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ルウ実食

「あー、どうしたの?」


気まずい空気をそのままにしておくのも嫌なので、シェナがキッチンの入り口の柱の陰にいるユージーンに声をかけることにした。


「あ、いや、部屋の窓の立て付けが悪い様で、その、開けた窓が閉まらない、です」


気恥ずかしそうに、柱の陰から出てきたユージーンが言いにくそうにそう言った。


「、そうか、すぐに直そう」


そう言って、ゼノンさんが動く。


「少し此処で待っていなさい」

「え、俺も」

「すぐ、終わる。ココロ、茶でも出してやりなさい」

「はーい」

「あ、いや」

「大丈夫よ。さあさあ、此処に座って」


ゼノンさんがそう言いながキッチンを出て行き、少々強引にキッチンに招かれたユージーンは戸惑うまま、ココロさんにテーブルの椅子に座らさせられる。


「いらっしゃい」

「あ、あぁ・・・・」


シェナの言葉に戸惑いが混じり生返事をしてしまうユージーン。


そんなユージーンを後目に、シェナはルウをゼノンさんお手製の椅子に座らせる。


「キュ!キュ!」


ペチペチ!!


椅子に備え付けられたテーブルを両手でペチペチと叩きながら、ルウがご飯を欲している。


「あー、ハイハイ。ちょっと待ってね」


シェナはルウのご飯の催促に食事の用意を急ぐ。

赤ちゃん用シチューに木製のスプーン。少し温めの水。柔らかいタオル。

スプーンはルウの口内を傷付け無い為に丸っこく厚みのあるスプーンを使う。


そして、服が汚れない様に薄手の布でルウに簡単な前掛けを着ける。


「はーい。用意が出来たよ。ルウ、食べよっか」


ルウの椅子の隣に座り、ます、スプーンをシチューに浸し、具を乗せずルウの前にゆっくり差し出す。

まずはスプーンに慣れてもらわないと。


「あー」

「キュ?ンァー」


シェナが口を開くとルウも真似をして口を大きく開く。

その隙に、シチューが付いたスプーンを奥に差し込み過ぎないように注意しながらルウの口に差し込む。


「ムウ?んむんむ、」


ルウは少し驚いた顔をしたが、モゴモゴと口の中を動かす。


口からスプーンをゆっくり抜くと、ルウの金色の瞳がキラキラ輝く。


「キュー!!ンアー!!」


ルウは催促をするように口を大きく開けて、待っている。


「どうやら、気に入ってくれたみたいね」


どうやら、未知の物に嫌がる様子は無かった。

意外に怖いもの知らずなのかな?


今度は少し具を乗せたスプーンを差し出すと、自らルウは食らいつく。

モゴモゴと口を動かし、


「アー!!」


また大きく口を開けて、シチューを待つ。


そして、時々、


「水よ。はい、ルウ。お水だよ」


用意していた温めの水を小さな水玉にし、ルウの口元へ運ぶ。

ルウが目の前に浮かぶ水玉に吸い付くように飲み干す。


本当は哺乳瓶があった方がよかったかもしれないが、生憎用意していなかった。


「シェナちゃん、随分と手慣れているのね」


ユージーンのお茶の用意をしていたココロさんが、微笑ましそうに言った。


「前に子守りのバイトをいつくか掛け持ちしていた時があって、その経験です」


口の周りをシチューで汚したルウの口をタオルで拭う。


前のパーティーにいた時、リーダーのガストをはじめ、他のメンバーの無駄遣いが多すぎて、シェナがギルドのクエスト以外にも子守りや買い出しのバイトをして生計を立てていた時期があった。


私はバイトだったけど、赤ちゃんの世話をするお母さんは毎日する事だから本当に凄いなと、あの頃は思っていたけど、まさか、自分が赤ちゃんのお世話をする日が来るとは。

そんな事を考えていると、


「あ、そうだ、シェナちゃん。ルウちゃんのお洋服、予備はある?」

「服・・・・あ、」


ココロさんに言われてシェナはハッとした顔をする。


ルウの服は今ルウが着ているシャツ一枚とオムツだけだった。


「そうだ、ルウの服、すっかり忘れていた。後で用意しないと・・・・」


3日前の素材採取で今は少しお金にも余裕はあるけど、ルウの服の事はすっかり、頭から抜けていた。

やっぱり、こう言う事はまだまだ考えが甘い。


「あら、それなら、私が用意してあげるわ」

「え?」

「そうと決まれば、ちょっと、待っててね」


そう言って、ココロさんはいそいそと着けていたエプロンを外し、勝手口のドアへ向かう。


「あ、ココロさん、」

「待ってて、今、活きのいいの捕まえて来るから」

「いや、何を!?」


シェナの疑問の声に答える間も無く、ココロさんは外に出てしまった。


「何を捕まえて来る気なんだ?」

「あー、うーん。まあ、大方の予想はついているから、多分大丈夫だと思うよ」


ユージーンの疑問に苦笑しながら、ルウの食事を続ける。


ユージーンの疑問に、シェナは苦笑しながら答えた。


「・・・・・・・・・・・・」

「どうかした?」


ルウにご飯をあげている間、ずっとユージーンの視線を感じていた。


「いや、その子供が、本当にエンシェントドラゴンだったんだと思うと何だか不思議な気持ちになってな」

「まぁ、特殊な状態ではあるよね」

「エンシェントドラゴンはこの国が守るべき宝の一つだと言い伝えられている。保護区で遠目で見る事も稀な事だが、今、目の前にエンシェントドラゴンがこんなに近くにいるなんてな」


そう言いながら、ユージーンは穏やかな目でルウを見ている。


よほどシチューが気に入ったのか、目の前の小さな子供は、嬉しそに目を輝かせ、美味しそうに食べている。


「しかも、人龍化してるから更にレアだよね」


残り少ないシチューをスプーンで掬い、ルウに最後の一口を差し出しながらシェナが笑った。


「・・・・・あの、」

「ん?なに?」

「一つ聞きたい事があるんだが、」

「なに?」


ルウから視線を外し、顔を上げると、そこには、少し眉間に皺を寄せた顔をしたユージーンがいた。

その表情は、困った様な、迷っているようなそんな表情だった。


「・・・・3日前、助けてもらったあの日」

「うん」

「君は、『ボキ!!』へ?」


ユージーンが何か言いかけたその時、何か場違いな音がシェナとユージーンの耳に届いた。


その時、不意にシェナが持っていたスプーンが若干軽くなった。

視線を下に向けると、シェナが持っていたスプーンがただの棒になっていた。


あれ?スプーンの先は?


「へ?」


ルウに目をやると、モゴモゴと動かす小さな口から、ボリボリと音が聞こえる。


2人の顔から一気に血の気が引いた。


「~~~~~~!!!!!!」

「ルウゥ!!!ペッしなさい!!ペッ!!」

「ンキャーーー!!!!」



その後、シェナの大声とルウの叫びにゼノンさんが直ぐに駆けつけてくれ、無事にルウの口からバラバラになったスプーンの先の部分を出す事が出来ました。

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