44.高速詠唱
「早速荷解きを~って思ったけど、結構物少ないね。わたしもセシルちゃんも」
マリアさんは部屋に置かれた鞄や箱の前でしゃがむ。
私は必要最低限の物しか持ってなかったので、私物を全部詰めたとしても鞄の中にコンパクトに収まっている。
マリアさんも私よりは物があるとは言え、貴族としてはかなり少ない方だと思う。
「わたしってね、物が多い所とか、ちゃんと片付けられてない所とか苦手なんだよね。ほら、何だか窮屈で居苦しいと言うか、息が詰まると言うか。だから、自然と物が減っちゃうんだよね~」
そうなんだ。
私は別に物があってもなくてもそこまで気にならない方だから、あんまり感覚が分からない。
11年も森で過ごしてズボラになったのかな?
それに元は貴族とは言え、人間らしい扱いを受けてなかったから普通の感覚が分からない。
だけど、焦るべからず。これからゆっくり学んでいけばいい。
折角フェンリルがくれた機会。ありがたく使わせて貰わなくちゃ。
あ、そうだ。学園でフェンリルについて調べてみよう。
11年間一緒に過ごしていたとは言え、私はフェンリルについて詳しく知らない。
世間一般では、フェンリルは大昔に厄災を招いた悪い魔物だってなっている。
だけど、私の知ってるフェンリルは違う。
優しくて、側にいるだけで暖かい魔物。
どうして私の知ってるフェンリルと皆の知ってるフェンリルがこんなにも違うのか、気になって仕方ないんだ。
「セシルちゃん、どうしたの?」
私が黙り込んでいると、荷解きを始めたマリアさんが心配して声を掛けてくれる。
『大丈夫だよ』と伝わるように笑顔を作って、荷解きを始める。
私の鞄の中には必要最低限の物と……これは?
私は幾つもある中一冊の本を取り出す。
……絵本?
あ、そう言えば……!
─────
「文字を覚えるなら、まずは簡単な言葉を使っている絵本を読んだらどうかな?」
入学の前日の深夜。入寮に向けて荷造りをしていると、エルディさんが私に何冊もの絵本を見せる。
絵本の文字はあんまり分からないけど、絵で何となくの意味は分かる。
……確かに、これなら覚えやすいかも。
「それ、プレゼントするよ。入学祝いってことでな」
─────
深夜で睡魔に襲われながら準備していたから、絵本の存在をすっかり忘れてた。
私は絵本を開く。
これは……勇者の物語だっけ。
「あ、そのお話知ってる……!」
絵本を読んでいると、興奮気味のマリアさんが私の側にやって来る。
「これって大昔に実際にあった、勇者と大厄災のお話だよね!魔物や魔族が起こした大厄災に勇敢な勇者が立ち向かうお話!初めは国民を守るだけで精一杯だった勇者だけど、戦いの中どんどん成長して言って、最後は勇者が神様の力を借りて大厄災をはね除けたんだよ!このお話、私の故郷でも結構有名だよ」
興奮した勢いのままネタバレを食らった。
……いや、それよりも、マリアさんが目を輝かせて饒舌に語り出した方がびっくりしたかも。
マリアさんはこのお話が大好きなのかな?
なら、荷解きを終わらせたらマリアさんの解説付きでこの絵本を読もうかな。
今は早口過ぎて何を言っているか分からないし、興奮してるから少し熱が冷めた後に、ね?
私はマリアさんの高速詠唱を流し聞きながら、荷解きを続けた。
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