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戦場に舞う

「いよいよ明日ね。思わぬ横槍が入ったけど頑張るわよ」

 ディフェンが気疲れでくたくたになって「FWO」を抜け、スイートルームに戻ると。ルームウェアに着替え、すっかりくつろぎモードのオフェンから、声をかけられる。午前も早々にログオフして後始末をディフェンに押し付けたことを、悪びれる様子は全く無い。


「キワメキキさんのご用件が何だったのかくらい、説明しろよ」

 車椅子を転がしルームサービスロボットにジュースをオーダー、それを一気に飲み干すと、ディフェンは語気を荒めて事情を問うた。

「たまたま近くを通りかかったからHYH通信に割り込んで、様子を見に来たって話だったわ。まあちょっと最近は不義理なところもあったかなと思って、今日は自主的に一日汗をかくことにしたのよ」

 睨みつけてくるディフェンから視線をそらし、オフェンは外の景色を眺めながら答える。デフォルトではドーム越しに満天の星々が見えるのだが、さすがにもう飽きた。今は「FWO」での活動地点の気象に合わせる設定、今日であればノスラムパ市の日の出日の入り時刻と同期させており、薄暮の風景があたかも現実であるかのように窓に合成投影されている。


 ディフェンはそのツッコミどころ満載の説明に、満載が故に沈黙させられてしまった。

 キワメキキほどの大物ともなれば、個人スペースクルーザーで移動をしているはず。であればよほどの遠距離旅程でも無い限り、次元跳躍をするのは一回のみ。一般に航宙コストのほぼ全ては、次元跳躍コストが占める。二回跳躍すればコストは倍になるのだ。キワメキキの本来の目的地がどこかは不明だが、近くをたまたま通りかかる、などということはあり得ない。

 また通信に割り込んだということは、フルダイブセンターとは別の環境からアクセスしたということだろう。センターに立ち寄る時間は惜しんだということか。そもそもオフェンと接触したいだけであれば、いつでもリアルでHYH通信してくれば良い。これはオフェンへの接触は事のついでで、本来の目的がこの惑星ファンラン近郊宙域にあったということだろうか……

 それ以上のことはディフェンにも推測はできなかった。姉は暗に仕事の督促をされたように感じているようだが、契約はやれる範囲でという内容のはず、それは取り越し苦労のように思えた。

 ……実のところ本当にキワメキキの単なる気まぐれだったのだが、銀河連邦第一級の風流人の考えることなど、理詰め思考のディフェンに当てられるはずもない。


「ふーん、それじゃあ明日の朝はどうするんだい」

 毒気が抜けてしまったディフェンは、普段の口調に戻る。

「朝一番でトライしたかったけど、午前は仕事をするわ。午後からでは混むでしょうけど、もしかしたら一通り終わって待ち時間が少なくて済むかもしれないわね」

 予想より早く怒りの収まったディフェンをチョロいなあと思いながら、オフェンは明日の予定を告げた。

「じゃあショウに連絡を入れておくよ」

 リングにメッセージを入れるくらいならフルダイブする必要はない。ディフェンは左腕の生体埋込デバイスを操作した。


 ……


 午後にノスラムパ市を出立し、フルトー王国を北上する3人と1妖精。まだ標高1500メートルの地だが、起伏は穏やかで谷間もかなり広く、見通しの良い野道を進んでいた。

「今日はおすまししないんですね」と声をかけてくるショウに、本気で何のことを言っているのか分からず曖昧に応じていたオフェンが、「あー、いたいた」とパッカランを軽く駆けさせる。そこには数十人の古代人が列をなしていた。


「何の集まりなんです?」

 ショウは逆にパッカランを止め、モールと一緒に、最後尾のディフェンが追いつくのを待って尋ねる。

「このあたりに凶悪な怪獣が出没するということで、数日前から古代人に討伐依頼が出ていたんだ。追い詰めたのはいいものの、今度は古代人の間で逆に獲物の奪い合いになって、各チームが順番に狩りに挑むことになったんだ」

 ディフェンは説明する。あらかじめ、この「ダメージチャレンジコンテスト」をショウにどう説明するかは、考えてあった。考えてあったが苦しい。怪訝そうなショウが何を言い返してくるかと構えていると、列の後方にいた小柄な女性がこちらに手を振っているのが2人の目に入った。


