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世界を旅した少女の話  作者: 空猫このは
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第6話「飛行艇と空飛ぶ魚」

飛行艇ブルースカイが飛び始めてから、数時間が過ぎた頃。



シャルルは客室のベッドで横になっていた。

まだ白紙に近い手帳をパラパラと捲り、これからどんな事があるのだろう?どんな景色が見れるのだろうかと想像していた。


手帳には試練の洞窟最深部の景色の絵と、記憶が曖昧だが、一応書いたゴブリンの親玉の絵が描いてある。あとはデオールの街の絵も描いた。重要な出来事では無いのかもしれないが、シャルルにとっては、旅の始まりの絵だ。これは欠かせない。


新たにブルースカイの絵が描かれるのは言うまでも無い。



「はぁー...眠れない...」


横になり、随分と時間はたったはずなのだが、妙に眠れない。シャルルは遠足前に眠れないタイプだ。ワクワクして、妙に気が高揚してしまう。


旅の始まりの初夜だ。しかも憧れていた飛行艇ブルースカイに乗っている。そりゃワクワクもするだろうが、こんな事で眠れないとなれば、今後の旅はいつ眠れるのだろうか...。




「夜風でも浴びようかな」


シャルルは起き上がると、いつも着ているコートを羽織り、扉を開け外へでた。空の上を飛行しているために、冷たい夜風が吹き抜けてくる。しかしそこには、シャルルの見たことの無い景色が広がっていた。


「わぁ...これ全部星なんだ...」


シャルルの目に飛び込んできたのは、見渡す限りの星空だった。現在飛行艇ブルースカイは海を横断中だ。光はブルースカイにあるランタンの光だけ。シャルルの居た島でも、星は綺麗に見えていたのだが、雲の上を飛行しているブルースカイからの星空は、また一段と綺麗だった。


シャルルの瞳にも、星空が映り込んでいる。まぁそれを見ている者は居ないのだが...。





そんな一面の星空を眺めていると、遠くから何かの鳴き声が聞こえた。鳥だろうか?とシャルルは当たりを見渡す。しかし、何の陰も見えない。身を少しだけ乗り出して前を見ると、そこには大きな魚影があった。


「あれってまさか...!果物屋のおじさんが言ってた...!」


____空を飛ぶ魚の魔物!!




魚にしては、妙に大きい。

ブルースカイよりも大きいかもしれない。

そんな大きな魚影が、空を泳ぐように動いている。もしも噂が本当で、あれがブルースカイを襲ったとなればひとたまりも無いだろう。一撃突進されただけで、木っ端微塵かもしれない。


シャルルは急いでデッキへと向かった。

そこから見ればしっかり視認出来るはずだ。

シャルルがデッキに着くと、魚影は少し遠ざかっていた。しかし、まだ視認は出来る。鳴き声も確かに聞こえていた。


遠ざかる黒い魚影を見続けていると、魚影の周りを雲が覆うように現れる。そして魚影が雲に包まれると、その姿は消えてしまっていた。


「...何だったんだろう...あれ...。魔物なら襲ってきてもおかしくないのに...」


何事も無く風を切り空を進むブルースカイ。

シャルルはデッキから暫く、先程まで居た筈の魚影を探す。魚影が消えても、シャルルの耳には確かに鳴き声が聞こえていたのだ。



空の旅一日目の初夜にして、シャルルは確かに噂の空飛ぶ魚を見たのだった。



___________○___


次の日の朝。

一睡も出来ずにいたシャルルは、フラフラになりながら食堂へと足を運んだ。



ブルースカイに乗る乗客は多いのだが、食堂のスペースが少し狭いため、時間をずらして料理を提供するスタイルだ。指定された時間に来てくださいとアナウンスもあるし、乗務員がわざわざ教えに来てくれた。



食堂の椅子へと座り、出された水を一気に飲み干す。眠気覚ましというか意識覚ましというか。ボヤッとした意識をなんとかしなければ。



そんなシャルルの様子が、明らかに調子が悪そうに見えたのか、料理を持ってきた女性に声をかけられた。



「はい、お待ち。あらあら、お客様大丈夫ですか?顔色が優れないようですけど。」



「いえいえ...大丈夫です。ただ昨日、一睡も出来なかっただけで...。」シャルルは苦笑を浮かべながら答える。


「ふふ、空の上で寝るなんてことは滅多にありませんからねー。中々寝付けないと言われるお客様も多いんですよ?揺れもありますしねー」



「そうなんですか...。あ、そうだ。一つ聞きたいことがあるんですけど__」


シャルルは昨日見た空飛ぶ魚の事を話した。

誰か見ていないか、あの魚について知っている人は居ないかと。しかし返答は、そんな影は見たこと無いし、昨日もそんな魚影は見えていないとのことだ。


勿論、ご飯を食べ終わってから警備兵にも質問をしてみたが、結果は惨敗。

一晩中警備していた兵士が居たが、そんな報告は受けていないし、鳴き声も聞いていないとの事だった。



「はぁー...夢でも見てたのかな...。」


シャルルは自室の客室へと戻り、ベッドに横になった。昨日は確かに寝ていないはずなんだけど...。夜風の冷たさも、夜景も本物だったはずだ。となれば、あの魚影だって__。


