第3ページ 精霊
話せるようになると、行動範囲が広がった。
世話をしてくれるメイドにあっちへ行ってと言えば連れてってくれる。
一人でも行けるのだが、心配するからね。
そんなある日。
俺は母様に連れられて外にいた。
家から外に出るのは初めてだった。
と言っても庭までだけど。
実際に外に出て陽に当たるのはいいことだ。
特に何もないのに、俺は上機嫌になっていた。
そんな俺の様子がわかるのか、抱いてくれてる母様も微笑んでいる。
ん?
あれはなんだ?
いい気持ちで辺りを見回していた俺は、風を漂うように光る何かがいるのが見えた。
それは黄緑色の光で、何やら陽気な雰囲気を発している。
生物のようでありながらも違うような、不思議だ。
「かあさま、あれはなにですか?」
「どれ?」
俺が小さな手で指差す方向を母様はジーッと見る。
「何もないわよ?」
「え、いるよ!きみどりいろで、ひかってて、いきものかわからないけど…」
そう言うと母様はハッと何かに気づいたように俺を見る。
「ベン君、あなた精霊が見えるのね?」
「せいれい?」
精霊。
自然界に存在する一種の力。
下位の精霊は意思を持たないが、その力は強く、通常人族は見ることができない。
しかし、何故か俺には見えているようだ。
「いい?ベン君、精霊が見えるってことは簡単に人に言っちゃダメよ」
「なんで?」
「あなたが大きくなって、その力を制御できるようになってからならいいわ。でも、大きすぎる力は災いを招く。私もお父さんもあなたを守るけど、守りきれないかもしれない。その時、その力があなたを助けてくれることを祈るわ」
母様はそう答えになっているのかわからないことを言った。
要するにこの珍しい力を狙ってくる輩がいるかもしれないし、切り札的な意味でもあるのだろう。
その夜、母様は父様にそのことを話し、二人で精霊についての専門家に聞いてみようということになったそうな。
幸い母様の友人に詳しい人がいるそうだ。
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「忙しい所来てくれてありがとうございます、リィーエンさん」
「なんの公爵夫人の呼び出しとあれば来ぬ訳にはいかぬであろうよ」
そう言って笑った薄い金髪の女性は、母様より少し年上で、40代くらいであろうか。
だがおそらくは、見た目よりもかなり年上なのだと思う。
母様ばかりか、父様も目上に接するかのようにしているし、何よりもその人の耳は長く尖っていたから。
その人が訪ねてきたのは俺が精霊を見ることができるということが判明してから4日後だった。
面白そうな目で母様の膝の上にいる俺を見ている。
「それで…その子かの?精霊が見えるという子は」
「そうです。ベン君、こちらリィーエンさんよ、昔お母さんがお世話になった人なの」
「はじめまして、ベンジャミン・ハイリッヒ・フォン・シュレルンです」
そういえば俺の紹介をしていなかった。
俺の今の名前はベンジャミン・ハイリッヒ・フォン・シュレルン。
シュレルン公爵家の次男だ。
「ほう、偉い子じゃのぉ。初めましてベンジャミン。私はリィーエン・エル・ミスティシア。しがない老女じゃよ」
見た目40歳の人に老女と言われるのは不思議な気分だ。
つっこんだ方がいいのだろうか?
「何がしがないですか、冒険者ギルド協会の長たるお方が」
「なりたくてなったわけじゃないんじゃがのぉ」
…え?
今、母様大事なこと言わなかった?
この世界にギルドはたくさんあり、種類も様々だ。
商業ギルドや、魔法師ギルドなどは各国に属し、それぞれ他国との繋がりはあるものの国の機関だ。
その中で冒険者ギルドだけは特別であり、大陸全土で一つの組織となっている。
どこの国にも属さない独立組織。
この冒険者ギルド協会の本拠地はとある島にある。
どこの国にも王都と呼べる場所に本部があり、その本部から本拠地に跳べる転移魔法陣が設置してある。
冒険者ギルド協会長はこの本拠地におり、偶に各ギルドを視察に出たりもする。
言うまでもなく協会の最高権力者なわけで、その権力は各国国王にも比肩する。
冒険者ギルド協会とはそれほど大きな組織なのだ。
そんな超大物が今目の前にいる。
驚きだね!
ていうか母様!
精霊のこと知るだけならもっと他にもいるでしょう!?
なんだってそんな大物呼んだんだ!!
「ええ、そうです。何かおわかりになるでしょうか?」
「ふむ…どうじゃ?」
『確かにその子は私が見えているようですね』
リィーエンさんが話しかけたのは、彼女の後ろにずっといた女性。
誰も触れないからそうかとは思っていたのだけど、どうやら精霊のようだ。
でもその姿は、前に見た光とは違い、きちんとした人の姿をしている。
緑色のドレスを来て、頭には草の冠。
茶色の長髪をなびかせ、その深緑の瞳が俺に向けられている。
『初めまして人の子。木精霊のリーンと言います。よろしく』
「よ、よろしくおねがいします」
「ふむ…声も聞こえておるようじゃの…じゃが特に問題はないじゃろう。人族の中でも精霊を見ることができるものは偶におる。託宣は受けておくべきじゃろううがの」
託宣というのは教会で自分のステータスを教えてくれることを言うのだそう。
それは是非とも受けたい。
というか、ステータスというのがあるのも今知ったことだ。
スキルがあるのは知っていた。
父様や母様が言っていたからな。
「精霊たちは妖精とは違い、悪戯をしたりもせぬ。放っておいても問題はないのじゃが、せっかく精霊が見えるのじゃ、精霊魔法を習得してみるというのもいいかもしれんの?」
「精霊魔法ですか?」
「うむ。精霊と心を通わせることができるならば、習得も可能じゃてな。どれ私の知り合いを紹介しよう。この子の先生になってくれるようにの」
「ありがとうございます」
精霊魔法!
ファンタジーだなぁ。
ところでずっと気になってたこと聞いてもいいのだろうか?
「あ、あの…」
「うん?なんじゃ?」
「あの…リィーエンさまはエルフなのですか?」
「さんでよいぞ。堅苦しいのは苦手じゃ。ふむ…エルフはエルフなのじゃが、私はハイエルフじゃよ」
ハイエルフ!
エルフの王族ではないか!
いや、この世界ではどうなんだろう?
今度調べてみよう。
「さて、すまんが私はもう帰らねばならんのでな」
「お忙しい所ありがとうございます」
「なんの、面白い子が見れたからよいわい。近いうちに教師代わり訪ねさせるようにしておくでな」
「何から何までありがとうございます」
「ではな」
リィーエン様はそう言って帰っていた。
本当にこの為だけに来てくれたようだ。
なんだか申し訳ない。
それにしても、精霊魔法か。
俺にも魔法が使える可能性が!
これは楽しみだ!




