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クイズクロニクル  作者: pj.masta


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第14巻 ここが旅の始点だった 第11章 塔を出る前に

廊下の先にあった低い出口の灯りは、近づくほど小さく見えた。


遠くでは広い口のように見えたのに、足元まで来ると、手のひらほどの明るさしかない。


旅人は、その明るさの前で足を止めた。


出口、と言いたくなる。


でも、塔の出口ではない。


まだ塔の中にある、出る前の場所だった。


壁には、外のネオン雨が薄く映っている。


雨は、外から中へ入ってくるのではない。


中から外へ出ていくわけでもない。


壁の表面で、細かい点として休んでいる。


リオが小さく言った。


「ここ、検査の場所みたいです」


ミャオリンがすぐに首を振った。


「検査って言うと、通っていいものとだめなものを分けたくなるにゃ」


ククルーも、封筒を持ち直した。


「今日は、持ち出し検査ではなく、手の置き場だね」


旅人はうなずいた。


低い出口の灯りの下には、三つの浅い影があった。


ひとつは外の雨の形に似ている。


ひとつは塔の白さに似ている。


ひとつは、何にも似ていない。


三つの影は、どれも箱ではない。


持ち物を入れるためではなく、手の向きをいったん休ませるための浅さだった。


リオが声を落とした。


「外へ向く手、塔へ残る手、あとで聞く手、でしょうか」


塔守りの声が返る。


「そう言い切ると、三つに分けすぎます」


リオはすぐに札を書かなかった。


旅人は、三つの影の間にある小さなすきまを見た。


分けたい手が安心する前に、すきまを見る。


それだけで、出口の灯りは少し低くなった。


ククルーが封筒を持つ指を緩めた。


「仮に置くための影だね」


旅人はうなずいた。


リオが札を書いた。


`三つに分けすぎない仮影`


札は三つの影のどれにも置かれず、影と影の間に置かれた。


さっき持ってきた布を、床の低い灯りの前に広げた。


`ここが、だった台`


`だったの手綱`


`一か所に閉じない札`


`ここが、だったの返事道`


四つの札は、さっきと同じように離れて置かれている。


そこへ、空白を消さない輪の端と、開けておく回線の細い糸が寄り添っていた。


旅人は、何を持って出るべきか、と考えかけた。


その瞬間、低い出口の灯りが少しだけ高くなった。


考え方が、また検査に近づいたのだ。


旅人は、息を吸い直した。


持って出るべきもの。


置いていくべきもの。


そう分けると、札たちは荷物になる。


荷物になると、軽いものを選びたくなる。


重いものを置いていきたくなる。


でも、重いから置くのと、残す場所があるから置くのは違う。


旅人は、床に手をついた。


「持って出る手と、塔へ残す手と、あとで聞く手を分けたいです」


塔守りの声が、低い灯りの奥から返ってきた。


「三つに分けると、安心できます」


「安心しすぎないようにします」


「では、台を三つではなく、重なりを三つ作るとよいでしょう」


リオが、薄い布を三枚取り出した。


一枚は外の雨を少し映す透明な布。


一枚は塔の白さに近い布。


一枚は、何も映さない灰色の布。


三枚を重ねると、中央に小さな淡い場所ができた。


どの布にも属しているようで、どの布だけでもない場所。


ミャオリンが目を細めた。


「出る前の仮置き場にゃ」


リオが札を書いた。


`出る前の仮置き場`


旅人は、その札を中央の淡い場所へ置いた。


低い出口の灯りが、少し下がった。


「ここに全部置くんですか」


リオが聞く。


「全部置くと、またひとつになります」


旅人は答えた。


ククルーがうなずいた。


「置き場は、集める場所じゃないよ。見える高さにする場所だね」


旅人は、まず `ここが、だった台` の札を手に取った。


これは、塔へ残したくなる。


塔の中で見つけた言葉だから、塔の中へ置いておくほうが正しい気がする。


でも、そうすると、外でその言葉を聞き返せなくなる。


旅人は札を完全には置かず、透明な布と白い布の重なりに置いた。


外にも、塔にも触れる場所。


「これは、持って出るでも、残すでもなく、外で低く思い出せる場所に置きます」


リオは新しい札を書いた。


`外で低く思い出せる札`


ミャオリンがうなずく。


「いいにゃ。思い出す、が強くなりすぎてないにゃ」


次に、旅人は `だったの手綱` を見た。


