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湖の採取へ

目の前でクツクツと煮立ち、モウモウと湯気が立つ『ワイルドボア』のぼたん鍋。


「我の糧になる尊き命よ 命を生み出し天と大地よ 天地の恵みに感謝します」


食材への感謝の祈りを捧げる。


「いただきます」


祈りを終え、早速スプーンでお肉とベーベルの葉とゴボウの根、そして、鍋の汁を小皿にとる。

湯気が立ち上る。まずは、スプーンで汁を一口。


「・・・・・・ん、はぁ」


思わず歓喜のため息が出てしまう。

ブシの旨味と共にミソの絶妙な柔らかい塩っぱさ。『ワイルドボア』から出ている脂の甘みと野草と根菜の甘みが溶け込んで、ショウガの微かな辛味がピリッと味を引き締める。

一口飲んだだけなのに、お腹の中がじんわり温かくなる。


「おっと、汁は残しておかないと」


二口目の汁を既で止め、今度はお肉を少し吐息で冷まして口に入れる。

薄切りにしたお肉なのに、


「お肉、ムチムチして美味しい」


火が通ってむっちりとした食感。噛み締めると肉汁が溢れる。


「やっぱり、冬越えした魔獣の肉は脂の乗りが違う」


旨味と脂の甘みとちょっとの塩っぱさが口の中で満たされる。


「はぁ、美味しい」


噛み締め、飲み込み、口から出た吐息が暗い森の中、冷えた空気で白い靄になる。

幸せの吐息だ。


ワイルドボアの毛皮と牙と骨は売り捌くけど肉は取っておこうかな。

この肉で腸詰めや燻製肉作ったら絶対美味しい。

上手く出来たらアーシアさんやロベルトさんやココロさん達にお裾分けしよ。


そんな事を考えながらハフハフと口の中が、火傷しそうなほど熱い鍋を食べる。

熱いけどそれがまた美味しくて、構わずにお肉、野草と根菜、キノコも食べる。

ベーベルの葉はしんなりと、だけど咀嚼するとシャキシャキと小刻み良い音がする。

ちょっとしょっぱい汁を程良く緩和してくれる。

ニンジンもゴボウの根も火が通って、ホックリとしていながらも、ポクポクと適度な歯ごたえ。

根菜から香る微かな土の香りが口の中で広がる。

コル茸も脇役ながらコリコリとした歯ごたえが楽しい。

ショウガを入れたお陰で体の芯からポカポカしてくる。


味に食感に香りを堪能していたら、


「ふぅ、ごちそうさま」


あっという間に鍋の具を食べてしまった。

まだ、鍋の中には具の旨味が溶け込んだ汁が半分くらい残っているが、こぼれない様に鍋に蓋をする。

コレは後のお楽しみにとっておく。


「よし。腹ごしらえ完了」



シェナはカマクラの中に入り、採取の最終準備をする。

着ていた上着とズボンを脱ぎ、履いていたブーツと靴下も脱ぎ、シェナは下着の上にシャツ一枚着ている格好になる。

着ていた藍色のシャツはシェナには少し大きめな長袖のシャツ。

裾はシェナのお尻まであるが太腿から素足が丸出しだ。

大分恥ずかしい格好だが、人目は無いし、これから行く場所が場所だけあまり多重装備は好ましく無い。

ズボンに通していたベルトを引き抜き腰に巻く。鞘付きのナイフをベルトに差し込む。

次に頭に巻いていた青いターバンを広げ、市場で購入した大きめなガラスの瓶を3つを落ちないに且つ取り出しやすい様に包む。


「次は、火よ。光よ」


火の魔法に光の魔法を合わせ、光の玉を作る。暖かな光のがカマクラの中で満ちてカマクラの室温を上げておく。

ついでに、ゼノンさんから預かったシルクビーに森でとった木の実をあげておく。


「留守番、よろしくね」


シルクビーはシェナから木の実を受け取り銀編み細工の籠の中でブーンと小さく羽根を鳴らした。


瓶を包んだターバンを肩にかけ、準備完了。

カマクラの中の灯りを弱くして、カマクラの外、結界の外に出る。


「寒っ!!」


春先の冷気が下着にシャツ姿のシェナの素肌を一気に冷やす。

特にさらけ出している素足がめちゃくちゃ寒い。

凍える。すぐに結界の中に引き返したい。

だけど、空を見上げると、大きなクリーム色の満月が薄い雲に覆われていた。


「少し、ゆっくりしすぎた。急ごう」


シェナは凍える体を奮い立たせ、湖に向かう。



湖に着くと夕方見たい景色とは全く違う。

深い緑に囲まれていた広い湖は夜の闇で深い藍色に、周りの森の木々は黒と紺色。

空には薄い雲に隠れて鈍く月光を放つ満月。淡い月光が木々の影を作る。

森に住む魔獣の気配は微かに感じるのに湖の周りは怖いくらいの静寂が包む。

シェナは周りを警戒しながら湖のほとり、岩場になっている場所に向かう。

広く深い藍色の湖。シェナは水面に近い岩場に腰掛け底が見えない湖に素足の両脚を下ろす。


「ッ、」


膝まで下ろした両脚に春先の湖の水の冷たさが全身に走り一瞬息が詰まる。

痛みにも似た冷たさで手足の筋がぐっと強張る。


「ッ、水よ」


シェナは意識を集中する。

湖の水が、両脚を伝い腰まで上がりシェナの下半身を包み込む。

あっという間に下着もシャツも水に濡れる。

下半身から感じる水の冷たさに耐え、両脚を水面に上げる。

すると、シェナの両脚は青く透き通った大きな尾ビレが付いた魚の下半身になっていた。

少し動かせば両脚についた水滴が宙に舞う。


「問題は、ないね」


最後に透明な結界魔法で上半身を覆う。


「よし、行こ」


シェナは満月が映り込む藍色の水面に身を投げる。

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