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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第3話 ある女商人の苦労話
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ある女商人の苦労話2 失敗談

「いらっしゃいませー! 居酒屋『冒険者ギルド』へようこそー!」


 とっても元気で可愛らしい店員さんだわ。若いっていいわね。


「おふたり様ですか?」


「はい」


 で、いいんだよね? 私は隣の彼女を確認する。うん、と頷いているのでおふたり様です。


「個室と大部屋とどちらになさいます? ここに来るみなさんは大部屋でワイワイするのが大好きなんですけど」


「うーん……いきなり見知らぬ方に囲まれるのは緊張するわ」


「わたしもそうですね」


「では、個室のほうへご案内いたしますね」


 若くて元気で可愛い女店員さんは、私たちがコミュニケーションに難あり、と判断したのかもしれない。オススメの大部屋ではなく、さっさと個室に案内するってことはそういうことよね?


 私はチラッと隣の彼女の横顔を観察する。特に何も気にしている様子はない。賑やかで、ちょっと男っぽい店内を見て口元が綻んでいる。大部屋でも良かったかしら?


「では、こちらの個室にどうぞー。お呼びの際は直接声をかけていただくか、そちらのベルを鳴らしてくださいね。それでは、ゆっくりとおくつろぎください」


 ペコリと気持ちのいいお辞儀をして、若くて元気で可愛い女店員さんはキビキビとした動きで去って行った。


「元気な子ですね」


 魔法使いの彼女はまるで妹でも見るような優しい目で、既に誰もいなくなった個室の入り口を見ている。


 私は、そうね、と軽く相づちを打ち、おもむろにメニュー表を手に取った。まずはドリンクよね。


「ねぇ、私まだあなたの名前を聞いていなかったわ。名前を知らないと話がしづらいから、お互い自己紹介でもしない?」


「ええ。妙案ね」


 私が口調を崩したからか、彼女も口調を崩した。しかし、妙案ね、ってなかなか粋な話し方をするわね。


「じゃあ、まずは私からね。入り口でも話したけど、私は破産した元商人でジェリカって言うの。今は、こさえた借金を返すために田舎に帰って親のお店を手伝っているわ」


「実家住まいなのね。それなら破産しても大丈夫なわけよね」


「そうなの。実はそこにカラクリがあって、私は商売に失敗して確かに一度破産したんだけど、実は親がその借金を立て替えてくれて、私は親に借金を返しているのよ。街の金融屋だと結構な暴利なんだけど、親だから金利ゼロ。とても助かってる」


「金融屋に借りていたの!? あなた、危うくどこかに売り飛ばされていたんじゃないの?」


「そうなのよ! 実は結構ヤバめで、親に早々に相談したから今はもう大丈夫だけど、もし自分でなんとかしようと思っていたら、私きっと風俗か海の底だったかも。いやー、親には感謝してもし切れないわ」


 これは本当の話。私の商売はあるときまで上手くいっていたんだけど、どこでハシゴを踏み外したのか、急転直下の大ブレーキで、一気に谷底に真っ逆さま。仕入れはしちゃったものはお金を払わないといけないし、いくつか手を広げていた店舗の家賃や光熱費も結構な額だから、入りがほとんど半減以下になったら一気に回らなくなっちゃってそのまま廃業。


 支払いだけはなんとかしようと、すっごく悩んだけど街の金融屋に借りて支払いだけは焦げ付かなかったけど、私の借金は結構な額になってしまった。最初から親に相談すれば良かったけど、このときはまだ自分でなんとかできると思ってた。すぐに後悔することになるんだけど。


「思ったよりヘビーな話でビックリよ。それにしてはあなた明るいわね」


「そう? 入り口でここに入ることを躊躇うよなビビリよ? 借金取りにちょっと脅されただけで親に相談するヘタレだし、どっちかって言うとダメ人間よ」


「ダメ人間なんかじゃないわ」


 わりと真剣に魔法使いの彼女が私の目を真っ直ぐに見てくる。超真剣。あー、綺麗な目をしているわね。


「失敗しちゃったけど商売もちゃんとできてるし、自分が借金をしてでも支払いはちゃんと完了したし、しっかりと親を頼って借金こそ残っているけど、真っ当に生きてる。これは、立派よ」


「……ありがとう。ゴメン、なんか泣けてきた」


 今日会って、まだ名前も知らない彼女からこんなに肯定されるなんて。今泣かないで、いつ泣けばいいの?


「いいよ、泣いても。わたしが慰めてあげるわ」


「……姐さん!」


「誰が姐さんよ、もぅ! そんなこと言ったら慰めてあげないから」


 ぷいっとそっぽを向かれる。ごめーん、慰めてぇ!


「……もう、冗談よ。よしよし」


 そして、こんな歳なのに今日会ったばかりの女性に頭を撫でられて喜ぶ私だった。お互い、変人ね。

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