第十二話 永遠のOオー ~新地の売春ホステス達~
『永遠の0(ゼロ)』とは、言わずとしれた百田尚樹による、――ある特攻隊員にして凄腕の零戦パイロットの、数奇な生涯と稀有な生きざまを描いた感動小説である。映画化され、大ヒットしたようだから、大変おもしろいに違いない。興味ある人はぜひ、原作か映画をどうぞ。
一方、本物語 『永遠のO』とは、大阪は北新地にいるという、 ―― 金のためならどんな客にも体当たりする、通称、〝特攻隊〟と呼ばれている、売春ホステスたちを描いた官能小説である。
いまだ、映画化される話はない。
*
俺が初めて、その存在を知ったのも、やはり新地のスナックであった。ママとのたわいない話の中で、下ネタに発展すればと、俺はこんな話題をふったのだった。
「ママも、金持ちそうなじいさんが来たら、枕営業とかすんの?」
「はぁ!」
「さすがにそれはないか。あんなもん、小説かドラマの中だけやもんな」
「アホなこと言わんといて。せんわけないやん」
「せやろ。せんわけ……って、えええええ…… すんの?」
そろそろ還暦かと思われる、このババア系ママの、あまりにも意外な発言におののいた。
「ちょっとタケ、なに? そのあからさまなリアクション。しばくでぇ。あたしかて、生まれたときからババアやったわけちゃうねんからな」
「ちゃ、ちゃうねん。清純派のママが、そ、そんなことするなんて……」
――吐きそうになった。
「あぁ、そういうこと。タケちゃんやったら十円でええでぇ」
「ご、ごめんママ。俺、カミさん一筋やから。ママとは、生まれ変わってからな」
「ほんまやな? タケが生まれ変わるまでずっと取り付いてやるからな」
――虫唾が走った。
ママの話によると、新地では枕営業することは、日常茶飯事らしい。売り上げに貢献してもらえる客なら、一晩くらいなんでもないというのだ。
「だって一晩付き合ったかて、エッチすんのなんで、せいぜい十分か二十分やで。あとは、ごはん食べてお酒飲んで、あっという間に朝になんねんて」
このママの手口は、客をぐでんぐでんになるまで飲ませて早く寝かすか、自分がぐでんぐでんに潰れるかのようだった。
ただ昨今は、そんな景気のいい客など、まったくいないのも事実らしい。
「そういうのじゃなくて、よくいう接待で〝女抱かす〟的なのってあんの?」
「あるよ。お金もらって、あの客と寝てきぃって、女の子行かすねん。そういう子らのこと、なんていうか知ってる? 〝特攻隊〟って言うねんで」
――衝撃だった。
俺は、すかさずママに、
「え! この店にはおれへんの? 特攻隊。エミちゃんとかどう?」
「あかんあかん。エミは、ただのアルバイトやから、そんなことさせません。だいたいタケみたいな小舟に突っ込む価値ないやん」
「失礼な。そんなこと言うんなら俺がエミちゃんに突っ込むぞ」
「さっきの『カミさん一筋発言』が聞いてあきれるわ。なんならあたしに突っ込んでみるか?」
「あかんて。ママの純潔をもて遊んだりでけへんて。それならコンニャクにでも突っ込んどくわ」
「お前、絶対しばく」
衝撃の売春特攻隊は、一日五万円くらいから、目標の客にアタックするらしく、接待元の業者から発注されることが多いそうだ。
「誰か俺をターゲットに発注してくれる業者さんおれへんかな。ママ、そんな業者がおったら、絶対にエミちゃんか裕美ちゃんにしてな」
「なに言ってんの。タケを沈めるんのはこのあたししかおれへんやろ。大丈夫、あたしが発注しとくから」
(オーエー)
その日は、吐き気がおさまらない夜になったのであった。
『永遠のOエー』てか?




