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再びの戦馬鹿

【天正15年03月13日】


鶴賀城を秀勝の重臣に引き渡す。


「余計なことをしてくれましたな」


その際、重臣の男は苦々し気に言ってくれたものだ。


「どういうことだ?」


「府内城では講和が進んでいたのですよ」


詳しく聞けば。3月のはじめに小倉に到着した秀長は、高野山の僧侶である木食応其もくじきおうごを府内城にこもる島津義弘に寄越して、講和を進めていたらしい。


もっとも、俺は知っている。

その講和はどうしたってまとまらなかったことを。


であればこそ九州平定という戦は始まるのだ。


実際、俺たちは府内城の傍を何事もなく通り過ぎて鶴崎城まで到達している。


察するに府内城内には必要最低限の人数しかいなかったのだろう。

そして秀長も人数が少ないことを知っていながら見過ごしていたはずだ。


何故ならば、豊臣・島津、共に時間稼ぎをしたかったからだ。


豊臣は軍勢が集まるまでの時間が欲しかった。

島津は、豊臣の軍勢がコケ脅しなのか見定める時間が欲しかった。


大方そんなところだろう。


もっとも、そんな裏の事情は秀勝にしたら関係がないようだ。いいや、俺という人間に勲功をやるのが嫌なのだろう。


「講和が破綻したのは、津野殿の責任ですぞ」


ということになっているらしい。


「城を2つも落としたというのに、褒美の言葉どころか、なじるとは」


「なんと器の小さい」


文六と妙林尼はぷりぷりと怒っている。

無論のことだが49人の配下も、妙林尼に従ってきた日向後家衆もだ。


ともあれ、俺は鶴賀城を後にした。


鶴崎城から来ていた女どもを引き連れて出ていく俺に、重臣殿が何事か言っているが、あ~聞こえない。

どうせ、女を置いて行けとかそんなことを言っているのだろう。


それは無理だ。日向後家どもは妙林尼と同じように死を望んでいた。

それを俺が説得して、命脈をつないでもらっているのだ。そんな彼女たちを置いていけるものかよ。


1日かけて戻った鶴崎城で、一部の日向後家と別れる。

別れる女衆は、ひと言でいえば若い女だ。ココに残って、改めて良縁を求めるのだ。


しかし、である。文禄2年(1593年)には、大友義統が改易されて鶴崎城も廃城となってしまう。

天正15年の今から、たった6年後のことだ。


だから、俺は残る女たちに言い渡していた。


「困ったことがあれば四国は土佐の播磨屋宗徳か松本重則を頼るように」と。


彼等には、手紙で様々な技術を授けていた。

もっとも今はまだ、その先進的な技術の開発に手間暇と資金を投じていて儲けはないらしい。


今は、まだ。


6年後には、違っていることだろう。






【天正15年03月15日】


鶴崎城で1日、体を休めた俺たちは再び出発した。


そうして1刻ほどを歩いたところで、俺は大笑いをしてしまった。


突然、笑いだした俺に妙林尼と文六が驚いているけど、これが笑わずにいられようか。


俺は一行の歩みを止めると、1人で大木の根元で座っている男のもとへと進んだ。


「よぉ」


男が片手を上げて、気さくに挨拶をする。


「あんた、何してんだよ」


「決まってんだろ、お前を待ってたんだよ」


「殺る気、満々かよ」


府内城の島津軍は撤退してるというのに。

こんなところで、しかも1人で居残ってるだなんて狂気の沙汰だ。


だが…それが面白い!


俺は輝かんばかりの笑顔をうかべている島津豊久いくさばかに近づいた。


「今日は、あの顔に傷のあるオッサンはいないのか?」


「撒いてきた」


「苦労するなぁ、あのオッサンも」


思わず苦笑してしまう。


「苦労させてるとは思ってる。だが、これは性分だからな。変えられん」


「ああ、分かる。変えられんよな」


お互いに「へへっ」「ハハっ」と笑いあう。


笑いあって。


「さて、殺るか」


「応さ」


俺は槍を、豊久は刀を構えた。


「若!」「孫次郎様!」ここに至って文六と妙林尼が騒ぐが、戦国の人間だ。俺と豊久の邪魔だてなぞはしない。


先ずは挨拶とばかりに豊久が突っ込んできた。

相変わらず不可思議な体さばきをする。蛇のようにヌルリと動くのだ。加えて、突き出した刀に体が付いてくるとでも言おうか。習って身に付くものではない。元来のものなのだろう。


槍を繰り出す。

普通なら避けるか後退する。


だが、豊久は尋常ではなかった。

奴はむしろ身をさらに低くして獣がとびかかるが如く殺到したのだ。


背筋が泡立つ。


切っ先が目前に迫っていた。


咄嗟にブリッジの要領で背後に倒れ込んだ。


刃が顎の先をかすめる。


そのまま俺は邪魔になってしまった槍を手放すと、両手を地面について、更に腕の力でもって跳んだ。


「すげぇ」


豊久が目を見開いて感心している。


「いや…実を言えば俺も驚いてる」


あんなジャッキ〇・チェンみたいな動きができるとは思わなかった。

というか。豊久の突きをかわせたのは運でしかない。


「お前、ほんとーに面白いな。なんとしてでも首が欲しくなったぞ」


「悪いが、この首はやれん。俺が死ねば、せっかくモノにした女を悲しませるからな」


「色男だぁね」


チラと妙林尼に目をやった豊久が「カカッ」と歯を見せて笑う。


不味いなぁ。軽口をたたきながら俺は困っていた。

どうにも勝てそうにない。


前回は偶然に槍と刀がかち合ったおかげで、殴り合いにもつれこんだようなものだ。


しかも、俺は得意の槍を手放してしまっている。


こりゃー……死ぬかも知れんなぁ。

これから、どうやって巻き返そう…。

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