この糸は、外へ持っていく必要がある。


外では、もっとたくさんの言葉が走る。


街へ戻れば、誰かが聞くかもしれない。


どうだった。


何が分かった。


ここは何だった。


そのたびに、だった、は走り出す。


旅人は、手綱を自分の手首には巻かなかった。


巻けば、自分が引っぱるものになる。


手首ではなく、布の端へゆるく結んだ。


「走り出したら止めるためではなく、そばを歩くために」


ククルーが小さく笑った。


「止めるためではなく、そばを歩く結び目なんだね」


リオは札を書いた。


`そばを歩く結び目`


三つ目に、`一か所に閉じない札` を見た。


これは、七つの返事灯の近くに置きたい。


七つの大陸から受け取った返事を、ひとつの結論にしないための札だからだ。


でも、七つの返事灯はここにはない。


ここにあるのは、そろえない返事布と、七つの布端だけだ。


旅人は、札を七つの布端の中央ではなく、端と端の間に置いた。


「一か所に閉じない、という言葉も、一か所に置かない」


ミャオリンが小さく笑った。


「ややこしいけど、正しいにゃ」


塔守りが言った。


「正しい、と高くしすぎなければ」


ミャオリンは耳を倒した。


「いまのは、便利に言いすぎたにゃ」


「でも、気づきました」


旅人が言うと、ミャオリンは胸を張った。


「そこは便利に受け取るにゃ」


リオが札へ書き足した。


`間に置く札`


最後に、`ここが、だったの返事道` が残った。


道は、持って出たい。


けれど、道を持って出るという言い方は、すこし強い。


道は、手の中に入るものではない。


旅人は、返事道の札を開けておく回線の横へ置いた。


二つは似ている。


でも、同じではない。


開けておく回線は、閉じない端。


返事道は、戻って聞ける端。


旅人は、二つの間に小さな空きを残した。


その空きが、外の雨の点を一つだけ映した。


「これは、出たあとで鳴るかもしれない場所です」


リオが札を書いた。


`出たあとで鳴る場所`


ククルーの封筒が、そこで一度だけ薄く光った。


旅人は、封筒を見た。


ククルーも見ていた。


ふたりとも、すぐには何も言わなかった。


封筒の中身を、外へ持って出るのか。


塔へ残すのか。


あとで聞くのか。


その三つに分けようとすると、封筒は少し硬くなる。


旅人は、封筒の近くへ手を伸ばしかけて、止めた。


ククルーの手のものだ。


旅人が置き場所を決めるものではない。


「ククルー」


「はい」


「封筒の置き場は、こちらで決めないよ」


ククルーは、少しだけ目を細めた。


「それじゃ、見ていてね」


「見ています」


ククルーは、封筒を出る前の仮置き場の端へ置いた。


置いた、と言っても、手を離しきらない。


指先が角に触れている。


封筒の下には、前に使った言わない場所の温度布が少しだけ見えていた。


塔の中で敷いた時より、布の色は淡い。


温度も、分かりにくい。


けれど、冷たくはなかった。


ククルーは封筒の角に触れたまま、もう片方の手で布の端を整えた。


「外へ出ても、言わない場所はなくならないよ」


旅人はうなずいた。


「でも、隠す場所だけでもない」


「はい」


ククルーの返事は小さかった。


小さいが、閉じてはいなかった。


リオは、仮置き場の端へ新しい札を置いた。


`外へ出ても残る温度布`


札は、封筒の下へ入り込まなかった。


布の端にだけ触れている。


ミャオリンが低く言った。


「いい距離にゃ。封筒を棚に置くと、展示品になるにゃ。近すぎると、手から奪うにゃ」


旅人は、仮置き場の端の細さを見た。


端だから置ける。


中央なら、封筒が答えになってしまう。


ククルーは、指先を離さないまま言った。


「端なら、持っている手も置けるね」


リオが、もう一枚札を書いた。


`端に置ける持ち手`


その札を置くと、出口の灯りが床に近いまま、少しだけ横へ広がった。


「これは、まだ持っているね」


ククルーは言った。


「でも、持っている手を、見えるところへ置くんだ」


旅人はうなずいた。


リオが書いた。


`持っている手を見えるところへ置く札`


ミャオリンは、いつもの調子でからかいかけて、やめた。


そのやめた口元が、やさしく見えた。


低い出口の灯りが、さらに下がった。


床に近い明るさになり、みんなの手の影を同じ高さに映した。


塔守りの声が届いた。


「置き場はできました」


旅人は聞いた。


「これで出られますか」


「出ることはできるよ」


