16.心配事と残業と
視点が変わります。
俺は今日も、冒険者ギルドの副ギルドマスターとして、業務に勤しむ。
ギルドマスターは俺に仕事を押し付けて、朝っぱらから酒を飲んでだらだらしている。
力がある。ただそれだけでギルドマスターになったんだ。端から期待はしていなかったが、まさかここまでだらしない人間だとは思っていなかった。
俺は山積みになった書類を横目に小さく溜め息を吐く。
この量を後二日──いや、日も沈みかけているのでほぼ後一日。エルフである俺でもストレスで早死しそうだな。
この他にも期限が迫ってきている書類はまだ大量にある。
ギルマスと二分割すればもっと効率が良くなるのだがなぁ……夢を見るのは止めておこう。現実が嫌になる。
「エルディ様、少しお時間よろしいでしょうか」
扉をノックする音と共に、ギルドの受付嬢──ネイの声が届く。
わざわざ俺の部屋まで来るなんて、何か問題があったのだろう。
「あぁ、入ってこい」
また仕事が増えると思いながらも返事をする。
「失礼します」
「どうしたんだ?」
俺は書類を書く手を止めずに用件を聞く。
「少し心配なことがございまして……」
「心配なこと?」
ネイはどちらかと言うと、物事を楽観的に捉える傾向があるのだが、そのネイが心配事を抱え、あまつさえ俺に相談しに来るなんて。
何があったと言うのだ?
「四日前に受理された、フェンリルの森の深部の調査依頼の件なのですが……」
フェンリルの森の深部の調査、それは冒険者ギルドが直々に出した依頼だ。
フェンリルの森は、フェンリルが魔素を大量に吸収しているため、残った濃度の薄い魔素から出現する魔物は弱い者ばかりで、初心者に人気の狩り場だ。
だが最近、魔物が活発化し、深部にいるはずの強力な魔物も姿を表すようになった。
その原因の調査として、ギルドで依頼を出していたのだ。
「それがどうかしたのか?」
「その依頼を受けたAランクの『白虎の牙』が帰って来ていないのです。もう調査期間を丸一日超えて……」
「何?」
俺は書く手をピタリと止める。
『白虎の牙』は、ここの冒険者ギルドのダブルエースの内の一つ。
『白虎の牙』の面々は馬鹿な奴もいるが実力は確かだ。そんなパーティーがフェンリルの森から帰って来ていない……これは間違いなく異常事態だ。
あの三人が負ける可能性のある魔物、フェンリルか、それとも新たに現れた魔物か?
どちらにせよ異常事態なのは間違いない。
「後二日経って帰って来なければ、冒険者ギルドから騎士団へ協力要請を出し、騎士団員とギルドからBランク以上の者をフェンリルの森深部へ派遣する。勿論、俺とギルマスもだ」
もし『白虎の牙』が魔物にやられたのだとすれば、ギルドの力だけでは対処しきれないだろう。
ここは騎士団と合同でフェンリルの森の調査をし、その全容を暴かなければ。
「Dランク以下の冒険者のフェンリルの森への立ち入りを規制する。ネイは冒険者達へその報告と、フェンリルの森関連の依頼を撤去しろ」
「承知しました。では失礼します」
ネイは頭を下げてから、急ぎ足で部屋を出ていく。
そう言えばネイは『白虎の牙』の一人と幼馴染みだったな。あのネイが心配する訳だ。
俺は伸びをし、徐に腰を上げる。
このことをギルマスに報告と、まだ協力要請を出すと決まった訳では無いが、騎士団にも報告しなければ。
もしもの時に円滑に話を進めるためにな。
俺は大きく溜め息を吐く。
これは残業確定だな。
セシル(出番無し!?)
フェンリル「ペロペロ」
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