その7
国務大臣一人だけを認証する認証式。
その登場人物は、もちろん、最小限だ。
まわりに少数の関係者はいるものの、主な登場人物は、皇帝たる私、内閣総理大臣、そしてナシモト新法務大臣だけだ。
認証式のプロトコルは、ごく簡素かつ事務的に終了した。
テレビなどに映し出される画は、私が新大臣に認証の書状を手渡す場面だけだ。
しかし、実は、それ以外にも、簡単かつカジュアルな会話を交わすこともある。
深夜の認証式となったので、マナベ総理大臣は、言って当たり前のことを言った。
「陛下、このような深夜になり申し訳ございませんでした」
それに対し、私は、若干の不快感をほのめかした。
「深夜ですか? もう未明ですけどね。総理大臣も御苦労様なことですね」
総理大臣は、決まりきった返答をした。
「恐縮でございます。止むを得ない事情があったものですから」
「それはそうでしょうね。わかっていますよ。お気になさらないでください。ところで、新任のナシモト法務大臣は民間からの登用ですね」
これにもやはりマナベ総理が返答した。
「さようでございます。陛下も御存知のように、ナシモト氏は法曹界の分野でも政治の分野でも経験豊富な人物です。恐れながら、最適の人材であると承知した次第です」
「はい、そのようですね。ところで、ナシモト大臣は、カミガタ市の市長を辞任するときに、政治家を辞めると仰っていたようですが」
もちろん、ナシモト大臣本人が返答した。
「さようでございます。しかし、現在の国情に鑑み、敢えて火中の栗を拾うことにした次第でございます」
私は、寝込みを襲われた不快感から、皮肉交じりに応対した。
「そうですか。それは見上げたものですね。火中の栗は熱いでしょうが、しっかりと拾ってくださいね。あ、そうだ、大臣自身が栗を熱さないように配慮してくださいね。それでは、私は、これで」
私は、そのように言い残すと、その場からさっさと退散した。
ナシモト法務大臣か。法務以外の事にも首を突っ込みそうな人物だ。
それに、なんだか、マナベ総理と二人してイケイケになりそうな不安も感じる。
二人とも、かなり右側に位置する人物だ。
まして、ハメリカのカード大統領とか、チョソン半島の北にあるキタコウライのイ・ドンドン第一書記とか、南下への野心が全開のシロア連邦のプッチン大統領とか、そうでなくても、きな臭いリーダーたちから煙が上がるのが見える今の極東情勢だ。
そこに思いっきりヤンチャで思いっきり右のナシモトか。
最近は、物騒な人物が続々と舞台に登場するな。
なんだか嫌な予感がする。しかし、皇帝たる私は、「知らぬ顔」を通すしかない。
そんな立場なのに、どうして皇帝が大臣の認証などするのだろうか?
わざわざ眠い目をこすって。
アホらしい。
総理大臣、法務大臣、その他の関係者が居城を後にする頃、妃のコチミがホットミルクを持ってきてくれた。
コチミは、たとえ深夜でも未明でも、私が起こされたら、必ず起きてくれる。
そんなコチミは、いつものように、優しく声をかけてくれた。
「砂糖も入れておきましたわよ。でも、ひょっとしてブランディの方がよろしかったかしら?」
「いや、ミルクで十分だよ、どうもありがとう。ところで、コチミちゃんは、どう思う、あのナシモトという男」
「そうですわね、面倒くさそう、うるさい、下品、理屈っぽい ・・・ これくらい言っておけば満足ですか、陛下?」
「うん、完璧だね。これでゆっくりと寝直しができるよ。代弁してくれて、いつもありがとう。でも、その感想って、本当?」
「ウフフ、私は上様に嘘を申し上げたことなんかございませんわよ。さあ、寝ましょう。おやすみなさい、タカちゃん」
私の名前は隆仁、だから、一日の最後には妃に「タカちゃん」と呼ばれる。
=続く=




