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赤ちゃん用シチュー

キッチンの台には、小さなムム芋一個。小ぶりなオニオン一個。ニンジン一本。脂身が少ない鳥の胸肉。小麦粉と牛山羊の乳、お菓子作り用に作ってストックしていた牛山羊の無塩バター。

必要な材料が揃った。


「よし、始めよう」


まずは野菜の皮を剥く。


ムム芋はどんなに痩せた土地でも丈夫に育つ病気に強い芋で、多くの農家が作っている野菜の一つだ。

皮を剥けば黄なりの実をしており、味はほぼ無味だが、火を通すとホクホクとした食感になり、どんな料理にも合う万能的な野菜だ。


ムム芋、ニンジン、オニオンの皮を剥き終えたら、ムム芋、ニンジン、オニオン、鳥の胸肉を細かく刻む。

ルウが食べた時に、喉に詰め無いように。

そして、細かく刻んだ野菜を鍋に入れ、水を入れて火にかける。

その間に、別の小鍋に山羊牛の乳で作ったバターを投入し火をつけ、鍋の中のバターを溶かす。


本当なら塩を入れたバターを使う所だが、今回は幼いルウが食べるから無塩のバターで作る。


バターが溶けてきたら、小麦粉を入れダマにならないよう、焦げないように手早く混ぜる。

バターと小麦粉が綺麗に混ざり切ったら山羊牛の乳を少しずつ加える。

焦げないように手早く混ぜていくと、小鍋の中に白乳色でモッタリとした感触のホワイトソースが出来上がった。

更に出来上がったホワイトソースを目の細かいザルで裏漉しをして、より滑らかにする。

出来上がったばかりのホワイトソースを小さなスプーンで少し掬い、味見する。


「うん。味しない」


山羊牛の乳とバターの風味と舌触りのいい滑らかな食感は美味しく感じるけど、やっぱり塩味が欲しくなる。


だが、ここで塩を入れてしまったら意味がない。

出来上がったホワイトソースを野菜を煮ている鍋に少しづつ加えてゆっくりと混ぜると、もったりとしたホワイトソースがトロトロに溶けていく。

小さく刻まれた野菜が白乳色のシチュー中でゆらゆら泳いでいる。


「風よ」


出来たばかりのシチューの鍋を風魔法でゆっくり冷ます。

人肌くらいに冷めたところで再び、味見をする。


「うん。やっぱり、薄い」


野菜も肉も口の中でホロホロと崩れるほど柔らかい。野菜の優しい甘さと鳥肉のコク。

そして、ホワイトソースの山羊牛のミルクとバターの風味が効いて、美味しい。でも、やっぱり、薄味に感じる。

でも、


「完成ね」


赤ちゃん用シチュー完成。


「ココロさん、出来まし、」


出来上がった振り返ると、


「・・・・・ッッッ」

「ふふ、ふふふふ」


ルウを抱き上げた状態で石のように固まるゼノンさんとその様子を見て声を抑えて笑うココロさんの姿があった。

よく見ると、ゼノンさんの身体が小さく震えている。


「ッ、ッ、ココロ、ココロ、頼む!早く受け取ってくれ。小さすぎて・・・潰してしまいそうだ」

「ふふふ、大丈夫ですよ。ほらほら、ちゃんと抱いててあげないとルウちゃん落としてしまいますよ?」

「〜〜〜〜!!!」


ココロさんの言葉にゼノンさんは更に身を硬くした。


いつの間にかココロさんの手からゼノンさんの腕の中に移っていたルウ。

ゼノンさん体には抱っこ紐が着けられ、ゼノンさんの逞しい腕に抱かれているルウはゼノンさんの腕の中でスウスウと寝息をたて寝ている。


抱っこ紐に包まれ、逞しい両腕に大事そうに抱き上げられているルウはよっぽどのことがない限り落とされるは無いだろうが、ルウを抱いているゼノンさんはかなり戸惑っている様子だった。


「なかなか、シュールな事になっていますね」

「あら、シェナちゃん」

「ゼノンさん、震えてますけど大丈夫ですか?」

「で、出来たら、受け取ってくれないか」


顔は無表情だが、助けを求めるような目でシェナを見るゼノンさん。

そんなゼノンの腕の中で気持ち良さそうにスヤスヤと寝ているルウ。


「なかなか、図太い神経しているね。ルウは」


出来上がった赤ちゃん用シチューを机に置き、ゼノンさんからルウを受け取ると、ゼノンさんは安堵したように息を吐いた。


「っ、ふ、・・・・すまない」

「いいえ、大丈夫です。ありがとうございます」

「怖い思いをさせていないか、」

「いえ、怖い思い以前に、思いっきり寝てますよ。この子」


心配そうにルウの寝顔を覗くゼノンさん。

だが、確かドラゴンの仔は1日の大半を寝て過ごすと説明書に書いてあった。


「きっとゼノンさんの腕に安心感を感じたんだと思います」

「ン、キュ?」


シェナがそう言っていると寝ていたルウが目を覚ました。


「ああ、ごめん。起こしちゃった?」

「んあー」


小さな口で大きくアクビをするルウ。まだ少し眠そうな顔をしている。

すると、


「キュ?キュ、キュ!!」


眠そうな目を開き、シェナの腕の中でモゾモゾと動き、小さな手を必死に伸ばそうとしている。

手を伸ばそうとした先を見ると、そこにはテーブルに置いた赤ちゃん用シチューがあった。


「お腹空いた?」

「キュ!!」


どうやら、食に対しての興味はあるらしい。


「食べさせるのなら、コレに座らせなさい」

「え?」


そう言ってゼノンさんがある物を取り出した。


「それって、」


それは足が高い小さな椅子だった。

木製の背もたれと小さなテーブルが付いており、テーブルの下からずれ落ちないように囲いもしっかりしている。

どう見ても、ルウの為に作られたルウ専用の椅子だった。


「ゼノンさん、」

「・・・・必要な物だ」

「いや、嬉しいですけど、なんか、行動が初孫喜ぶお祖父ちゃんになっていませんか」

「・・・・・気のせいだ」


いや、赤らめた顔を逸らされ言われても、イマイチ説得力が無いんですけど。


「あら!いいじゃないですか。こんな可愛いお孫ちゃんなら私は大歓迎ですよ。ゼノン」

「・・・・・・」


ココロさんが嬉しそうに笑う。


「うふふ、じゃあ、シェナちゃんが私達の娘でユージーンさんがお婿さんでルウちゃんが2人の子供かしらね」

「え、」


ニコニコと上機嫌のココロさんの爆弾発言に、思わず、ルウを抱えたまま固まってしまったシェナ。

ゼノンさんも、顔を赤くして固まってしまった。


自分が娘でルウが子供って、しかも、ユージーンまで出てくるとは思わなかった。


ここに居ないユージーン、とんでもない飛び火だよ。


そんな事を考えていたその時、


ガン!!


後ろから何か硬い物がぶつかる音が聞こえ、反射的に振り向くと、


「あ、」


キッチンの出入り口から灰色がかった白髪の頭が見え隠れしていた。


「ユージーン」

「・・・・・・・・・」


き、気まずい・・・・・。


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