ある魔法使いの苦悩58 魔獣
私たちはこの大森林に来たときと異なり四人パーティーになった。
最前衛をシンクが努め、間にサラを挟んで私とメルティが横に並ぶ。ときおりメルティがサラの髪の毛に触ろうとするので、私はその都度ピシッとその不届きな手を叩き落とす。いちいち大袈裟に痛がるが、痛いような音がしているだけでそんなに強く叩いるわけではない。絶対に痛くないはずだ。
「ところで、ファーレンたちはどこへ向かっているの?」
「メルティも同行するようになったから目的は共有しておこう」
私はメルティにこの大森林に来た目的を話した。驚くかと思ったがさしたる興味もなかったようだ。「ふーん……」とだけ言うと、目は再びサラのみを捕捉する。
「シンク、白虎がどこにいるかはわかりそうか?」
「ああ。すでにそちらに向けて進んでいるところだ」
「そうだったのか!? 近い場所なのかい?」
「近くはないな。感覚的に、大森林の中心部にかなり近いところにいるみたいだ」
「中心か……」
この大森林はとてつもなく大きい。私たちが森に入ってからかなりの距離を歩いたが、まだまだ中心には遠かったはずだ。妖精の森をバイパスしたためにもはやどこにいるのかがわからない。森の民であるシンクが感覚でも中心であると言った以上、本当に中心に近いところに白虎がいるのだろう。
「少し気になることがある」
先頭を歩くシンクがこちらを見ないまま話し出した。
「気になること?」
「ああ。白虎様が大森林の中心にいるのは人に見つからないためだと聞いている。それがわざわざファーレンたちの前に姿を現したのはなぜなのか。私はそこが気にかかる。何を思い姿を見せたのか。そのことが何を意味しているのか」
シンクに言われて私も考える。元々白虎かどうかはわからないが、白い子虎の目撃情報や遭遇情報があったので私とサラはこの大森林に来ることになったのだ。仮にその子虎が白虎だとしても、わざわざ人に発見されるリスクを負う理由がない。それとも、人前に姿を見せないといけないほど緊急の事情が起きたのか。
青龍と同じであれば、白虎もかなり弱っているはずだ。だが、私とサラが出会った白虎は姿こそ普通の虎と同じくらいの大きさだったが、立居振舞に威厳のようなものがあった。凛々しいというか、悠然というか。
「長の話だとサラは器だと言う。となれば、自ら進んでサラに会いに来たというのが正しいと解釈するのが妥当だ」
「白虎が自分からサラに会いに来た。……それはつまり、白虎もサラに宿るということになるのか?」
「同じ現象が起こるのであればそうだろうな。さすがに私はそこまで四神について詳しいわけではない。白虎様ですらよくわからない。他の四神がどんなことを考えているかなどわかるはずがない」
「私も似たようなものだけどね。思いのほか大きな話になってきたけど、私もサラも四獣と関係を持ち始めたのはつい最近の話だよ」
いずれにしても白虎に会わないと何をどうすることもできない。シンクの案内で確実に白虎に近づいているのであれば私にできることはその間サラを守ることだけだ。
今一番危険なのはメルティが何を考えいているのかがわからないことなのだが。
「……みんな、止まれ」
シンクがトーンを落とした静かな声で制止する。
「どうしたんだ?」
「何かいる。気配がなかったから気づかなかったが……あれは恐らく魔獣の類だ」
「魔獣だと!?」
「しっ……声が大きい」
「……すまない。しかし、なぜこんなところに魔獣がいるんだ?」
「こんなところだからだろう。妖精の森には魔獣などいないが大森林はそうではない。あらゆる生命が生まれ死ぬ。自然に一番近い場所だからな」
シンクは油断なく視線を固定する。私からでは何も見えないが、エルフであるシンクは視力が良いのだろう。シンクは背から弓を外し、矢を番える。
「私が大きく先行する。ファーレンたちは後方から支援をして欲しい」
「何をすればいい?」
「意識を分散してくれれば充分だ。隙を作ってもらえれば私が攻撃をする」
「わかった。可能な限り注意を引いてみるよ」
シンクは弓を構えたままジリジリと前進をする。
「おかしいなぁ?」
緊迫した状況にも関わらず、メルティが気の抜けたような声をあげる。
「なにがおかしいんだ?」
「シンクが見つけた魔獣はボクにはまるで感知できないんだよ」
「それの何がおかしいんだ?」
「えっ? わかんないの?」
「……わからないから聞いている」
「ファーレンは意外と不勉強だな。もっとできる奴だと思っていたのに」
メルティは口元に手を当ててニタリと小馬鹿にしたように笑う。
「前置きはいい。何がおかしいんだ?」
「シンクも言っていたけど気配がないんだよ。魔獣なのに気配がないなんてことがあるわけないじゃん」
「…………確かに。どういうことだ?」
「だからそれがわからないんだって。おかしいなぁ?」
メルティは腕を組んで「なんだろうなぁ?」と首を傾げながらシンクのあとに続いて進んでいく。
私はサラの手を取ると、考えながら歩くメルティのうしろに続いた。





