ep17~久留沢陸丸~
ZONEは毎週日曜日21時更新です。
「ピッピッピー! 両者整列!」
「ありがとうございました!」
水色のユニフォームを着た選手たちと、青色のユニフォームを着た選手たちがセンターサークルの中央で握手を交わす。
試合の結果として、自分が一点目を決めた後、同じシチュエーションでもう一得点をあげ、2対0のスコアで試合が終了していた。ただ楽に試合の流れを試合することはなく、終始こちらがピンチになったことは多々あった。だが道山先輩をはじめとする守備陣の選手たちが踏ん張ってくれたので無失点で抑える事ができた。
「……蹴也……サッカー、やってたんだな」
「……久留沢先輩」
両者の握手が終わって時雨ベンチに挨拶に行こうとしたところで、後ろの方から声を掛けられた。
「挨拶が終わったら少し話せないか」
「ああ、いいですよ」
僕は言われた通り時雨のベンチに頭を下げた後、近くのベンチに座っている久留沢先輩のところに向かった。
別に何の内容の話をするのかは知らないが、今の僕はZONE状態が解けている状態なので、棘々した言葉を吐いたり、悪い態度を見せる事はないだろう。
僕は久留沢先輩の目の前に立つと、頭にタオルを被せた彼は俯いたまま口を開いた。
「蹴也……俺の事恨んでいるか?」
「昔の事なんで、もう何にも思ってません」
「……謝って済む話ではないと思うが、言わないと俺の気が済まなかったんだ。妹さんにも酷い事をした。本当にすまなかった」
中学時代他の部員と騒いで調子に乗っていたあの久留沢先輩が丁寧に頭を下げるなんて……、まるで別人みたいだ。
だが自分の心情として本当に恨んでいる訳ではない。いや、少しはそう言った気持ちが心のどこかに存在するのかもしれないが、精一杯正々堂々と戦って叩きのめしたかった。
これは僕にとって復讐なんかではなく、昔サッカーに憶病になっていた過去の自分への決別の意味を込めた試合だった。
「僕は前に進むための一つの経験としか考えてないんで、もう過去の事は見ていないです」
「蹴也……何か変わったな。……俺も気づいたんだ。お前がサッカーを辞めてから」
僕は鈴香が久留沢先輩にボールをぶつけられそうになった騒動の後、少ししてからすぐに部活の顧問に退部届を出しに行った。辞める理由は詳しくは聞かれなかったが、執着されていたわけでもなかったのですぐに身を引く事ができた。
「あの日お前が救急車に運ばれているのを見て、自分がどんなに酷い事をしたか思い知った。あの頃の俺は思考もガキ過ぎたから、部活に入部してすぐにレギュラーに選ばれたお前を見て嫉妬みたいな感情に縛られていた。だからあんな気が狂った行動を起こしたんだと思う」
確かに二年と三年生の先輩たちを差し置いて自分が飛び級でレギュラーなんて、先輩たちからしたら苛々した以外のなんでもないだろう。
……久留沢先輩もそういった類の先輩の一人だったんだろう。
「名前を呼んでも反応しなかったお前を見て、一気に血の気が引いたのをまだ覚えてる。その時からもうふざけるのはやめて練習にもまじめに取り組んだ。表面上は自分の戒めを理由としていたが、本当は真面目に練習することで、自分の行いが少しでも許されているような感じがしたからだ」
苦い思いをしていたのは久留沢先輩もということか……だがそれが理由でこの人の過去の行いが白紙になる訳ではないし、今更許されるわけではない。
「僕はこの舞台で久留沢先輩とサッカーできたのは良かったと思ってます。過去の柵を振り払う事ができたことも大きいですが、何より一生懸命サッカーをしている先輩を見れて良かったです」
「蹴也……俺もお前がいたから心を入れ替えて真正面からサッカーと、そして自分自身と向き合う事ができた。本当にありがとう」
自分の過去が一人のサッカープレイヤーを救った、そう見方を変えればあの出来事も糧として捉える事ができる。お陰で僕も成長することができた。
「今回は負けたが次は高体連だ。その時までにもっと俺たち時雨は強くなってる。じゃあな蹴也、次は負けないからな」
「思いっきりぶつかって来てください。次も負けないので」
椅子から腰を上げてこちらに向かって手を振ると、水色のユニフォームを着た選手が小さくなっていく。
時雨のベンチへと向かう選手の背中を僕はずっと目で追っていた。次戦う時があったら二得点じゃ済まさない。
僕は久留沢先輩の背中に向かって静かに言葉を飛ばした。
お読みいただきありがとうございます。無事春季大会一回戦勝つ事ができました。次はどこの高校と試合をするのか、春季大会編を長い目で見守ってください。
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