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喪った声を求めて  作者: 頼爾@2/12「尊い5歳児」コミカライズ1巻発売
第二章 喪った心を求めて

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7

いつもお読みいただきありがとうございます!

 私はこの部屋の魔道具関連のものについては、把握している自信はある。

 しかし、ドレスについては全く自信がない。

 デッカー公爵夫人に見せるまで、ドレスの色もすっかり忘れていたくらいだ。


 夜会当日は朝から王妃様のところに行って、準備をすることになっている。夜会にはものすごく準備というものが必要らしい。夜からなのになぜか朝から準備するのだ。


 私は護衛がいないと城から外出できないので、実家やデッカー公爵家で準備ができない。だからこそ、王妃様のところに行くのだが……。


 もしかして、何か重大なことを忘れてる?

 ほら、王妃様付きの侍女がドレスを先に預かっときますって言ったとか。

 ダメだ、ドレスに関しての記憶がなさすぎる。ドレス選びの時も疲れすぎて後半は記憶がないから。


 あるいは、ドレスを誰かに盗られたか。

 鍵のかかった部屋で魔道具には被害がなく、ドレスだけ。

 うーん、分からない。事件の関係ならドレスより魔道具関連のものを盗まない?


 はぁ。

 やっぱり、四葉のクローバーは見つけてもろくなことがない。

 エヴァンがいなくなって、次はドレスがいなくなる。


 あ、そうだ。

 確かドレスのポケットにはあの魔道具を忍ばせておいたかも。


 テストで作ってみて、なくなったら困るものということでドレスのポケットに入れたのだ。あれを見れば盗まれたかどうかは判別がつくはず。

 盗まれてないのに騒いだら大変なことになるからね。

 声の魔道具を取り出して、追跡を始める。


『ピヨピヨピ……ザヒョウ キュウノニ ゴノサン……ピヨピヨピヨピヨ』


 この座標なら庭だ。

 ドレスが庭にあるというのは、盗まれたかドレスが勝手に歩いて出て行ったかだ。おぼろげな記憶の限りでは、王妃様の侍女に預けてはいないはず。庭にドレス用の倉庫があるなんてこともない。


 声の魔道具を閉じて、そっと目を瞑る。

 誰がこんなことをしたのか分からないが、部屋の鍵を持っているか管理している人物だ。そして問題は、なぜこんなことをしたのかだ。


「やっぱり、私がライライと婚約したことかなぁ?」


 ライライと歩いていて、ヒソヒソと囁かれたことは何度もある。

 アリスター殿下もいる時はヒソヒソすると殿下が過剰に気にされるので、メアリーさんが目を光らせておりそんなことはない。ただ、ライライと二人で歩いている時はある。


「……確認しに行くしかないか」


 一人で見に行くと自作自演を疑われてはいけないので、魔道具係のカトリーヌさんについてきてもらった。カトリーヌさんに声をかけておいてなんだが、彼女がいても結局疑われるときは疑われそうだ。事前にドレスを庭に捨てておいて……いや、それなら自分ではなく他人に見つけさせるか。そっちの方が疑われない。


「ドレスのポケットに追跡の魔道具を入れていたと」

「そうですね」

「なぜですか?」

「私の部屋で一番高級なものだったからです」

「私からすればルリアーネさんの解読不能なノートがお宝ですが……まさか、ドレスを盗まれると分かっていたのですか」

「いえ、どこにやったか分からなくなりそうで……」

「お聞きする限り、部屋の中では座標が動かないので散らかしたものから探すのには無意味そうですよ?」


 そう、部屋の中での失せ物探しには意味がないのが難点だ。

 私にはその機能が一番必要なのに。


「そうですね。なんでドレスのポケットに入れたのか自分でも……あ、ライライに失くすなと言われたからでしょうか。他には、嫌がらせでドレスを隠された話を聞いたからかもしれません。デッカー公爵夫人から聞いたのだったか」


 道中カトリーヌさんにいろいろ質問され答えていると、座標の位置までやって来た。

 そこは、ゴミ置き場だった。


「これは……」


 カトリーヌさんは顔をしかめる。

 忙しい中ついてきてもらったのに、ゴミ置き場の臭いをかがせてしまって申し訳ない。

 私はおぼろげな記憶の中にある生地の色を見つけ、ゴミの山に近づいて手を突っ込んで引っ張りだした。


「なんてことを!」


 カトリーヌさんが叫んだのは私の行動にではない。

 私が手にした青いドレスに、あちこちハサミが入れられていたからだ。

 デザインというには少し無理がある。


「さすが、見つけても二度と着用できないようにしてあったんですね」

「感心するところではないですよ、ルリアーネさん」

「どうしましょうか、これ。私、お裁縫できないんですよ……」


 引きこもって裁縫や刺繍するなんて、私がそんな令嬢っぽいことをするわけないだろう。犯人はそれを見越してここまで!


