進軍
ついに東部貴族のバーリアム公爵やエックハルム伯爵を中心とした軍一万五千が到着し我々の軍は総勢四万の兵力となった。
情報では未だ侯爵領の領都は陥落しておらず帝国軍は少数の包囲部隊を残して、街道に二万七千程度の兵力を展開していた。
兵力及び補給物資も十分整った、私は全軍に進軍を命じた。
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街道を封鎖していた帝国軍との戦闘はあっさり終息した。
いや、正確には行われなかった。
敵は我々が進軍したのを知ると、整然と退却し始めたのだ。
我々は抵抗を受けることなく街道を進軍した。
その途中、街道を少し外れた場所で偵察隊が多数の領民たちの死体を発見した。
帝国軍の仕業だろうがむごいことだ。
領民たちはただ殺されたのではない、死体は獣たちに荒らされていたが明らかにいろいろな痕跡があった。
私は彼らの冥福を祈った。
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我々は侯爵領の領都に到着した。
帝国軍はすでに撤退しており、周辺は静かなものだった。
私は遠征軍を混乱しているであろう領都へ入れることを避け、街道の帝国領側での野営を命じ、自身は小部隊を率いてエスケルト侯爵に会うために領都に向かった。
城門でやせ細った若い騎士が我々を出迎えた。
騎士は開口一番に食糧の支援を求めてきた。
いくら激戦の後であるからと言っても、王太子である私を出迎えるのに、このような礼儀もわきまえぬ若い騎士が一人だけとは。
だが、侯爵軍が帝国軍を足止めしてくれていなければ今回の勝利はなかったかもしれない。
私は不満を隠して部下に食料の準備を命じた。
これが領都・・・
城壁の側の家はすべて破壊されそれ以外の家も普通の状態ではなかった。
内部に進入されたのか・・・いや、城壁が破られた様子はない。
いったいここで何が起こったのだ・・・
さらに屋敷に向かう途中では幽鬼のような顔をした領民たちがこちらを見ていた。
領都には最低でも三ヶ月は籠城できるだけの蓄えがあったはずだが、この騎士や領民たちはとてもまともな食事をしているようには見えない。
屋敷は静まりかえっていて、領主や二人のご令嬢がいるとは思えないほどだった。
騎士は何もない壁を操作して隠し部屋の扉を開いた。
領主が指揮すべき者を見捨ててこんなところに隠れていたのか。
エスケルト侯爵は無能で、こういった事態への備えをおろそかにしていたのだろう。
それなら、この騎士や領民たちの様子も納得だ。
私は侯爵の首のすげ替えが必要だと考えながら隠し部屋に入った。
そこには年老いたメイドと幼子がいた。
「この方がエミリア・エスケルト様、エスケルト侯爵家の血を引く最後のお方です」
ばかな・・・