「オフェンさーん! オフェンさんたちもチャレンジされるんですねー」

 大声を上げ、ついにはこちらに駆け寄ってくる女性。ウサミー種でその出で立ちは軽戦士の装備だった。

「えーっと、どちらさまでしょう?」

 オフェンは心当たりがない。追いついてきたディフェンに顔を向けるが、首を横に振られる。念のためシステム機能でフレンド照合をしてみると―― 果たして該当があった。


「(チョット スタグ。ショウ ガ イルノヨ。キ ヲ ツケテ)」

 音声が禁則処理されることを厭わず、注意するオフェン。怪人スタグとリアルスタグには会ったことがあるが、古代人スタグと会うのはこれが初めてだ。

「す、すみません。つい、うれしくて」

 ウサミー種が頭を下げると、同様に行列から抜け出てきた大柄なべエア種の男がその頭にげんこつを落とした。

「ディフェンさん、先日はお相手いただきありがとうございました。まったくかないませんでしたが、楽しかったです」

 頬をかき挨拶をする大男。ディフェンはその男と面識は無かったが、ビトルだと分かる。背に負っているのは両手剣。普段そのような武器を使っているのであれば、手数の多さが強みの4本腕の怪人などはなおさら手にあまっていたはずだ。

「いえ、そちらはずいぶん不慣れな状況だったようですね。今日は対等の条件です。お互い頑張りましょう」

 リアルではトップアスリートのディフェンは、エールを送る。ショウがいることもあってこのイベントへの参加には乗り気ではなかったのだが、ほかにトライしているプレイヤーを目にして、だんだん前向きになってきた。


 ……


 マルチコプターが飛び去り最前列のチームが前方の小高い丘に向かうと、討伐怪獣との戦いが始まった。

「あれ、大怪獣じゃないの?」

 一瞬怪獣が視界に入るや、モールがつぶやく。もちろん中の翔一は分かっているが、ショウに向けての説明セリフである。白い空間では今までのように「かわいい」「かっこいい」とローリーが大はしゃぎ。また白い空間が騒々しくなるであろうことについては、諦めている。

「えっ、大怪獣!?」

 目を見開き、オフェンとディフェンを見つめるショウ。

「……そうね、大怪獣トライオン、よ」

 歯切れ悪く答えるオフェン。

「じゃあ、さっきのマルチコプターは……」

「前に討伐に挑戦したチームの遺体だよ」

 今度はディフェンが答える。このイベントでは、死んでもペナルティは課せられない。

「どうしてみんなで協力して討伐しないんですか!? 全員で戦っても勝てるかどうか分からない相手じゃないですか!」

 声を荒げるショウ。前半はその通りだが、後半は間違っている。全員で戦っても勝つ可能性など、ゼロである。

「それが古代人の気質なんだ。ただ、このあたりの周囲は別の古代人たちが取り囲んでいる。逃げられて原生人に被害が及ぶようなことはさせない」

 答えるディフェン。苦しい。

 そんなやり取りをしていると。またマルチコプターが騒々しい音を立てて降りてくる。先のチームは、またたく間に全滅した。


 ……


「それでは行ってきますね、オフェンさん」

 スタグが手を振ってイベントフィールドに向かう。ビトルも照れ気味に手を挙げている。行列は次々と短くなっていき、ビトルとスタグが所属する7人チームに順番が回ってきた。

 この次がオフェンたちとなる。オフェンとディフェンはショウがこのイベントにどう反応するのか予想しあぐねていたのだが、ショウは不参加を表明しモールもそれに倣った。ショウが与えるダメージもスコアに加算されるはずなのでコンテストの面では痛手ではあったが、死なれるのは困る。ショウが憮然と不参加を表明して、オフェンとディフェンは安心をしていた。


 7人が向かってくるのを、大怪獣トライオンは悠然と待ち構えていた。体長は4メートル強、体重は800キロ。全身長めの毛で覆われた四足の獣で、口元と足元にはときおり炎をまとわせている。

