おまけのおまけのりりしい騎士様。
たくさんの方に読んでいただきました。
たくさんの応援を頂きまして、感謝の気持ちでいっぱいです。
ありがとうの気持ちをお話に変えまして。
おまけのおまけを追加です。
騎士リスティド目線です。
お楽しみいただけますように。
では、どうぞ。
ふたり並び立つ姿はとても絵になる。
慈愛に満ちた笑顔を振りまく王太子と、理知的な微笑の第一候補姫。
表向きの、よそ行きの貼り付けた笑顔は、どちらも幼い頃からその性格は知っているので、俺たちからしたら面白くて仕様がない。
他の候補姫たちは可愛らしい容貌だからか、王太子と並べば、ただ朗らかで軟弱そうにしか見えなくなるから不思議だ。
それが第一候補姫と一緒だと、きりりと引き締まった雰囲気になる。
どちらもすらりと背が高いから、お互いに引き立てあうのか。種類の違う笑顔だというのに、やはりお似合いだと思ってしまう。
王太子に一体どんな急展開が起こったのかは知らないが、ある日突然レオレオ言い出したかと思えば、それは止まらなくなった。
いつまでもぐずぐず渋っていたが、候補姫たちの順位を決めて、すぐさま王陛下に進言した。ついでに、第二候補以下は考慮にないこと、側室は必要ないことも告げる。
今まではっきりせず、躱しては伸ばし伸ばしにしていたので、王陛下は快諾するしかなかったご様子だ。
これでいくつかある後継者問題のひとつが解消した。胸を撫で下ろしこそすれ、各所での反対も無いとお見受けする。
そもそも候補姫たちの中から誰を選ぼうが、過不足はないという見解だから、王太子がどこぞの町娘を見初めなかっただけで憂いなしなのだろう。
上の世代の方々は、そうお考えのようだが。
「リスティド! さっきのレオの顔見た? 見てたよね?! 見てたでしょ?!」
いや、貴方の身辺に危険はないかに目を向けているので、レオノワトがどうだったかなんて気にしていないですよ。
「はあぁぁぁ……ぅう!」
反芻しないでもらえますか。
あと、ぶるっと震えないで欲しい。
それからそのうっとりした顔。
キモいと叫んで不機嫌全開になるレオノワトの気持ちの方こそ、俺にはよく分かりますよ。
いくら周りには気の許せる者しかいない時とはいえ。
もう少し威厳を保って、気を引き締めていただきたい。
まぁ今更だけど。
「……よし決めた。もうこの役目はリスティドに任せよう!」
今度は何ですか。
「お前、ちょっと国境警護でも行って、ひとつ武勲でも上げておいで。そうだな……東端の盗賊団を潰すので良いよ」
近所にお使い的に言わないでもらえませんか。めちゃくちゃデカくて幅利かせてるやつでしょ、それって。
何ですか、急に。武勲て。
「皆が納得するくらいの手柄じゃないとね。さあ、持っておいで」
いやいや、犬に棒切れ取ってこいみたいな軽さで言わないでもらえませんか。
面倒ですよ、東端て。遠いし。
「えー。だって……それくらいしないと、ジュリシテはあげられないよね?」
はい! 行ってきます!!
「早く帰っておいで。じゃないと中庭で毎日なぐさめもなく泣いたままだよ」
もちです!! 速攻で行って帰ってきます!!!
え、ていうか。
なんでバレたんだろう。
墓まで持って行く級に隠してたはずなのに。
「お前、自分が思ってるほど、無口で分かり難い性格じゃないからね、リスティド」
周りがうんうん頷いている。
え、そう?
いや、多分。
付き合いが長いからゆえだと思う。
そういうことにしといて下さい。
「まあ、頑張っておいで」
はい。
伊達に貴方の騎士をやっている訳ではないので。
文句無しの手柄を立ててご覧にいれましょう。
とまぁ、頑張った甲斐もあって。
この度めでたく、中庭でジュリシテを慰める役を任されることになりました。
全身全霊を込めてありがとうございます。
これから先、一生はジュリシテに捧げる気満々ですが、付いては行くのでご安心を。
「花をね、贈ろうと思うんだ」
……どうですか、花で喜ぶ手合いですかね。
「人に用意させたり、高価なものだと大げさだから嫌がるだろうけど……待ってくれ、花を贈られて喜ばない女性なんて居るのか?」
まず、贈れば良いだろうって、そこから間違ってますよね、きっと。
本当に喜ぶ人って『花が好き』か『花を贈る人が好き』なのか『花をもらえる自分が好き』のどれかですよ。
で、多分レオノワトはどれでもないです。
「うん、よし。庭に出るぞ、リスティド」
あ、そんなのどうでもいいですか。
はいはい、お供しますよ。
そう。
なんていうか。
王太子のこの打たれ強さは、すごいと思う。
いや、打たれてもそれと感じてないのか。
いや、そもそも打たれてすらないのか。
いや……まさか打たれにいってはないですよね?
どんな悪態にも喜んでいるように見えるのは、気のせいですよね?
今までに見たことのない面がぼろぼろでてきて、我が主人が心配になってくる。
……心配なのは 王太子 に絡まれているレオノワトの方か。
……気の毒に。
知らない間にあちこち精力的に手を回し、根回しをし、他の候補姫たちと誠意を持って対話をし。
俺たちには、じゃ、そういうことで。と、あっという間もなく、気が付けば『満場一致』が出来上がっていた。
最近の王太子はよく働く上に、すこぶる機嫌がよろしい。
嬉々としてレオノワトを追いかけ回す。
ますます彼女に対する気の毒さが増していく。
逃す気皆無だな。
「ねぇ、これどうしようか、レオノワト」
「私を国政に巻き込まないで」
「なぜ? そのうち私たちの国になるのに」
「……恐ろしいこと言わないで。それはダメ人間の台詞です」
「おかしいな。それなりに良き王になる予定なのに」
「脳みそ爛れてるのに?」
「ふふ……爛れていても仕事はできるよ」
「この程度も片付けられず、助言を仰ぐ方の仕事ぶりなんて、たかが知れています」
「レオに構ってもらいたいんだよ」
「……全部の指、深爪しろ」
「ああ、レオのきれいな肌に傷が付いてはいけないからね」
「……いちいち触らないで!」
「勝手に動いてしまうから、仕様がないよ」
「うざキモい!!」
「……ぅう! 見てくれみんな! こんなにもレオがかわいいんだ!!」
ええ……はい。
仲が良いのは、大変素晴らしいことと、お喜び申し上げます。
うん? 仲が良い? のか、これは。
良い、のか、これで。
ああ、まあ。
あ、ちょっと……周りの目も、できたら気にして欲しいかと。
気配を消す技がめきめきと上達してますけど、俺たち。
なんというか、そう。
我が王と我が国に、栄光あれ。
……としか。
ああ……ちょ……!
うちの王子が、申し訳ない!!
でもよろしくお願いします!!
ほんと、頑張れ! レオノワト!!
お読みいただき、ありがとうございました。
これにてこのお話は終わりでございます。
またの機会をごひいきに、この他にテイストの違う短編、長編も各種ご用意がございますので、興味があれば是非どうぞ。
よろしくお願いいたします。