挑発と道程
第七闘技場で開催されるという男女ペアによる決闘トーナメントについて詳細を聞くべく、アルガとステラは闘技場の受付にやってきていた。
第七闘技場の受付は主に決闘の申請を受け付ける場所であり、決闘士が闘技場において決闘を行うための手続きを管理する窓口である。木製のカウンターは人が二列で並べる程の横幅だが、第七闘技場の利用者は大して多くないため基本的に常駐している受付員は一人だった。
「あ、シスさん! さっきここで大会が開かれるって聞いたんだけど」
アルガが声をかけたのはお馴染みの受付員であるシスだった。アルガが決闘士登録をした時からの付き合いで、それからはほぼ毎日会っていると言ってもいい。
「藻屑くんじゃないですか。先程は決闘の勝利おめでとうございます。あら、ステラさんも一緒なのですね、これは失礼いたしました。それで大会と言うと……ご存じなのですか?」
「別に気にしてないわ。初めて負けたわけじゃないし。で、大会に参加しようって思ったんだけど、申請はもうできるの?」
シスはアルガに甘いところがあった。決闘士として体格も小さく、そのくせ威勢だけはいいアルガのことを心配になってしまうのは彼のことを弟のように見てしまっているからか。一応公平な受付員だというのに、アルガが決闘に勝利する度思わず讃えてしまうシスだった。だが、その真横に敗者であるステラがいることに遅れて気付き頭を下げたのだ。だが当のステラは然程機嫌を悪くした様子もなく、早く大会の説明をしろと催促をした。
「大会に出ると言うと……あなた方お二人で?」
「あぁ。ちょっと色々あってな……」
「まぁ。仕方なかったのよ……」
腕を組んで何度も頷いてみせるアルガとステラ。そこに何か深い理由があるのだと理解したシスは追及をすることはやめて、二人の大会参加を認めた。
「そうであればこちらに異論はありません。元々お声がけする予定でしたから。日程は決まり次第お伝えしますね」
「助かるよ。あ、それと明日の決闘申請もしてっていいか?」
「明日も決闘されるんですか? 藻屑くん根を詰めすぎてもいけませんよ? 体は決闘士の資本なんですから」
本来の受付の仕事になったことを察して、シスは自身の丸眼鏡を深くかけなおす。ただ、連日のように決闘を申し込んでいるアルガのことはやはり心配だった。アルガが何かしら目標を持っているのだとは把握しているが、それが何かまでは分からない。そこまでして急ぎたいものなのか。シスは男の子の気持ちを分かってあげられないことを内心嘆いていた。
「いや、俺は早く昇格したいんだ。少しでも機会を逃したくない」
「お、だったら俺とやろうぜチビ野郎。いやその顔どっかで見たな……ってあれか! お前が噂の藻屑騎士って奴か! こりゃお笑いものだぜ! なよっちい奴に騎士って名前はお似合いだな傑作だ!」
急に後ろから声をかけてきたのはガタイの良い大男だった。
そしてその大男の言う通り、騎士とはこの決闘都市において一種の蔑称でもあった。
この都市には騎士はいない。そして騎士とは他国から攻めてくる軟弱な者達の総称であった。有事の際に都市を防衛するのは決闘士だ。そしてその決闘士になぎ倒される弱者が騎士だった。そう蔑視する者が少なからずいた。
アルガの藻屑騎士という呼び名には当初、そういう意味が込められていた。だが、アルガが有名になった今、もはやそれはただの愛称でしかない。だが、この都市に初めてやってきて、都市の風習にかぶれ、そして今決闘士登録をしようとしているこの大男にとっては笑いの種であったというわけだ。
「おいおい、何黙ってんだ、あぁ? 決闘は本人達が了承すればそのペアで組んでくれるんだろ? ならそうしろよ。それとも俺から逃げて、でも昇格はしたいってか?」
「分かったよ。受けてやる。それとお前の名前聞くつもりないから。名乗んなくていいぞデカブツ」
アルガは一歩も退かずに決闘を受けて立った。
決闘の組み合わせは申請した者の中から無作為に決められる。だが、本人達の希望があればそれに沿って組むのも決闘の仕組みの一つなのだ。
この状況に慌てているのはシスのみ。ステラは男達の喧嘩っ早さにため息を吐いていた。決闘士にはよくあること。そしてそれを避けて通る者に天からの景色は見れない。それを理解しているステラだからこそただ単純にこう思った。
「アタシとペア組むことになるんだから。恥ずかしいとこ見せないでよね」
「人の試合暢気に見てるつもりかよ。俺とペア組むんだぞ? 気合見せろってんだ」
睨み合う。もう二人の視界に大男など映っていなかった。
「分かったわ。アタシも明日決闘するから。申請通しておいて」
「え、あ、はい。分かりました」
いきなり三つの決闘申請を受けたシスが一番忙しなく手を動かしていた。
「「とにかくここで勝てなきゃ憧れには届かない」」
二人が見ているのは遥か先の未来のこと。
それはずっと変わらない。何度負けようが、どれだけの日々が過ぎようが。
何が起きようと、その思いが途切れる気だけはしなかった。




