ブラウニー達と交渉
シェナによって瓶の蓋が開けられた。
ブラウニー達は警戒しつつも瓶から出てくる。
だが、周りを自分達よりも遥かに巨大な人間に囲まれている為、迂闊に動けない様子だった。
「大丈夫、君達に危害はかけない」
シェナは少し屈み、テーブルの上に立つブラウニーの黒いビーズのような目と目を合わせる。
「私は、ハーフエルフのシェナ。
実は君達にお願いがあって、ココロさんに連れてきてもらったんだ。手荒になってしまって、ごめんなさい」
『~~~、~~~~、~~!!』
ブラウニーの男の子風の子が何か言っているようだが、生憎言葉は分からず、小さな金属音のような声が聞こえる。
だけど、かなりご立腹なのは表情と言動でなんとなく感じた。
「あー、うん。いきなり連れて来て、本当にごめんなさい。でも、この子の服を作ってもらう為に貴方達の力が必要だったの」
『~~~??』
そう言いながらシェナが指差す方を振り向くブラウニー。
シェナが指差す先にはゼノンさんの腕の中でスウスウと寝息を立てるルウがいた。
『・・・・・・。~~?』
「あ、いや、そっちの大きい人じゃなくて、その人が抱いている小さい子。その子の服を作って欲しいの」
『~、』
「今、明らかにホッとしたでしょ」
まあ、ブラウニーの体の大きいでゼノンさんの服を作るとなると、かなり大変なので作業になるよね。
シェナは言葉でブラウニーは身振り手振りのジェスチャーで会話を続ける。
『~~~、~~~~?』
「ちょっと事情があって、その子の服は出来るだけその子の、ルウの魔力に合った服が欲しいの」
『~~~~、~~~』
「とりあえず、急ぎで一着。あとは、普段着と寝間着を三着程。材料はこちらで揃えるし、報酬は貴方達の言い値で払うわ」
シェナがそこまで言うと、ブラウニーは小さな手を、待て、と言うようにシェナに突き出す。
『~~、~~~~』
『~~~~、~~』
『~~~~~~~、~~~』
そして、ブラウニーはもう1人の女の子風のブラウニーと相談をし始める。
「ブラウニーの言葉が解るのか?」
ユージーンがそっとシェナに近づき、少し小声でシェナに問いかけてきた。
多分、ブラウニー達を怖がらせない為の彼なりの気配りだろう。
「いや、解らないよ」
「え?」
「言葉は解らないけど、伝えようとしている事は何となく理解できるよ。
ギルドでも言ったでしょ?私は、魔獣相手に意思を伝えることが出来るって。ブラウニー達も私の意志は伝わっているから、交渉が出来るの」
「・・・・・理解力のある言語が異なる外国人みたいなもの、か?」
「うーん、そう言う考え方は無かったな」
ユージーンの例えは少しシェナには小難しく感じた。
「違うのか?」
「違うと言うよりも、これはエルフ特有の特殊能力だから、」
そこで、一瞬、シェナは言葉を止めた。
「・・・・・本物のエルフだったら、もっと、上手く交渉出来たんだろうけどね」
「え?」
「私、ハーフだから、自分の意思を伝える事が出来ても、相手の言っている事や意思を受け止めきる事は出来ないの」
「・・・・・・」
「この子達は私に分かりやすい様に身振り手振りでジェスチャーしてくれるから助かるよ」
そう言ってシェナは誤魔化すように笑う。
だが、ユージーンには、その笑顔がどこか寂しそうに見えた。
「あ、相談終わった?」
「っ、」
シェナに声をかけようとしたタイミングでブラウニーがシェナに近づいて来た。
『~~~、~~~~』
「一着はすぐに作ってくれるの?」
『~~!!』
ブラウニーは拳を握り小さな親指をグッと立てる。
「ありがとう。助かる。報酬は何がいい?」
『~~~。~~~』
服作りの報酬を聞くとブラウニーが何か言った後、テーブルの上から二人のブラウニーが跳んだ。
「っ!!」
「っ、逃げた?!」
「いや、大丈夫だよ」
咄嗟に身構えるユージーンにシェナは落ち着いて制する。
サササササ!!!
キッチン内を音を立てずに跳び回り走り回るブラウニー達。
やがて二人は、元のテーブルの上に戻ってきた。
女の子風のブラウニーの腕の中には黒い粉が入った瓶を抱いており、男の子風のブラウニーの手には小さな布に包まった何かを持っていた。
テーブルの上で広げた布の中には、白い小粒の穀物、『コメ』が入っていた。
「黒い粉に、白い粒?」
ユージーンが怪訝な顔をする。
「それが報酬?」
『~~~~、~~~~』
フルフルと首を振りシェナの質問を否定するブラウニーの二人。
『~~~、~~~~!!』
女の子風のブラウニーが鍋やボールや竈門を指差す。
その行動に、シェナはある考えに思い付く。
「その二つを使って、お菓子を作るの?」
『~~!!』
『~~!!』
二人は拳を握り小さな親指をグッと立てる。
どうやら、この二つの素材を使って、ブラウニー達の大好きなお菓子を御所望らしい。
「カココの実の粉とコメを使ったお菓子?」
味のイメージが出来ないのかココロは首を傾げる。
『コメ』はイネと呼ばれるの植物の果実で薄く固い外皮を取り去った粒状の穀物の一種だ。
この国では主に家畜の餌として扱われる事が多いが、皮を取り除き精製すれば人間も食べる事が出来る穀物だ。
『カココの実』は高温多湿の土地に実る黒い果実だ。
実は固く可食部分は殆どないが乾燥させて粉末にする事で胃腸薬や血圧低下の薬の材料。香辛料の一つとして売買されている実だ。
だが、単体の味は物凄く苦い。
純粋に物凄く苦い。
この二つはシェナが数日前市場で見つけ購入した代物だった。
「コメはともかく、カココの実は苦味が強い筈だ。ブラウニーは苦味を嫌う筈だが?」
カココの実粉末が入った小瓶を見て、不思議そうに呟くゼノン。
「カココの実は確かに苦味が強いし、主に薬として使われますけど、甘味を加えて調節すればちゃんと美味しく食べれるんです。
この前オヤツに作ったお菓子にも少量ですけどカココの実の粉末を入れました」
「ああ、この前シェナちゃんが作ってくれた、クッキー、だったかしら?あの焦茶色のお菓子とても美味しかったわ。そう、あれってカココの実だったのね」
「はい。あと、料理の隠し味にもなったり、意外にも用途は多いんです。
って、」
そこでシェナはふと、ある事に気づいた。
「その時少し多めに作り置きしていたクッキーが一晩で数個無くなっていたんだけど、もしかして?」
私の言葉にココロさん達がブラウニーに視線を向けると、
『・・・・~~!!』
『・・・・~~!!』
可愛い笑顔で小さく舌を出し小首を傾げて誤魔化そうとするブラウニー達。
「ハイハイ、笑顔で誤魔化さない」
そう言いながらシェナは苦笑する。
笑顔を見せる、そんなブラウニー達はもうシェナ達に対する警戒心は無さそうだ。
小鳥や小鼠と同じ方法で捕まったのに。
そう思ったが敢えて口に出さないシェナだった。
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