しかしそれを見ていたのはシャルルしかいない。鳴き声を聞いたのもシャルルしかいないという状況だ。当然信じてくれるわけも無い。だが噂は確かに本当だった。


ブルースカイの航路に

空を飛ぶ魚の魔物が居る__。


あれは魔物なのだろうか...。

シャルルはそんな事を考えながら、いつの間にか睡魔にやられ、眠ってしまうのだった。



次にシャルルが目が覚めたとき、朝眠りについてから昼を少し回った頃だった。背中を伸ばしつつベッドから起き上がる。少ししか寝ていないはずなのだが、目は冴えていた。先程よりも調子も良い。



鞄の中へと仕舞っていたグラシアの実を一つ取り出すと、一口囓る。丁度お昼時で小腹も空いていたのでグラシアの実の大きさが丁度良い。


グラシアの実を堪能していると、外からバタバタと走り回る音が響く。何かあったのかなとシャルルは客室の扉を開けて、廊下を見る。甲冑を着た警備兵が、奥へ走ってゆくのが見えた。


シャルルはグラシアの実を食べ終わると、ゴミ箱に捨ててコートを羽織り、外へと出た。

相変わらず空を飛び続けているため、風が強い。雲の流れがいつもよりも速く感じる。


手摺りに掴まりつつ、デッキへと向かうと先程の警備兵が飛行艇の周りを確認している様子が見えた。


「ねぇ、何かあったの?」


「いいえ、特に何も無いのですがね。すいませんお騒がせして__。」


警備兵がシャルルの方を見た時、警備兵の表情が変わった。シャルルにも面識がある。朝に空飛ぶ魚の魔物を見ていないかと問いかけたあの警備兵だ。


「あぁ、お客様は知っているのか!」



随分と焦っている様子だった。

あまりにも急な事に、シャルルも困惑してしまう。先程まで丁寧な言葉使いだったのに。それだけ緊迫しているのだろうか...。


「え?知っているって何を__?」


「ほら、昨日の晩に空飛ぶ魚の魔物を見たと言っていただろう?先程、伝書鳥が来てな。飛行艇がその魔物に襲われたらしいんだ。」


「え?!そ、それは本当なの!?」


「あぁ。間違いないらしい。なんとかケルト帝国まで辿り着いたらしいんだがな...飛行艇はほぼ壊滅状態だったそうだ。そして今飛んでいる場所が___。」


変な所で察しの良さが発揮された。

まぁここまで丁寧に言われたのだ。分からない方がおかしな話だ。


「先に出た飛行艇が襲われた場所...」



「__そうだ。先程のはすまなかったな。まさか本当に出ていたとは思わなかったんだ。そう言えば姿を見たんだろう?どんな姿だった?」


「いや、実は影しか見えなくて...それに夜中だったし。鳴き声は聞こえてたんだけど、雲に隠れて消えちゃったから、どんな姿なのか分からないの」


「そうか...今その鳴き声は聞こえるか?」


シャルルは耳を澄ませた。風の音の中に、昨日確かに聞こえた鳴き声を探す。しかし独特な鳴き声は聞こえなかった。


「いいや、聞こえない...。」


「うーむ...分かった。この事はケルト帝国の騎士団に報告しておく。すまないな。」

少し落ち着いたのか、警備兵はため息を一つこぼした。


「あぁ、そうだ。名前を聞いておいてもいいか?飛行艇ブルースカイで、あの魔物を見た唯一のお客様だ」


「私の名前はシャルロット。シャルルって呼んでくれたら嬉しいかな」


「分かったシャルル。このまま無事にケルト帝国まで飛んでくれれば良いが...。それではな。あぁ、他のお客様には秘密にしておいてくれ。こんな空の上で騒ぎになると、どうにもならなくなる」


「うん...分かった。」


それでは。と警備兵は歩いて船内へと戻って行った。シャルルはと言うと、不気味な感覚に襲われる。シャルルがあの魚影を見た時にはもう襲われていたのだろうか?襲った後だから、ブルースカイは襲われなかった...?


シャルルはデッキを後にして自室に戻った。

コートをかけ、ベッドに横になる。


「はぁ...あの魚...一体なんなんだろう...」


窓から見える景色を寝そべりながら見る。

シャルルはどうしても、この不気味な感情を拭うことは出来ないのであった。








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