 大怪獣、そして怪獣、亜怪獣の正体は、戦闘、特に魔素扱いに優れた個体にサイボーグ改造を施した猛獣だ。魔素の研究という意図もあったが、ファー銀河連邦の科学力でも魔法を扱える完全人工猛獣は製造できていなかった。そのマインドコントロールは最小限にとどめられ、普段は猛獣の意志を尊重している。コントロールを強めると発狂してしまうのだ。その代わり古代人との戦闘以外では、サイボーグ強化による力を行使できないようにしている。これにより食物連鎖の崩壊を防ぎ、餌付けを有効なものにしていた。

 以前白い空間で翔一は大怪獣たちに「サイボーグにされるのって、どうなの?」と尋ねたことがあるのだが、「強くなるのだから、文句はありませんでしたわ」「たまに頭がチクチクさせられることに不満をこぼしていましたが、我慢しなさいって言いつけていました」「うちもそうでしたわ。美味しい食材を提供してもらえるのだから、それくらいの痛みが何なのって感じでした。オホホホホ」となぜか奥様方のほうが答えてくれた。渋い顔をしている旦那衆が不憫だった。このトライオン04も先日子供たちが生まれたばかり。鬼嫁からはしっかり稼いで来いと、叱咤激励されている。


 スタグがどこからともなく数本のナイフを取り出し、次々投げつけて戦端を開く。

 軽戦士スタグが牽制して、その間にビトルともう1人が斬りつける作戦のようだ。大盾を持った重戦士は、前衛ではなく魔術師3人の側についていた。前線が崩れた後に少しでも時間を稼いで魔法攻撃を加える布陣。

 ……そして3分が経ち、マルチコプターが降りてきた。

 戦果は大剣による2撃、投げナイフ1撃、魔法攻撃5発。この日では21チーム中、8位の成果であった。


 ……


 7人の遺体を回収する原生人たち。大怪獣は原生人を襲わない。分かってはいるが、ショウには大怪獣を恐れるでもなく原生人たちが淡々と作業をする光景が、奇妙に見えた。そして。


「さあ、行くわよ!」

「おう! じゃあショウ、行ってくるよ。北の町で再会できるから、何があっても心配しないで」

 オフェンとディフェンが向かっていく。この場に残り2人を見送っているのは、もうショウとモールだけ。

 このイベントの参加資格は特には無い。所定の期間、所定の時間帯にこの地にたどり着けばいい。ただ最寄りの古代人拠点からこの場に来るには相応の力量が必要であった。オフェンたちも途中で猛獣の群れに襲われてあっという間に蹴散らしたのだが、この襲来をくぐり抜けることができるのは上位10%のチームがせいぜいであろう。


「うおー!」

 ディフェンが珍しく声を上げ、大盾を前に出して突進する。

 トライオンは右前足に炎をまとわせ、払い除ける。

 バリアアイテムが発動し、広がる閃光。

 しかしディフェンは数十メートル飛ばされ、転がり続ける。

 そのあいだに。


「ファイヤーメテオ!!」

 空高くジャンプしていたオフェンが、「センスリンク」でトライオンの体重が左前足にのった瞬間を狙って、火の玉魔法を降り注ぎながら急降下。

 トライオンはディフェンを排除した隙を突かれ2発を食らうが、そこまで。残りの火の玉は俊敏に交わし、くるっと着地を決めたオフェンに、口から炎を漏らして突進する。

「ファイヤー! ファイヤー! ファイヤー!」

 立ち上がったオフェンは逃げずに両杖を突き出し、火の玉を連打。

 それを物ともせず接近するトライオン。ついにはオフェンの両腕を杖ごとくわえ込む。

 バリアアイテムが連続して発動し、口の隙間から閃光が漏れ続ける。

「ファイヤー! ファイヤー!」

 かまわず口の中に魔法を撃ち続けるオフェン。

 トライオンは首を上げてオフェンを持ち上げるや、地面に叩きつける。地面にも閃光が広がる。

「ファイヤー!」

 それでも魔法を撃つオフェン。

 トライオンもまたかぶりをふって、オフェンを叩きつける。

 2回、3回……

 閃光は途中で止まり、オフェンの声も聞こえなくなる。

 ようやく意識を取り戻したディフェンが、顔を上げると。


 両腕を食いちぎられた姉が、宙を舞っていた。

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