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もう一仕事

「ふう、さっぱりした」


男を治療したシェナはカマクラの外で火魔法と水魔法を使いお湯を沸かし、濡れた服を乾かし、お湯で身体を温めて乾いた服に着替えて漸く一息つけた。

まだ、濡れた髪を乾いた布で拭きながらカマクラの中に入る。

森で拾った男はまだ死んだように寝ている。

男の容態を簡単に見る。

顔色はさっきよりは少しマシになり、死んだように寝ている。

そっと、額にかかる灰白髪の前髪を払い額に手のひらを当て熱を確かめ、男の口元に耳を寄せ、脈、呼吸を確認。

か細いが、しっかりとした脈音と小さな寝息。


「うん。熱は大丈夫。脈も呼吸も問題はナシ」


薬湯の効果で当分は起きる事は無いだろうが、ひとまずは大丈夫だろ。


「薬湯、効いているみたいね。流石、採れたて新鮮な薬草を使っただけの事はあるわ」


やっぱり、月花の花は薬効が高い。

花一本薬湯に使ってしまったがそれに似合う効果はあった。


そう、思いながら身を整え、昼間残しておいたパンとクルスの実を鞄から取り出しパンに齧り付く。

パンを食べながら、綺麗な布の切れ端に窯の炭で怪我人を発見した事。その為、ギルドへの救急要請の依頼を梟屋の主人ゼノンさんへ綴った。


湖の採取からずっと魔法を使い続けていたから、そろそろ体力と魔力が底を尽きかけていた。

あと一つでも魔法使っていたら魔力不足によりその場で倒れていたかも。

例え、魔力と体力が回復したとしてもシェナ一人で自分よりも大きい成人男性を担いで森を移動するのは厳しいものがある。

『エスケープ』などの帰還魔法は魔力の消費が大きい。だから魔力が並のシェナはに使えない。

その為、シェナはギルドに救急要請をすることにした。

早ければ、今日の昼にはギルドからギルドメンバーが助けに来てくれる。


布の切れ端に炭で要件を書きながらパン一つとクルスの実を二個を平らげた。

ようやく、自分の料理を食べた程ではないが、ある程度の魔力の回復を身に感じる。


「それにしても、まさか、こんなに早く君の出番が来るなんてね・・・」


そう言ってシェナは鞄に付けていた手のひらサイズの球体型の銀網細工を手に取る。

真ん中から上部が上に開くようになっているその中には、梟屋のゼノンさんから預かった魔蟲『シルクビー』が入っている。

上部を開け、『シルクビー』に切り分けたクルスの実を一切れ与える。クルスの実をシャクシャクと食べ終えると、シェナが差し出した人差し指にトトトっと伝って来た。


「お願いね」


さっき書いた救急要請の布の切れ端を小さく折りたたみ『シルクビー』に渡たすと、器用に細い前足で布切れを掴み、更に落とさないように小さな口で布切れの端を噛む。

この子頭が良いな。


シェナは、そのまま鞄を持って、カマクラの外へ出ると、『シルクビー』は羽根を立て、高速で羽ばたかせシェナの指先から離れる。

しばらくシェナの頭上を旋回して結界を抜け、あっという間に夜空の闇に飛んで行った。


「よし」


見えなくなった『シルクビー』を見送って、シェナは手に持った鞄を肩に掛けた。


「さてと、私も、もう一仕事」


シェナは『シルクビー』が飛んで行った方角とは逆の方角、暗い夜の森を見据え、用心の為に姿消しの魔法をかけ結界を出た。

再び冷たい空気に包まれ、暗闇に慣れた眼を頼りに森の中へ走り出した。


実は、男の治療を終えた辺りから森の様子が変わった。


夜の闇に染まるネルの森。

そこは、魔獣達のテリトリーの筈なのに、静か過ぎる。

殆ど風も無く静寂と言えるほど静かなのに、森から魔獣達の気配が騒ついている。

まるで何かに脅えて騒つき、隠れているみたいだった。


心当たりが有るとしたら、男が湖に出てきた方角。

確か、あちらの方角はネルの森の最奥地。更にその奥は険しく、この森の魔獣達よりも更にレベルが高い魔獣が住む山がある。

あの男の怪我は魔獣に襲われたもので間違いはないだろう。

もしかしたら、満月の夜で魔素が高まり、山から厄介な魔獣が森に降りて来たか?


とにかく、怪我人を拾ったからにはその原因を調べないと、色々と面倒くさい。

特に現在フリーのシェナは基本的自己管理の自己負担だ。

明確な原因と証拠が無いと怪我人の男の保護は最悪の場合、シェナが背負い込む羽目になる。


「・・・・、やっぱり、湖に放流しとけばよかったかも」


森を駆け抜けながら、今になって段々と面倒事になって行く、そして事に男を助けた事に少々後悔するシェナだった。

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