その12
謁見の間に向かい歩きながら、私は、侍従長にボロボロ共和国について聞いた。
「ボロボロ共和国なんて国があったんだ」
「はい。去年独立した国でございます」
「で、どこにあるの?」
「アフリカです」
「アフリカのどのへん?」
「あ ・・・ はい ・・・ ええ ・・・ そ、そのへんです」
「あ、そう。そのへんね。まあ、それでいいや。で、国状はどんな感じ?」
「それが、独立以来、ひどいインフレでして、一年前にはバナナ1本が1ズタズタだったのですが、今では1万ズタズタするそうです」
「そのズタズタって何?」
「ボロボロ共和国の通貨です」
「ふーん、それがインフレでズタズタなわけね」
「フフッ、まあ、さようでございます」
「で、どのような産物があるの?」
「農産物にさしたるものはありませんが、ボロンが採れるそうです」
「ボロンって?」
「半金属ですよ。ホウ素のことです」
「あ、そう。つまり、ボロボロ共和国ではボロンが採れるわけね」
「ええ、その国名はボロンに由来するそうです」
「ふーん」
謁見の間に着くと、ボロボロ共和国大使がそこに立って待っていた。
私が玉座の前に立つと、大使は、左足を上げ、そのかかとを右ひざにつけた。そして、そのような姿勢で片足立ちしながら、右手を頭の後ろにまわし、親指と中指で左耳の耳たぶをつまんだ。
それを見た私は当惑して、トヨトミ侍従長に尋ねた。
「ねえ、侍従長、あれって何?」
「オカミ、あれはボロボロ共和国特有の御挨拶ですよ」
「え、そうなの、それで、私はどうすればいいの、同じようにするの?」
「まさか。『もうよろしいですよ』と仰ればよいのです」
「あ、そう。では、早く言ってあげないと、あの姿勢のままでは可哀そうだね」
私は、早速、「もうよろしいですよ」と言おうとしたのだが、その前に、大使はバランスを崩して転んでしまった。
大使は、自分の失態に焦りはしたが、すぐに立ち直った。そして、また、挨拶のポーズをとろうとした。そこで、私は ・・・
「も、もうよろしいですよ」
私の言を通訳が素早く伝えた。
そして、ボロボロ共和国大使が信任状を私に恭しく手渡し、儀式は無事に終わった。
それから、私と侍従長は、ニギリスから帰国したコカの待つ居間へと急いだ。
居間に着き、トヨトミ侍従長がドアを開けてくれて、私が居間に入ると ・・・
「えっ! みんな、いったいどうしたんだ?」
居間には私の家族が集合していた。
つまり、そこには、コカだけでなく、コカの両親であるハルノ宮夫婦、コカの姉と弟、そして、北宮家の三人、また、島根に嫁いだサヤカとその夫までいた。
驚く私を見た妃のコチミは事情を説明してくれた。
「みんな、皇帝庁からの連絡でここに来たそうですわよ。陛下が御病気と聞いて、駆け付けたのですよ。上様は、いたって、お健やかですのにね。今、皇帝庁長官がこちらに向かっています。女官長に連絡してもらいました。まあ、長官の説明を聞かなくても、およその察しはついていますけどね」
「察しはついているって、どういうこと?」
私がそのように聞くと、コチミは、急に険しい表情になって私に言った。
「戦争ですわ」
「戦争だって!?」
丁度その時、居間のドアが開き、皇帝庁長官が入ってきた。
=続く=




