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私は皇帝  作者: 破魔矢タカヒロ
13/21

その13


 居間に入ってきた皇帝庁長官は、肩で息をしていた。


 かなり急いで歩いてきた様子だった。


 長官は、取り敢えず、自分の説明が遅れた事情から述べ始めた。


「申し訳ございません。皇族方がこちらに到着する前に御説明に上がる予定だったのですが、首相官邸での打ち合わせが長引いて後先が逆になってしまいました」


 ここで、妃のコチミが口を開いた。


「長官がこれから仰る内容ですが、要するに、シェルターに籠れということですね?」


 長官は、心中を見透かされて驚いた。


「え! どうしてそれを?」


 コチミは、さも当然といった表情で答えた。


「わかりますわよ。戦争になるのでしょ。ハメリカがキタコウライに先制攻撃をするのでしょうね。わかっているのですよ、ナシモト法相は在日キタコウライ人を逮捕させているでしょ。それに、キタコウライで人質になっていたハメリカの大学生が公開処刑されましたよね。その割に、ハメリカ側は静かですよね。むしろ、静かすぎますわよね。たぶん、ハメリカ側が過剰に反応すると、キタコウライを身構えさせるからでしょうね。その実、ハメリカ側は先制攻撃の準備を進めているのでしょうね。違いますか?」


 長官は驚きながらもコチミの言を肯定した。


「妃陛下は流石ですね、恐れ入りました。大筋はそのとおりでございます。ハメリカは近々に先制攻撃を仕掛けることになっています。もちろん、内々にですが、ハメリカ政府から太陽国政府にそのような通達が入っております。それ故に、太陽国政府は、ハメリカ側の先制攻撃に備えて、こうして事を進めているわけです。つまり、皇族方にシェルターに籠って頂くのは、その一環なのです」


 私は、皇帝家の長として、長官に聞いた。


「シェルターに籠るのはいいとしても、国民にはどのように説明するのですか。予定されている公務がいくつもありますよね。当然、中止になるわけですよね」


「恐れながら、そのとおりでございます。つきましては、皇帝・妃両陛下、北宮御一家、ハルノ宮御一家には、結核患者ないし結核菌感染者になって頂きます。それ故に、皇帝庁病院に入院して頂きます。もちろん、それは、国民を一時的に欺くための情報です。そのようなことで、ここにいらっしゃる皇族方は公務にお出ましになられません」


 私は、その説明を聞いて、口実にしては無理があると思った。


「なんだか、嘘っぽいですね。それに、コカはニギリスにいることになっていて、サヤカは島根にいることになっているのに、どうして結核菌に感染するのですか?」


「それはですね、まず、コカ様については、そのままニギリスにいらっしゃることにいたします。そして、サヤカ様の上京の事実も伏せます。それから、結核という口実そのものについてですが、ハメリカ側の先制攻撃は一両日中に始まります。つまり、国民のことを長く欺く必要はないということです。だから、当面は結核ということで十分だと判断しております」


「そうですか。まあいいでしょう。それで、ここの地下にあるシェルターのことですが、侍従や医師も含めると二十名以上が籠ることになるわけですよね。それで、どのくらい持ちますか?」


「その点なら、御心配無用です。無理なく二十年は持ちます。それだけの物資が備蓄されていますから」


「わかりました。それにしても、太陽国の国民はどうなりますか。犠牲者数などのシミュレーションは終えているのでしょ?」


「はい。ハメリカ側のシミュレーションの結果と太陽国側のそれは一致しております。キタコウライ側の武力から推定した数字ですが、極東全体として500万から1000万の犠牲者が出ます」


「1000万人! 前に聞いた数字では、最悪で500万人ではなかったのですか?」


「残念ならが、最悪で1000万人が直近の数字です。キタコウライ側の武力、特に核戦力は、当初の見積もりよりも強大なのです」


 1000万人! 私は愕然とした。しかし、そんな現実が迫りつつあるのなら、愕然としてもいられない。


「それで、長官、その1000万人のうちの太陽国人は何人ですか?」


「わかりません。キタコウライ側がどこを重点的に攻撃するかによりますから」


「そうですか。どこの国の国民が死ぬにしても、1000万人も死ねば、それは悲惨の極みですね。それで、太陽国として回避の努力はしているのですか?」


「陛下、恐れ入りますが、もう手遅れです。ハメリカ軍の配備は既に完了しています。大統領から指示が出れば、それで先制攻撃が今すぐにでも始まります」


「今すぐにでも! なんと!」


 私は、事態の予想以上の切迫に絶句してしまった。


 その時、コカが不安をあらわにしながら、ポツリと言った。


「おばあ様、怖いわ」


 皇族の中でおそらく一番気丈なコチミは、落ち着き払った笑顔でコカを諭した。


「あらあら、私たちが怖がるなんて、おかしいわよ。シェルターに籠れば、どのような攻撃でも大丈夫なのよ。だから、自分のことよりも、国民のことを心配しなさい」


 コカは、落ち着きを取り戻して、こくりと頷いた。


=続く=


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