チーム59
「……知らない、天井だ」
ゆっくりとまぶたを開ける。俺はどうやら、見覚えのないベッドの上に寝かされているらしい。
「どこだ、ここ? そういえば俺、家で怪異に襲われて……」
昨夜の凄惨な追いかけっこと、あの男の唐突な手刀を思い出しながら、頭を押さえて上体を起こす。
部屋は六畳ほどで、置かれているのは大きめの机と、壁際に鎮座する一台の古いモニターだけだ。
そのモニターの前では、二人の人物が並んで座り、ゲーム画面と睨めっこをしていた。
一人は、黄色いパーカーに赤いマフラーを巻き、サングラスをかけた軽薄そうな男。
もう一人は、灰色の髪にダボついたパーカーを羽織った小柄な少女。
サングラスの男は、昨夜路地裏で俺の名前を尋ねてきた奴に間違いない。
二人は俺が目を覚ましたことには気づいていないらしく、コントローラーをガチャガチャと叩きながら会話を交わしている。
「う、手加減して」
「手加減してるっすけどねー。ナイン先輩が弱すぎるだけですよ」
「……今のはウォーミングアップ。次から本気出す」
これは……誘拐なのだろうか?
だが、部屋に流れている空気はあまりにも平和で、危機感がまるでない。本当に危険な連中による拉致なら、俺の手足くらい縄で縛られているはずだ。
一筋縄ではいこなそうな二人を観察しながら、俺は音を立てないようそっとベッドから降りた。
「あ、起きた?」
灰色のパーカーの少女――ナインが、ふとゲーム画面から目を切ってこちらを振り返る。
「起きたっぽいっすね。一旦ゲーム辞めますよ。ライム君、そこ座って」
サングラスの男がコントローラーを置くと、部屋の中央にあるパイプ椅子を指さした。
「あ、はい……」
言われるがままに椅子へ腰を下ろすと、二人も俺の向かい側に並んで座り直した。
「えっとね、君は今まったく状況が掴めてないよね? 今から君が知りたいことを説明するから、ちゃんと聞いてね。簡単に言うと――君は『中層』の連中に狙われてます」
「は……? 中層……?」
「あ、正確には『君の能力』だけどね。で、俺たちは中層の奴らに君の能力を奪われたくないからこうして連れてきた……まあ、端的に言えば『拉致』したってわけ」
サラリと告げられた内容があまりに飛躍しすぎていて、頭が追いつかない。
だが、「中層」という単語の重みだけはしっかりと耳に残った。
「あの……俺の能力なんて、火力の弱い炎を少し出せるライター程度のものですよ? そんなの狙う意味ありますか……?」
困惑交じりにそう尋ねると、向かいの二人は顔を見合わせ、同時にポカンと口を開けた。
「ふーん……まあ、とにかく連中がわざわざ手駒を寄こして狙ってくる以上、君には自分でも気づいてない『何か』があるってことだ」
サングラスの男が身を乗り出し、ニヤリと底意地の悪い口角を上げる。
「俺たちもできれば無駄な殺生はしたくないんだけどね。連中に君をとられるぐらいなら、君ごと吹き飛ばすくらいは平気でやるよ。あ、ちなみに警察は中層のイヌだから頼っても無駄ね」
男の言葉は軽いが、サングラスの奥にある目が一切笑っていないのが分かった。
「でだ、提案なんだけど。ここで君が逃げ出しても連中に捕まって無事ではいられない。かといって俺たちも君を敵に渡したくない。 解決策は一つしかないでしょ。君、うちのチームに入らない? まぁ、断ったらここで殺すけど。どう?」
どう考えても選択肢になっていない。脅迫というより、この状況を楽しんでいる顔だ。
俺は大きくため息をつき、諦めたように肩を落とした。
「……選択肢、最初からないじゃないですか。あなたたちと行動を共にする、でいいんですよね?」
「よし、交渉成立! じゃあライム君、チーム『59』への入団おめでとう!」
パンパン、と男が脳天気な拍手を鳴らした。
こうして俺の惨めで平穏だった日常は呆気なく崩れ去り、謎多きチーム『59』での怒涛の生活が幕を開けたのだった。




