四
*
「……そして、三人目はあなたです。そこから先はあなたが知ってのとおりの私です」
幸の話が終わり、佐野はふぅっと息を吐いた。
「うん。ありがとう。中々楽しかったよ」
彼は隣に座る彼女を見た。彼女は無表情のままだが、少々疲れているようだ。
「……楽しめたのでしたら幸いでした」
「幸の話からすると、俺と出会ったのは一番初め幸と暮らしていた人と離れて大体三年ぐらい経った時か?」
「そうですね。正確には三年と八ヶ月と一日ですが」
細かいな、と佐野は思ったがそれは気にせず、立ち上がった。
既に日は傾き始めており、後二時間もすれば夕日が見えてくるだろう。
「今まで出会った人たちの名前って聞ける?」
幸も立ち上がり、首を左右に振った。
「いえ、それは出来ません。彼らに許可を貰っていませんから」
佐野は、青山は一番初めに幸が話した『彼』なのか、また二人目の『彼』なのか分からなかった。それを佐野は知りたかったのだが、彼の予想通り幸は頷かなかった。
「そうか」
何となく笑ってしまった彼は、幸に言った。
「んじゃ、夕飯でも食いに行こうぜ。今日は俺が奢るよ」
「いえ、お手を煩わせる訳には」
それに佐野は再び笑った。ここまで真っ直ぐに歪んだ女に笑うしかなかった。
「まあまあ、今日の話代って事で手を打とうじゃないか」
「……ありがとう、ございます」
幸はぎこちなく頭を下げた。それに佐野はまた笑ってしまった。
彼らはそのまま適当な店に向かって歩き出した。佐野の表情は笑みのままだ。けれど、その笑みには楽も喜も存在しなく、どちらかというと空しさが存在していた。
何故、自身が拒絶されたのか、本当に分からない幸に、佐野は笑う事でしか態度を示せなかったからだ。




