共に過ごす時間
明け方にアストラが帰って来たようだった。
戸が開くと同時に冷たい風が入って来たので目が覚めた。
空が薄く明るくなり始めている。
「アストラ!! トニーは!?」
アストラは首を横に振って言う。
「あの丘には誰もいなかった。血が落ちている所はあったけど微かだったから、生命の危険はないと思うけど……」
「そっか……ありがとう」
ミアやアーシュが見つけてくれたのだろうか。
それともモネの仲間に別の場所に連れて……?
いや、私が目的だったならそんなことする必要は……
アストラが私が座っているベッドの隙間に身体をうずめてきた。
「少し寝ていい? あの周辺もあちこち探して疲れちゃった……」
顔だけこちらを向けて優しく笑う。
「ごめん! 私自分のことばっかりで……!
アストラのこと全然気遣ってなかった……!」
「いいよいいよ、そんなの。一緒に寝よ……」
アストラに促されまた横になる。
手を繋ぎ髪を撫でてくれて、心地良くなり目を閉じた。
それから数日、アストラと一日中一緒に過ごした。
買い物に行ったり、料理をしたり、景色のいい場所に連れて行ってくれたり。
心から楽しいと思えたし、ちゃんと笑うことが出来た。
戦っていたのが遠い昔のように思える。
毎日、寝る時は手を繋ぎ髪を撫でてくれた。
だが、みんなの元へ戻ることだけは許してくれない。
その話をすると、表情は変えずに機嫌が悪くなる。
口調も変わらない。でも空気が変わる。
ただ静かに、「帰らなくていいよ」と言われる。
今日は行ったことがない丘に来た。
そんなに高さはなかったが、見たことがない花が咲いている。景色が一番見通せる場所に二人で腰を下ろす。
アストラを見ると、目を瞑って気持ち良さそうに風を感じている。
が、その目がパッと開き表情が曇った。
そのまま遠くの景色を見ている。
「メアリー……?」
懐かしい声に急いで後ろを振り返る。
「トニー……!!」
気付くと駆け出していて、トニーの傍にいき思わず腕を掴んでしまう。
「ごめん! 本当にごめん!
すぐに助けに行けなくて……!
傷は? 痛みは!? 」
涙目になっているのが自分でもわかる。
「俺は大丈夫。お前は大丈夫か?」
いつも見てきた懐かしい笑顔に安心する。
私が数回頷くと、トニーが目線を合わせ口を開く。
「暗くなる前に迎えに行くって言ったのに、
こんなに遅くなってごめんな」
首を振るとトニーが目の前に手を差し出す。
「さあ帰ろう。みんな待ってる」
その手をとろうとした時、アストラに後ろから腕を押さえられる。
いつの間にか背後に立っていたようだ。
「嫌だ。行かないで。ずっとここにいて」
泣きそうな表情に胸を締め付けられる。
「……でも行かないと。やらなければならないことがあるの」
言いながら思い出す。あの子供たちに救うと約束した。約束を果たさなければならない。
果たしたい。
隣の国にも行かなければならない。
「じゃあ俺とその仲間とどっちが大切なの?」
「いや、そういうことじゃなくて……」
「俺は君と離れたら死ぬほど辛いのに……」
涙目で見つめられて子供の我儘みたいに思えてくる。
「わかった!! じゃあ一緒に行こう!!」
「え? ……いいの?」
「いいよ! 行こう!!」
戸惑っている表情のトニーに声を掛ける。
「いいよね!? 一緒に行っても!」
もう正直、他にどうしていいかわからなかったし、
皆のところに帰りたいし、アストラとも離れ難い。
これ以上にいい方法を考えることが出来なかった。
まあとりあえずやってみよう、という勢いだ。
「え……まあ俺は別に……」
トニーの静かな怒りを感じる。
そうだよね、なんか勝手なことばっかしてるもんね私……
――――――
機嫌が良くなったアストラと、機嫌が微妙に悪くなったトニーと一緒に宿屋まで戻って来た。
アーシュやミアの姿を見ると居ても立ってもいられなくなり、駆け出そうとする。
しかし、私よりも早くアストラが駆け出していた。
「え……? 何、突然?」
アストラは一直線にアーシュの元へ走って行き、
勢いそのままでアーシュをがっしりと抱き締めた。
え? え? 何が起こってる今?
金髪が好きなだけ?
いや、トニーにそんなことはしてない。
女が好きなだけ?
それならミアに行くよね?
私とトニーも急いで後を追う。
近づくにつれ、アストラの言葉が聞こえてくる。
「会いたかった……ずっとこうしたかった……」
ますます抱き締める腕の力が強くなっている。




