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失せモノ妖精と隣のパン屋  作者: 大鳥 俊
第三章:失くし物以外も承ります!?
12/28

1.パン屋探偵カリン

 




 

 グレンのパン好きが加速した。

 今までですら、週五回。最近では日に二度も顔を見せる時がある。


「飽きない?」

「全く」


 ここまでくればパンと暮らせばいいのにとカリンは思う。

 ちなみに伝えたら、彼は「パン屋になれば」って言われた事もあると笑いながら言った。


「自分で作らなくてもうまいパンがあるわけだし。俺はすでに大満足」

「沢山買ってくれるから、パン屋としても大満足」


 二人で笑う。

 お互い良い事しかないのだから、これでいいのだと。


「じゃあまたな、カリン」

「うん。またね」


 片手を上げて店を出ようとするグレン。

 その後ろ姿を見て、一つ思い出したカリンは慌てて彼を呼びとめた。


「明日って、夜勤だった?」

「ああ。そうだけど?」

「ならパン買いに来る?」


 そのつもりだと返事をしたグレンに、カリンはニコリと笑う。


「それならサンドイッチ作るよ、具は何がいい?」

「お、マジ? じゃあ……」


 グレンは一通り好物を上げ、この中からどれか作ってと言う。

 カリンは食材を頭に浮かべてから頷いた。


「いつも悪いね」

「常連さまですから」


 ニコリと笑うカリンにグレンも笑う。


 今日も穏やかな一日が流れていた。





 ――と、思ったのだけど。


「ちょっとシルビア~! 少しは手伝ってよ~!!」

「大丈夫!! カリンなら出来る!」


 そんなむちゃくちゃな……。

 カリンは途方に暮れるしかなかった。



◆◇◆◇



 時は、三時間前に戻る。

 グレンが本日二度目の来店を終え、出て行った後。

 粉屋のメイリーさんが来たところから始まる。


「カリンちゃん。相談があるんだ」


 丸顔が印象的な恰幅の良いおじさん。

 人の良さそうな笑顔をいつも浮かべ、怒っている姿を見た事がない。そんな彼が眉をハの字にしてやってきた。


「どうしたんですか? メイリーさん」

「まさか、こういう展開になるとは思わなかったんだ」


 要領を得ないメイリーさんの言葉にカリンは首を傾げる。


「迷惑をかけるね、カリンちゃん……」

「ち、ちょっと待って、メイリーさん! 何が何だかさっぱりですよ!?」


 やっとの思いでメイリーさんの話を聞き、要約すると。


 『祭りの資材代金がなくなった。犯人を見つけて欲しい。ただし内密に』


 という話だった。


 盗難は詰所へ、と思うけれど、メイリーさんは事を大きくしたくないのだという。

 理由としてお金は盗まれたわけではなく、犯人は借りたつもりだろうからとの事。人の良い、メイリーさんらしい言い分だ。


「犯人からは期日までに必ず返す。とメモがあった。だから私は、支払日まで待とうと思ったんだ」


 しかし事態は急変する。

 支払日が早まったのだ。取引の都合、仕方のない事だった。


 ただそうなるとお金が間に合わない。

 メイリーさんは頭を抱えた。自分のところで立替えする事も考えたが、額が多くて難しいという。


 カリンもその金額を聞いて唸った。

 おそらく二人が出せる金額を合わせても足りないと悟ったからだ。


「カリンちゃんは皆の秘密を漏らしたりしないだろ?」


 人の口に扉はつけられない。

 メイリーさんは他の人に相談して、この件が広まるのを避けたいようだ。


「話を戻しますけど、犯人を見つけてどうされるおつもりですか?」

「私は話をしたいんだ」

「話を? それなら期日の件を公表してみたらどうですか? 必ず返すって言っている事だし、姿を見せるかも」

「それも一つの手だと思う。だけど、そうすると相手が焦るだろう?」

「焦ったらダメなんですか?」


 メイリーさんは頷く。「追いつめたくないんだ」


「私には相手の状況が分からない。期日の件を聞いて、それならとすぐお金を返せるのか、逆にすごく困るのか」

「すぐ返せる状況ならいいけど……ってことですか?」

「そう。困るのなら知らせなくていいと思う」

「でも……」


 そうしたら困るのはメイリーさんじゃあ……と、続けたカリンにメイリーさんは首を振る。


「困り事は押し付け合うんじゃなくて、一緒に解決すればいいんだよ」


 だから話をして、いつならお金を用意できるのかって事を確認できれば満足。とメイリーさん。


「ハッキリした日にちが分かっているなら、私がなんとかしてみせるよ」

「え? でもさっき立替えは難しいって」

「うん。結構大変だけど、相手の事がハッキリわかればそれぐらいしてあげられるかなと」


 にこにこっとメイリーさんが笑う。カリンは頭を抱えたくなった。


 シルビアからお人よしと言われるカリンだが、この件に関していえば反対だ。

 たしかに事情があったのだと思う。

 それでも集金した皆のお金を無断で借りてゆく人に、お金を貸してあげる気にはならなかった。


 でも。


「私が望むのは、穏やかにこの件が解決する事。カリンちゃん。手を貸してくれないだろうか?」


 返答に困るカリン。

 「お願いだよ、カリンちゃん」と真剣に手を合わせて願うメイリーさん。


 両者の間に少し、時間が流れ。

 カリンは覚悟を決めた。

 こんな風に頼まれて断るなんてパン屋の名折れだ。


「……わかりました。全力で探します」

「ありがとう!! カリンちゃん! 妖精様のご加護がありますように!」

「この際、ご加護でもなんでも使ってみます!」


 メイリーさんはにこりと笑い「妖精のパン屋さん、名探偵!」と、すでに見つかる前提だ。しかも妖精のパン屋ときた。

 だけど、カリンはいつもの言葉を口にしなかった。

 だって「ただのパン屋です」なんて言ったら、最初っから逃げているような気がするから。



 ――こうして生まれたパン屋探偵カリン。

 彼女は早速妖精様のご加護をもらいに行ったのだけど――。


「あ、無理無理。意志のあるモノは見つけられないの」


 だって動くし。

 シルビアはあはは~と、能天気に笑った。完全に我関せずである。


「そ、そんなぁ……」


 パン屋探偵はいきなりピンチになった。







第三章スタート!

お読みいただきましてありがとうございました!!

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