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居酒屋『冒険者ギルド』  作者: ヒース
第3話 ある女商人の苦労話
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ある女商人の苦労話1 意気投合

(※)ここから『女商人編』が13話続きます。『魔法使い編』の続きを読まれる場合は、一度目次に戻り、74部以降を選び直しておたのしみください。

 ここが居酒屋『冒険者ギルド』ね。


 私はそこそこ大きくて、でもなんだか外面がこじんまりとした居酒屋を前に、入るか入るまいかを躊躇していた。


 曰く、過去の英雄たちが集まる場所だとか。

 曰く、昔憧れていた勇者が、まさかあんなおっさんになっていただなんて……来なきゃ良かった! だとか。

 曰く、君たちは本当に元冒険者なのかい? と言わざるを得ない面々しかいないだとか。


 変な噂だけが先行していて、気にはなっていたものの、なかなか来ることができなかったいわく付きの店だ。


「せっかくここまで来たんだし、ここで帰るのも頭悪いわよね」


 私は意を決した。


 ……


 ……と思わせて、まだ迷っていた。


 だって、なんか怖そうなんだもん!


 暖簾の奥からは暖かな光と、妙に明るい騒ぎ声が聞こえてくる。野太い。そして黄色い。ここが居酒屋『冒険者ギルド』である証拠なのか、聞こえる声は良く通って大きい。ちょっとうるさいほどだ。


「よしっ! やっぱり入ろう!」


 私はいよいよ覚悟を決めた。そう決めた。決めたったら決めた!


 乙な造りで入り口は引き戸だ。和風のお店でよく見かけるものだが、地震とかで開いちゃわないのが不思議といえば不思議。でもイヤよね。入り口付近のカウンターで飲み食いしているときに、誰もいないのに入り口が勝手に開いたら。


 そりゃ、怖いよね。怖いわ。私、思わず帰っちゃうかも。


「……もしもし?」


「は、はいっ!」


 私が引き戸に手を伸ばしかけていたら、どうやらそこでしばらく固まっちゃっていたらしい。私よりも後から来た女性がちょっと迷惑そうな顔で私に話しかけてきた。


 もしかして、ここの常連さんとかかな!?


「お姉さん、ここに入るんですか?」


「え、ええ……その、つもりです」


「そうなんですか。実はわたしもここに来るのは初めてで。せっかくなら一緒に入りませんか?」


「ぜ、是非!?」


 いけない! 声が裏返っちゃったわ。あー、やっぱり怪訝な顔をされている。誘ったの失敗かなぁ……って顔してる!


「あなたはおひとりですか?」


 誤魔化すように私は彼女に質問をした。よく考えるとかなり失礼な質問だったかもしれない。


「はい。わたし、最近魔法使いを引退したんですよ。なんだか疲れてきちゃって」


「はぁ、そうなんですかぁ」


「あなたは?」


「私ですか!? 私は破産した商人です。強制終了ですよ、はは」


 うわぁ、メチャクチャ引かれてる! さすがにいきなり破産はパワーワード過ぎたわね。失敗したぁ!


「……そのぉ、大丈夫なんですか?」


「何がですか?」


「お金、あるんですか? 破産したんですよね」


「そう思います? そう思いますよね。でも大丈夫なんです」


「お金持ちの方と結婚でもしたんですか?」


「いやいや。残念ながら独身です」


 お店に入りもせずに入り口の前でいったい何を話しているんだ、私たちは?


「奇遇ですね。わたしも独身なんです」


 おーっと、どうやら親近感が沸いてきたようだ。思わぬところで独身繋がりで共感が得られた。破産のパワーワードが帳消しにされた気がする。


「そんなにお綺麗なのに、もったいないですね」


「あなたこそ、まだお若くて綺麗なのに、独身だなんてもったいないですよ」


 あはは。私たちはお互いを褒め合いつつ傷を舐め合うという最高のシナジーでとっても恥ずかしくなった!


 初対面! そして、ここは店の入口! つまり、まだ人前なの!!


「……ちょっと寒いわね。立ち話もなんだし、どうです、入りましょう?」


 寒くもなんともないんだけど、心が寒くなりかけていたから私は強引に居酒屋『冒険者』ギルドに入ることにした。


 さっきまであんなに躊躇っていたのに、今となってはさっさと入ってしまいたい気分しかない。


 なるほど! 今後お店に入りづらいなぁ、と思ったら、恥ずかしいことを思い出せばいいのね! なんて生活の知恵!


 このノウハウ、もしかして売れるんじゃないかしら?

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