プロローグ
僕の身体に異変が起こったのは、ちょうど八歳の誕生日を迎えた日だった。
僕は兄弟の長男で、とても可愛がられていた。僕の二つ下にアルフォンスという弟がいたけど、こいつは誰に似たのか、意地っ張りでわがままな性格で、僕とはあまり仲が良いとはいえない関係だった。
でも、父さんも母さんも僕とアルのことをとても愛していたし、僕らも、両親が大好きだった。とりあえずは、幸せな家庭を持っていたんだ。
僕の運命をまるごとひっくり返した、あの日が来るまでは……
誕生日の晩に、僕の八歳を祝う盛大な誕生パーティーが開かれ、たくさんの村人が家に集まった。フィナーレに、母さんが作った特大誕生日ケーキが運ばれ、ケーキにささった八本の色鮮やかな蝋燭を吹き消すとき。部屋の灯りが消され、蝋燭の小さな炎の灯火だけになると、集まった人々がハッピーバースデーの歌を楽しげに歌った。皆笑顔で、天使でも見るように僕を見ていた。歌が終わり、母さんが耳元で蝋燭を吹き消すように囁いた。そのときの、優しく温かい声も、ちらりと見た笑顔もとても幸せそうで、僕にもその幸福感が伝染してにんまりと笑ったことを覚えてる。あのアルでさえも、美味しそうなケーキを前にして上機嫌なのか、僕にこっそりと笑いかけてくれた。僕も気前よく笑顔を返す――その瞬間だった。僕の首筋から背中にかけて、心臓が止まるほど冷たいものが、さあっと通り過ぎていったのだ。途端、その幸福感が揺らいで、少しづつ薄れていった。幸福感が完全に消えてしまわないうちにと、慌てて空気を小さな肺一杯に吸い込んだ――――まさにそのとき、事は起こった。
八本の蝋燭の火が一斉に消え、部屋の中が真っ暗になる。声を上げる暇さえなかった。
僕はまだ、息を吹きかけていない。
何がなんだか分からなくなったけど、蝋燭を消しやすいようにと僕を抱き上げていた母さんの腕が小刻みに震え、指先に僅かな力を加えたのが分かった。
その場にいた全員が僕に注目していたから、僕が息を吹いていないことはすぐ解ったはずだ。それにその日は、風が強く冷えるので、家中の窓は全て閉まっていた。
部屋の中は、しん、と静まり返った。
この村には、ある伝説があった。
今から、一〇〇年ほど前のことだ。村に一人の男がやってきた。長旅でよほど疲れていたのか、村の門をくぐると男はその場で倒れ、気を失ってしまった。
男は幸運にも、人情深い村長の家へ運ばれ、村の者が順番に訪れ、手厚く男を看病した。それがよかったのか、男の容態は日に日に良くなっていった。ある日、ある若い娘が男の看病に行ったとき、一目見た瞬間二人は恋に落ちた。短い交際の後、やがて二人は結婚し子供も生まれ、幸せな日々が続いた。
しかし、男は、ある重大な秘密を持っていた。それは、秘密と同時に、当時とても重い罪だった。男は、この世で最も邪悪な魔力を操る、魔術師だったのだ。そのころ魔術師は、人間の恥だと罵られ、たくさんの人々から批判されていた。その時代、魔女狩りこそやっていなかったが、それと似たような魔術師の処刑は、頻繁に行われていたのだ。――男はそのことを、愛する妻にも、親切にしてくれた村人たちにも黙っていた。言ってしまえば、この幸せな日々は永遠に戻ってこないことを、知っていたから。
ところがその村で、感染病がはやりはじめ、村民は予防接種を義務づけられた。当然男も予防接種に行ったが、そのとき、男のたくましい腕に、魔術師になると付けられる焼印があるのが見つかってしまったのだ。それを見た医師はすぐに王宮に連絡を取った。家族とは、強制的に隔離されてしまった。
魔術師だと判明すると、男はすぐさま死刑になった。その場で魔法を使い、逃げることも出来たが自分にこれまでよくしてくれた人々を傷つけることを、どうしても男の良心は許さなかった。宣告をされたとき、男は己の力を振りしぼって百年に一人、その国に生まれつき魔術の能力を持った子供が生まれるよう呪いの予言をしたのだ。
「その子がちょうど八歳の誕生日を迎えるとき、ろうそくの火は消え、家族の絆は永遠に断ち切られるであろう。それはその子に悪魔が降臨した合図・・・呪われた魔術を操る子供が、生まれるであろう。そして、いずれこの世を支配し、滅ぼす存在となる!」
男は死に際にそう叫んだ。
その言葉は、人々を恐怖で震え上がらせた。この時代、魔術師の魔力がこめられた予言ほど、怖いものは無かったのだ。魔術師の予言が外れたことなど、過去ももちろん現在も、一度も無いのだから。
それは、今までずっと仲良く暮らしていた妻子に、魔術師とわかっただけで見捨てられた深い深い悲しみと、どうして魔術師だけがこの世界に受け入れてもらえないのかという悔しさや怒りが入り混じった、強力な呪いだった。
そして今、この村に呪いの子が生まれた。―――この僕が




