chapter27 瀬尾さんVSフローリスの勝負3秒
・銘:仲魔の卵
・属性:不明
・物理攻撃力:不明
・物理防御力:不明
・魔法攻撃力:不明
・魔法防御力:不明
・スキル:不明
宝箱の中に入ってたのは、直径50㎝ほどもある巨大な卵だった。
「これはいいもんっすよ。アタリの部類っすね」
とは『預言者』の言葉である。
「名前からして召喚獣とかの類いみたいだが?」
「召喚獣ってのは、魔力で他から文字通り召喚するものですから、召喚主の魔力がなくなったら消滅するっすけど、これは普通にいつもペットみたいに連れて歩けるっす。当然、戦闘とかも手伝うっすよ」
ああ、なるほどMMORPGでキャラクターの後をちょこちょこ付いて歩くアレか。
「で、何が出るんだ?」
「さあ? 孵化させないと不明っすね。ただ、まあ、ラミアが守っていたものなので、多分、爬虫類系のなんかじゃないっすかねー」
『預言者』の推測に、女性陣のほとんどが一歩後ずさった。
「いや、お前ら平気で『蛇肉』食ってたじゃないか?」
「あれは切り身で包まれてたから平気なの! 私だって生きた豚を屠殺して食べろとか言われたら躊躇するわよ」
瀬尾さんが女子を代表して理由を説明してくれたけれど、嘘だね。お前、嬉々としてオークをぶっ殺してたじゃねえか!
あと、いざとなると絶対に女子の方が肝が据わっているぞ。うちの学校は社会科見学会で、公共施設の屠殺場見学があったけど、豚や牛が解体される現場を見て男子がバタバタと気絶したのに比べて、女子は「うわ~っ」と言うくらいで誰もなんともなかっただろう。
「あ、ちなみに卵を孵化させる条件は――、
①スキル『調教』を持った者が必要。
②この人物が魔力を通す。
③孵化した魔物に認められる(場合よっては戦って上下関係を教え込む)。
――以上、これが最低限必要っすね」
スキル『調教』持ちか。となると――。
「瀬尾さんかフローリスのどちらかだな」
「「いやいやいやいやいや」」
途端に及び腰になるふたり。
「アンタだって『翻訳』持っているんだから、いつでも『調教』へ進化させることが可能でしょう。それで万事解決じゃない!」
瀬尾さんの指摘に、フローリスがウンウン頷いて同意する。
おかしいなぁ、いまの世の女子は平気で爬虫類をペットにするんじゃなかったのか?
「いやぁ、野菜や果物を食べるイグアナと、平気で人間を丸呑みするナイルワニとを同列に扱うようなもんっすよ」
俺の疑問に『預言者』が答えてくれる。
「そーいうもんかね。とはいえ、『調教』して懐いた魔物を戦わせるというのは、俺的に躊躇いがあるんだよなぁ」
昔、飼っていた愛犬のジャッキー。
俺が中学の時に「山に野犬が増えて人を襲うらしいから、お前、ちょっと行って片付けてこい」という師匠の無茶な修行の一環で、木刀とジャッキーを連れて行って、結果的にジャッキーを失うことになったので、あれ以来、自分に慣れている動物を戦わせることに微妙にトラウマがあって、ポ○モンとか見るのも嫌になったものだ。
そういった心情を吐露したところ、さすがに茶化したり無理強いしたりできない話だと理解したのか、瀬尾さんも悄然と肩を落として、
「ごめん。無神経なことを言って、上北君の心の傷を抉ったのね」
そう素直に頭を下げた。あわせてフローリスも泣きそうな顔で謝る。
「……いや~、実態は野犬の群れを粗方打ち倒したところで、気が付いたらジャッキーがボス犬の女だった雌犬と交尾していて、それを見て怒り狂ったボス犬が最期の力を振り絞って、諸共に崖下に転落したのが真相なんすけどね~」
ジャッキー(♂)秋田犬っぽい雑種。
享年8歳。腹上死。
「し~~~っ、黙っていろ! せっかく美談で収められたんだから」
余計なことを喋る『預言者』の口を閉じらせる俺。
幸い聞こえなかったらしい、瀬尾さんとフローリスとでお互いに譲り合いという名の押し付け合いをしていた。
「だったらジャンケンで決めましょう」
「ジャンケン?」
瀬尾さんの提案にフローリスが首を傾げる。どうやらこの世界にはジャンケンはないらしい。
「こうやって、ジャンケン――ポンで」俺にジャンケンを振られたので、適当に相手をする。「上北君がグーで、私がチョキだから私の負けね。他にもパーがあって……」
ルールを教えて、実際に何回か練習でフローリスとジャンケンをし合う。
「ね、簡単なルールでしょう。ウチの国では三歳の子供でも、なんかあるとこれで勝負を決めるの」
実際、勝率はお互いに五分といったところだった。
「うん。やり方はわかったし、簡単だけど……」
なんか裏があるんじゃないかと訝しむフローリスの内心が透けて見えるようである。
「ズルなんかしないわよ。一回勝負で正々堂々と決めましょう。負けた方が卵を引き取るってことで」
あ、やっぱ、卵は要らんもの扱いなんだ。
かなりレアなものだというのに、不憫な卵……。
そうして、瀬尾さんVSフローリスによる、『仲魔の卵』を巡ってのジャンケン勝負が開催された。
審判はなぜか『預言者』である。
「では、これより西方『胸元の寄り友』、東方『平の乳盛り』による、天下を決する桶狭間の戦いを行うっす」
「勝手に変な四股名と、不快な勝負の名前を付けるな、駄妖精!」
行司役で二人の中間を浮遊している『預言者』の呼び出しに、瀬尾さんが噛みついた。
「誰が上手いことを言えと……」
それを輪になって鑑賞している俺たち。
「では、時間一杯待ったなし。一発勝負っすよ。いいっすか?」
「「…………」」
『預言者』の最終確認に無言で頷きながら、握った手を互いに差し出す瀬尾さんとフローリス。
「では――」
一息置いて『預言者』がテンポよく掛け声を放った。
「せぇの……最初はグー!」
「え!? えええええええええ……?!?」
目を白黒させながら、一発目でチョキを出したフローリスが、慌てて手を引っ込める。
「ジャ~ンケ~ン――ポン!」
結果――。
瀬尾さんがパーで、フローリスがタイミングがつかめずにグーのまま出して、瀬尾さんの勝ちとなった。
「いえ~い、ビクトリー!」
「えええええええええええええっ!?」
勝ち誇る瀬尾さんとは対照的に、フローリスは思いっきり納得のいかない顔で、やり直しを希望しているような雰囲気を醸していたが、性格上それを口に出して言えないようだ。
「……つーか、お前、割とエゲツナイな」
戻ってきた『預言者』にそう囁くと、
「……う~ん、なんかあの卵はフローリスが孵したほうがいいような気がしたっす」
そう曖昧に答えながらも、何かを確信しているような顔で、二カッと笑う『預言者』。
最近、『預言者』の行動に自意識の影が見られる気がする。
そう思いながら、俺はしぶしぶと重い足取りで宝箱に収められた卵に向かうフローリスの後姿を見送った。
社会科見学の話は作者のガチ体験です。




