表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
世界を旅した少女の話  作者: 空猫このは
4/29

第3話「試練を越えて」


森の中へと逃げた二人は、息を潜めながら木の陰へと隠れた。シャルル一人なら逃げ切れるかもしれないが、今は子供が一緒だ。


無茶させるわけにはいかない。

それに、怪我をさせるわけにもいかない。

旅人は常に、弱き者のために___。


シャルルしゃがみ、少年の肩を掴む。


「いい?私の言うことをよく聞いて?今から私が、あの魔物の足止めをするから、君はこれを持って直ぐに逃げて。いい?」


シャルルは鞄なら、薬草を取り出すと少年に手渡す。少年は不満そうな顔をしていたが、シャルルの真剣な眼差しに、頷くしかなかった。


少年はポケットにしまっていた木の実や野草をシャルルに手渡す。


「これ、シャルルお姉ちゃんが居ない間に集めたんだ。」


意外なプレゼントだった。今まで、プレゼントを貰うことは殆ど無かったのだ。


貰えたのは、師匠からの依頼の報酬くらいしかなかったために、非常に感激していた。


シャルルは手渡された野草や木の実を受け取ると満面の笑みを浮かべる。


「本当に?!ありがとね。これがあればきっと何とかなるよ!」


わしゃわしゃと少年の頭を撫でる。

少年は喜んでもらえたのが嬉しかったのか、笑みを浮かべた。


「うん!シャルルお姉ちゃん。」

      

そんな癒やしの時間は、一瞬で終わってしまった。もうそこまで、ゴブリンの子分が迫ってきていたのだ。


「それじゃあ、また後でね。絶対君だけは守るから!」


「シャルルお姉ちゃん...また後で...僕...待ってるから!!」


シャルルは少年の背中をポンと押した。

少年はまた森の中へと走り出す。


振り返らない。約束したんだと言い聞かせながら、少年は走った。


走り去るのをゴブリンの子分が見つけ、そちらに走り出そうとしたとき、刃がゴブリンを

貫く。


「悪いけど行かせないよ...!あんたたちの相手は私だぁぁぁ!!」


シャルルは剣を構えて子分達に向かい突撃していく。自分の事はいい。


あの子が無事に母親にあの薬草を届けてくれればそれでいい__。





突撃し、何匹か倒すことは出来たのだが。


他の子分達にあっという間に囲まれてしまい、総攻撃を受けた。


防ぎきれるわけもなく、攻撃を受けてしまった。


今までの疲れと、蓄積されたダメージに、シャルルはついに膝をついてしまった。


剣を支えになんとか立ち上がろうと、力を入れる。



そうした最中、ゴブリンの親玉が目の前に現れた。そして力を込めて棍棒を振り上げ、トドメをさそうとした。


絶体絶命だが、誰かの為にと頑張ったのだ。

「...こんな所で...いや...私は...!」


なんとか立ち上がり剣を構えるも、振り下ろされた棍棒を、剣で受けようとしたが、力及ばず。シャルルの体を吹き飛ばしてしまった。


数メートル飛ばされ、地面を転がる。

それでも体を起こそうと力を入れたが、流石にもう立てなくなっていた。


「ぐっ...あぁ...、流石に...ここまで...かな」


もう立てない__。

魔力も無いし、体力だって__。




ぼやけた視界の先に、ゴブリン御一行がこちらに向かって歩いてきている。


「いや...まだだめ...せめて...せめて子分だけでも...」




これが最後。本当に最後だと覚悟を決めた。

無理矢理に体を起こして立ち上がった。足も震えているし、体中あちこちが痛い。もう正直、寝ていた方が楽だ。寝て楽になりたいとも思う。


「あの子....の、笑顔の...為に...!!」



剣を構えフラフラになりながら御一行に攻撃を仕掛けた。もう無い筈の魔力を剣に注ぐ。


体が持たないとか、死ぬかもしれないとか、そう言うのは後だ。今はあの子の為に!!


