」を外側へ捨てるための底なしの穴だ。


「ミア……。俺は間違っていなかった。今に見ていろ、神の声」


テオは抵抗することなく、暗黒の縦穴へと自ら身体を投げ出した。


急速に遠ざかる、美しく演算された魔導都市の光。

激しい落下Gのあと、テオの身体は、強烈な腐臭と錆の匂いが立ち込める「何か」の上へと叩きつけられた。


「ってて……。おいおい、空から降ってきたのが肉塊じゃなくて、まともな人間だとはな」


頭上から、不敵で、どこか楽しげな男の声が聞こえた。


テオが痛む身体を起こし、濁った視界を凝らしながら辺りを見回す。

そこは、見渡す限りの金属ゴミ、廃棄された術式部品、そしてシステムから「ノイズ」として切り捨てられた人間たちが泥にまみれて這い回る、計算外の境界――管理外領域ダークセクター


テオの目の前には、右腕が丸ごと無骨な機械の義手になった、筋骨逞しい男が立っていた。男は油汚れのついた大きなレンチを肩に担ぎ、白い歯を見せて笑っている。


「歓迎するぜ、新入り。ここは『神の声』の計算が届かない、最高に自由で最悪なゴミ溜めだ。俺の名前はロック。ハードウェアのことなら、何でも聞きな」


泥塗れのスパナを握り締めたまま、テオの口元が、静かに、そして狂おしく歪んだ。


(ここからだ。俺のデバッグは、まだ始まったばかりだ)


完璧なディストピアの底で、世界を再起動リブートするための「真のエンジニアリング」が、今、幕を開ける。


(第1巻:バグの烙印 ・完)

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