「何をおかしなことを言ってるんですか。王妃様、いえその前にデッカー様に報告です」

「しなくちゃいけませんかね?」

「次に声の魔道具が盗まれたら困りますし、城での窃盗は大問題です」

「あ、はい」

「ルリアーネさん、なぜそんなに平気そうなんですか? ご令嬢が夜会のドレスを切り刻まれて捨てられるなんてショックで泣き出す案件ですよ」


 切り刻まれるまでいっていないのでは? ドレスの原型はとどめている。相当奇抜な肌見せデザインになっているだけで。これを着たら脇腹なんて完全に出ちゃうんじゃない?


「よくやるなぁと思って。これってオーダーじゃなくて既製品ですよ? だから全く同じものとはいかなくても、買い直すことはできるんです。それなのによくやるなと。オーダーで貴重な宝石がついていて、世界に一つだけなら盗む気持ちも分かりますけど」

「とにかく、ルリアーネさん。そのドレスを持って報告に行きましょう」


 ドレスのポケットを探ると、追跡の魔道具が出てきた。


「以前より小型化していませんか?」

「はい、以前遊びで作りました。良かったです、この大きさで座標を補足できて。実験にはちょうど良かったですね」

「室長にも報告しないといけないようです」


 カトリーヌさんがてきぱきと報告をしてくれて、デッカー公爵家にも使いを送ってくれた。

 結果、大問題になった。


 知らせを受け取ったデッカー公爵夫人は、翌日すぐにライライを引っ張って仕立て屋に行って他のドレスを見繕ってくれたらしい。

 王妃は私の部屋に入ることができる全員を大至急取り調べすると怒っていた。


 しかも──。


「実は、ルリアーネ嬢が立ち眩みを起こしてベンチで休んでいる時、私が戻ろうと通った辺りで彼女の悪口を言っている使用人たちがいたんだ。その場で注意しても良かったんだが、私が口を出すとルリアーネ嬢の立場が悪くなるかと思って言えなかった。彼女たちも調べた方がいいと思う」


 カヴェイン殿下がそんなことを言い出したため、私の部屋に入る役割ではない使用人たちも取り調べをすることになった。

 もしかすると、カヴェイン殿下が踵を返してすぐに戻ってきたのは迷子だったのではなく、私の悪口を聞いたからかもしれない。

 私が部屋に帰ろうとしたら、ちょうどその悪口が耳に入ったはずだから。

 内容は簡単に予測できるから、その悪口で傷つくことはないのに。



「ドレスは王妃様に預けておいたから」

「最初からそうしておけばよかったですね。すみません」

「お前のせいじゃないだろ……っていうか、そのドレスは捨ててなかったのか」

「もったいないので」


 ゴミ置き場に捨てられていたドレスは、魔道具係の魔道具によって綺麗に洗濯されて乾かされて戻ってきた。しかし、ハサミを入れられた部分を修復する魔道具はない。裁縫するしかない。

 ちなみに、犯人はカヴェイン殿下が見た悪口を言っていた使用人たちだった。鍵を管理している人も関わっていて、カヴェイン殿下が通りかかった時にはもう犯行は済んでいたのだ。


 件のドレスをライライは捨てた方がいいと言うが、なんとなく私は持っておくことにした。


「生地を縫い合わせる魔道具があっても便利ですね」


 十歳の時、私はエヴァンを喪った。

 それで慣れてしまったのだ。エヴァンより大事なものなどほとんどない。だから、ドレスくらい切られても捨てられても平気であるはず。


 喪いたくなかったら、あるいは失いたくなかったら、大切な人とものは心の中につくってはいけない。大切だから喪ったら悲しい。大事だから失ったら泣く。

 それが大切で大事でなければ、嘆き悲しまなくて済む。どうでもいいものに涙と感情の揺らぎなんて要らない。


 アリスター殿下の四葉のクローバーを否定しても、ただの私の意見なんだから気にしなくていいのだ。五歳児をたかだか私の身分で怒鳴りつけたわけじゃない。

 でも、心は痛んだ。

 私にとって四葉のクローバーは罪悪感の象徴だけれども、殿下にとっては幸福かもしれなかったのに。


 ドレスだって未練などないから、さっさと捨ててしまってもいいのに。

 新しいドレスについて伝えにきたライライが帰ると、ズタズタになったドレスに視線を移す。


 本当はほんの少しだけ着るのを楽しみにしていた。

 ドレスのことなんて全然分からない。色も形もうろ覚え。でも彼が選んでくれたものだから信じていた。


 引きこもりから出てきて、性懲りもなく自分が大切なものをつくりだすなんて思ってもみなかった。

 心がガラスだとするならば、私の心はエヴァンの死で一度粉々に壊れている。それを拾い集めず、新しく強い金属の心を作ったつもりだった。


 でも、最近の私はなぜか砕けたガラスの破片を手を傷だらけにしながら拾い集めている。

 新しい心があるから捨てればいいのに。引きこもって二度と傷つくことのない優しい世界まで作り出したのに。


 やっぱり、引きこもっていた方が世界は私に優しかった。

 またうっかり大切なものをつくってしまった。

 ノソノソ出て行ったら、この世界には美しいものがいっぱいあった。同時に私を容赦なく傷つけるほど残酷だった。

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