第2話
私は前世で雷が落ちて死んだ。自分でも誇れてしまうほどの死に方だったと思う。
そして転生したのが大好きだった乙女ゲーム、『稲妻よりもはやい恋』。雷に打たれて死亡したのは、ある意味縁だったのかなぁと思う。
乙女ゲームマニアだった私の中で、もっとも大好きだった作品だ。なにせ、声もいいし、絵柄もいい。シナリオの構成やイベントなども好評な作品。
どのキャラも素敵だったけれど、私の推しキャラとなったのは、王太子であるアグナード殿下。とにかく無愛想で冷徹、冷静。容姿、学力、剣術すべてに置いて完璧。女性がやや苦手っていう設定が私の心をくすぐってきた。
そんな推しのいる世界に私は…乙女ゲーのヒロインを虐める悪役令嬢グレーテに転生してしまったのだ。
「私は殿下と結ばれないかもしれないってこと…?」
転生したその日は、屋敷の屋根の上でギャン泣きをしていた。彼が手の届くところにいるというのにヒロインと結ばれてしまうかもしれない。なにせ、メインルートは王太子ルートなんだから。
ギャン泣きをしているのは使用人にとっても家族にとってもさぞ驚いたことだったのか、みんなが私に理由を聞きにやってきた。けれど、私がどこぞの異世界から来て、転生した先がこの乙女ゲーの世界で、なんと悪役令嬢だったから失恋したと誰も信じてくれるはずはない。
父は本当に私を心配して医者を呼んだ。勿論、以上はなしで健康体だった。
となれば、父は使用人に嫌がらせを受けたのではないかと考え、全使用人を一人ひとり自身の書斎へ呼び出して事情聴取をしていた。そんなこと、これぽっちもされていないが…。
さすがにこれはやばいと危機感を持った私は両親に説得をした。母は「泣き止んでくれてよかったわ。」とその一言だけ言った。貫禄があり、芯を持っていてとてもいい母だと思う。
それに比べ、父は逆に泣いていた。「もう大丈夫なのか!この使用人たちが嫌なら全員クビにしてもいいんだぞ!」と怖いことを言っていた。この人は過保護通り越してやばい人なんじゃないかとさぞ思う。
私はギャン泣きはしなくなったけれど、悔しさのあまり部屋でいじけていたときだった。ザビエルが私の背中をさすってくれたのだ。
「どうされたのですか、お嬢様。私でよければ、なにか協力致しますよ。」
「失恋したの。」
「…え?もしや、セバスチャン様となにかあったのですか?」
「聞いて驚かないでね…?私が本当に好きなのは…アグナード殿下なの!」
私の衝撃的な告白にザビエルは「あぁ…。そういうことか。」と声を漏らしていた。
「つまりお嬢様は殿下に恋をしてしまったが、自分はセバスチャン様の婚約者であるため、失恋したとおっしゃっておられたのですね。」
…ま、言ってしまえばそういうことよね!うん。そういうことにしておきましょ!
「こちらから、セバスチャン様の婚約を破棄することは難しいことですもんね…。」
そうよねぇ。婚約破棄をしてくるなら、セバスチャンからじゃ、ないと。ん?待てよ。
私はあることに気づいてしまった。
たしかセバスチャンルートってあったよね?ヒロインがそっちのルートに言って、私が婚約破棄をされれば…
「私にチャンスがある…?」
「どうかされましたか、お嬢様?」
となれば、行動あるのみよ!
「執事。私に協力すると言ったわよね?」
「おっしゃいましたが…。どうかされたのですか?」
***
「神社…?」
ザビエルはこの場に訪れて首を傾げていた。
「いい?執事。私達は最低でも週に1回はこの神社に来てお参りをするのがミッションよ。そして願うの。セバスチャンが私と婚約破棄をしてくれるのを!」
「…私はお嬢様が馬鹿だということに気づいてしまったかもしれません。」
どこがよ。我ながらいい作戦だと思うわ。
私はポケットからある小袋を取り出した。その中には金貨がありったけと入っている。
「よっと!」
「お嬢様!?」
執事は賽銭箱に金貨をぞろぞろと入れる私を見て驚いた表情を浮かべていた。
「そんなに入れてどうするのですか!」
「賽銭よ。」
「賽銭でそんなに入れる人…初めてみましたよ。」
「当たり前じゃない。こんなに願いを叶えてほしいって思っている人、私以外いないんだから。」
礼、手を叩く。その後に私は深く願い事を心の中で唱えた。
セバスチャンとヒロインが結ばれて、私を婚約破棄してください。そして私が殿下と結ばれてハッピーエンドでお願いします、神様!
「ふぅ。」
唱えが終わった後、執事は私に言った。
「これを週1でやるのですか…?」
「当たり前じゃない。」
そうよ!これは、作戦名…神頼みなのだから!