「うぉぉぉぁぁぁあ!!」



気合いの叫び。



もう立ち上がる力をくれているのは、あの少年の笑顔のためでしかない。




魔力を込めて剣を振る。



戦いの最中。

シャルルの意識はいつの間にか無くなってしまったのだった。



_________○。____。○






「あれ....ここは...?」

シャルルが目を覚ました時、とある村の病室だった。体をゆっくりと起こす。身体の痛みは無い。


服は白のパジャマに替わっていた。意識がない間に、着替えさせられたようだ。


周りを見渡すと治癒の妖精が数匹飛び回っていた。妖精の一匹が、シャルルの頭に乗り座る。


「私...あの後...」


シャルルが思い出そうとした時、病室の扉が開く。看護婦だろうか。水の入ったコップとタオルを持っていた。シャルルの顔を見るなり、微笑みながら近寄ってくる。


「目が覚めた...?大丈夫?」


「はい...大丈夫です。あの、えっと...ここは?」


「ここはアストール村の診療所。大変だったんですよー?後少し遅かったら、間に合わなかったかもしれないんですから」


「そうですか...。」

事態は深刻だったみたいだ。まぁ意識を飛ばしてしまう程の無理をしていたのだ。無理もない。


「兎に角無事で何よりです。今はゆっくり休んでくださいね?」


看護婦は、小さいテーブルにコップとタオルを置いた。その様子をぼんやりと眺める。

横に目をやり、花瓶に生けられた花を見て、シャルルは思い出した。


あの少年は無事なんだろうか__。 


「あの!えっと...あの子...えっと__。」


シャルルは少年の事を聞こうとしたが、肝心なことを知らなかった。そういえば、あの少年の名前を聞いていなかったのである。


どう説明したものかとあたふたしていると、看護婦は指を唇に当てた。


「シー...そこですよ」

そしてベットの横を指差す。


「ん...。」

少年はベットの横の簡易ベットで横になり眠っていた。目には涙を流した後が残っている。


「その子、あなたが此処に運ばれてからずっと離れなかったんですよ...?看病も手伝うって、薬草取りを手伝ってくれたり、色々あなたの為に頑張ってくれたんです。もしその子が起きたら...お礼を言ってあげてくださいね」


「分かりました...。ありがとうございます」


看護婦は微笑みを絶やさないまま、一礼すると部屋を後にした。



シャルルは、横で眠る少年に手を伸ばす。

「心配かけてごめんね...」小さな声で御礼を伝えながら、頭を撫でる。


妖精達はヒラヒラと、病室を飛び回った。

シャルルはゆっくりベットから降りると、窓を開ける。


外は黄昏時だ。

黄金色の空の奥は、赤く染まっている。

意識はハッキリしているはずなのだが、まだ頭はボーッとしていた。ぼんやりと、外を眺める。


そしてまた、病室の扉が開いた。

知らない女性が一人病室に入ってくる。


「シャルルさん...!無事だったのですね。」


小走りで駆け寄ってくる女性を、きょとんとしながら見詰めた。一体誰なんだろうか。知り合いにこんな人は居ないはずなんだけど。


「あの、どちらさまでしょう...?」


「あぁ、そうですね。まずは名乗らなくては。私は__。」


「おかあさん...?」

名乗ろうとしたのを遮ったのは、少年だった。少しうるさかっただろうか。起こしてしまったのなら申し訳ない。


少年は目をこすりつつも、二人の姿を見た。


「んー...あぁ!シャルルお姉ちゃん!」

姿を見るなり、ガタンと立ち上がった。

そして泣きそうになりながらシャルルに飛びついた。


「うわぁぁん、良かった...良かったよぉぉ」

少年はシャルルに抱き着きながら泣いてしまった。それを宥めるように、ゆっくり少年の後ろに手を回して、背中をポンポンと優しくたたく。


「あわわ...。うん、心配かけてごめんね。」


「こらアル。シャルルさんは病み上がりなんだからやめなさい」


女性が少年に声をかけた。

お母さん?そして少年の名前を呼んだ?

それはつまり___。


「あの、貴女はこの子の...。」


「そうです。私はアルの母親です」


あぁ、やはりそうかとシャルルは安堵した。


「その子から聞きました...。あの薬草を採ってきたのは貴女だと。そして、アルの事を命をかけて守ってくれたと。」


アルの母親は深々と頭を下げた。


「この御恩は一生忘れません...!アルの為に...貴女は命をかけて守ってくれました...!シャルルさん...私たちに出来ることは限られますが...何か御礼を__。」


「いいえ、御礼は...大丈夫です。」


アルの母親は顔を上げた。シャルルは微笑みながら話を続ける。


「私も助けられました...。あの薬草の場所が分かったのも、私が今此処で生きているのも、全てアル君のお陰なんです。だから__。だから御礼なんていりません!アル君と貴女が無事だったなら、それで十分ですから」


「本当に...ありがとうございます」

シャルルは微笑んだまま、アルの頭を撫でた。


「ありがとね、アル君。君のお陰で私助かっちゃった。」


しゃくり上げ泣いていた少年は、ポケットから小さな小瓶を取り出した。虹の砂の入った小瓶だ。それをシャルルに手渡す。


「シャルルお姉ちゃん..これ...返すね。」


「うん...。預かってくれててありがとね。」


シャルルは小瓶を受け取ると、御礼を伝えた。少年は、涙混じりに笑顔になる。



少年の使命は終わった。

大切な物を守ると言う使命を。


シャルルも、一つ試練を超えた。

笑顔を守ると言う試練を。


窓から爽やかな風が吹くと、シャルルの髪を揺らした。そしてシャルルは、手渡された虹の砂の小瓶を夕日に照らした。キラキラと虹色に輝いている。



夕焼けを見詰めるシャルルの横顔は、

幸せそうに笑っていた。











評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