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0.01度の特異点 ―計算不能な未来へ―  作者: 最後に残った形


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第1章 第4話:絶対不追尾の光弾


「そこまでだ、バグ(イレギュラー)」


広場を圧するアルフレッドの声明を切り裂き、鋭い声が響いた。

整然と並んでいた下層市民や聖騎士たちの視線が一斉に一人の男――作業着の泥を拭いもせず、右手にスパナを握ったテオへと集まる。


「エリア09の聖騎士を無力化し、脱走した下級労働者か」

アルフレッドの青い瞳が、冷ややかにテオを射抜いた。彼の網膜に表示されているであろうテオのランク『2.14』を見て、その端正な眉が不快げにピクリと動く。


「システムが排出した『パージ』という最適解を、その程度のランクの者が遮るか。分不相応なエラー(ノイズ)め。これ以上の演算の遅延は許されない。私が直々にデリートする」


アルフレッドが背負った大剣に手をかけた。

瞬間、彼の全身から吹き出した濃密な金色の魔力が、大剣の刀身へと収束していく。それは都市の中枢から直接供給される、圧倒的な出力のエネルギー。まともに喰らえば、肉体どころか存在そのものが消滅する。


テオは深く息を吐き、脳内の術式を限界まで加速させた。


(システム・スキャン――フルブースト)


視界が緑色のワイヤーフレームへと切り替わる。

アルフレッドの放つ魔力は、あまりの出力の高さゆえに、網膜の処理速度を焼き切らんばかりの輝きを放っていた。だが、テオはその光の奔流を凝視し、アルフレッドが構築する「術式コード」を逆コンパイル(解析)していく。


(大剣を触媒にした高密度魔力の指向性放射。術式構成、完全正多面体。自動追尾機能は――ない。いや、必要ないんだ。『神の声』が算出した未来位置へ、寸分の狂いもなく直撃させる『絶対不追尾の光弾』。遊び(バッファ)を極限まで削った、完璧な直線)


消去デリート


アルフレッドが大剣を振り下ろした。

轟音と共に、極大の光の奔流がテオに向かって一直線に放たれる。避ける隙も、防ぐ術もない。広場の誰もがテオの消滅を確信した。


しかし、テオのワイヤーフレーム視界には、その完璧すぎる光の弾道に刻まれた『数値』が克明に映っていた。


『標的への到達角:0.00度。狂いなし』


「完璧すぎるんだよ、お前たちの術式は」


テオは光弾の正面に躍り出ると、手にしたスパナを自らの右腕ごと、その光の濁流の「外縁」へと突き出した。

生身の腕を晒せば、一瞬で消し飛ぶ。だが、テオが狙ったのは光弾そのものではない。


光弾が超高速で大気を突き進む際、その周囲に発生する「空間の魔力歪み」。

テオはスパナの先端に自身の全魔力を集中させ、その歪みの境界線を、ほんのわずかに引っ掻いた。


狙う偏角は、わずか。


『光弾の外縁ベクトルを、左方へ0.01度偏向』


キィィィィン――ッ!!


鼓膜を震わせる金属摩擦のような怪音が広場に響き渡る。

テオのスパナと接触した瞬間、完璧な直線を描いていたはずの光弾が、ほんの「0.01度」だけ左へと傾いた。


「なに……!?」

アルフレッドの瞳が初めて驚愕に揺れる。


わずか0.01度の傾き。テオの立ち位置では、その狂いは数センチのズレでしかなく、光弾はテオの耳元をかすめて背後へと通り過ぎた。しかし、その先にあるものは――。


都市の中央にそびえ立つ、アルカナ・ハイヴの象徴、白磁の管理塔。


0.01度の傾きは、数百メートル先の距離において、数メートルの決定的なズレへと拡大する。

テオを外れた極大の光弾は、そのまま管理塔の基部――都市の魔力配線が最も密集する「メインサーバーの冷却パイプ」へと正確に突き刺さった。


ドズウゥゥゥゥン――ッ!!


激しい爆発音が響き、白磁の塔の根元から黒煙が上がる。


『警告:中央管理塔、冷却システムに致命的なエラーが発生』

『警告:魔力供給のフィードバック。術式に不整合スタックオーバーフローを検知』


広場に集まっていた聖騎士たちの網膜文字が一斉に赤く明滅し、彼らのアーマーからパチパチと制御不能な火花が散り始めた。完璧に管理され、バッファを排除していた都市のネットワークが、予期せぬ身内の最大攻撃によって大混乱パニックに陥ったのだ。


「お前……『神の声』の塔を狙って……!」

アルフレッドが怒りに顔を歪ませ、大剣を再び構えようとする。


「言ったはずだ」

テオは煙を上げるスパナを下げ、冷酷な笑みを浮かべた。

「遊び(バッファ)のないシステムは、0.01度の狂いで自滅する。お前の最強の攻撃が、お前たちのシステムをハックしたんだ」


管理塔の機能不全により、聖騎士たちの統率が完全に崩壊していく足音が、広場に響き始めていた。

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