「では、出ていい、という意味ではないですね」


「そうです。出ていい、は高い言葉です」


旅人は、笑った。


「出られる。でも、出ていいとは決められていない」


「出る手を見ることはできるね」


旅人は、自分の手を見た。


進みたい手箱へ入れた手。


入口前の返事場所で休ませた手。


消えた映像をもう一度見たかった手。


封筒を開けたかった手。


根音を中心にしたかった手。


七つの返事をそろえたかった手。


空席へ近づきたかった手。


空白を消したかった手。


ここが、だった、と高く言いたかった手。


どれも、消えていない。


どれも、悪くなかった。


ただ、見えるところへ置くたび、手は少しずつ急がなくなった。


旅人は、出る前の仮置き場の横へ、自分の手の形をなぞるように小さな線を引いた。


線の端に、ミャオリンが小さな鈴片を置いた。


鈴の形をしているが、振っても鳴らない。


割れているのではない。中の小さな玉が、柔らかい布で包まれている。


「出口前で鳴らさない鈴片にゃ」


旅人は鈴片を見た。


出口が近いと、何かを鳴らしたくなる。


終わった音。


出発の音。


分かった音。


そのどれかを鳴らせば、歩き出しやすくなる気がする。


でも、鳴らすと、置いた手元が音に押されて見えなくなる。


リオが札を書いた。


`出口前で鳴らさない鈴片`


鈴片は、低い出口の灯りを強くしなかった。


むしろ、灯りの端に小さな影を作った。


旅人は、その影のそばへ自分の手の線を少しだけ延ばした。


出る前に、鳴らさない。


出る前に、決めない。


でも、出る手は見えるところへ置く。


ククルーは封筒の角に触れたまま、鈴片を見ていた。


「鳴らないものも、持って出られるね」


「はい」


旅人は答えた。


「鳴らないまま、持って出られます」


鈴片の横に、リオが小さな布袋を置いた。


袋と言っても、口を結ぶ紐はない。鈴片を入れるには浅く、置けば半分見える。


「鳴らさないまま見える袋です」


`鳴らさないまま見える袋`


ミャオリンが、鈴片をその袋へ入れず、袋の端へ寄せた。


「入れちゃうと、しまったことになるにゃ」


「端なら、見えるね」


ククルーが言った。


旅人は、出口前で鳴らさない鈴片を、袋の端に置いたまま見た。


持って出る。


でも、鳴らして出るのではない。


しまって出るのでもない。


見える端に置いて、出る。


低い出口の灯りは、鈴片と袋の端を同じ高さに照らした。


同じ高さに見えると、同じものにしたくなる。


でも、鈴片は鈴片で、袋は袋だ。


鳴らさないものと、しまい切らないもの。


似ているけれど、違う。


リオは、その二つの間へ、小さな影の線を引いた。


「出る前の見分け線です」


`出る前の見分け線`


線は、二つを遠ざけなかった。


ただ、同じ高さにあるものを、同じ意味にしないための細い影だった。


旅人は、出口の向こうから聞こえる街の音を聞いた。


ネオン雨。


遠いサイバリアの低い音。


早い知らせ板の準備音。


どれも、外へ出ればすぐ大きくなる。


大きくなる前に、ここで見分けておく。


ククルーは、封筒を持つ手を見える端に置いたまま言った。


「外へ出ると、置いたものも違って見えるね」


旅人はうなずいた。


「だから、出る前の見分け線を持ちます」


持つ、と言ってから、言い直す。


「持ちません。見えるところに残します」


リオが微笑んだ。


その言い直しが、出口前の低さに合っていた。


出る前の見分け線は、床に引かれたまま残った。


旅人は、その線をまたいでよいのか少し迷った。


またぐと、鈴片と袋を後ろへ置いていくことになる。


またがないと、出口へ進めない。


二つの気持ちが、同じ足に集まった。


ククルーは、封筒の角を持ったまま、線の手前へ自分の足を置いた。


「またぐ前に、足も見えるね」


リオが、見分け線の横へ小さな足あと形の札を置いた。


`またぐ前の足あと札`


足あと札は、進む方向を示さなかった。


ただ、またぐ前の足がここにあることを、低く見せた。


ミャオリンが、出口の向こうをちらりと見た。


「外に出ると、足あとってすぐ雨で薄くなるにゃ」


「だから今、見るんですね」


旅人は、自分の足を見た。


進みたい手は、入口前に置いた。


出たい足は、ここで見える。


手と足は同じではない。


でも、どちらも急ぐことがある。


旅人は、またぐ前の足あと札の横で、息を一つ置いた。


それから、まだまたがない。


またぐ前の足を見たまま、出口の灯りを見た。


「塔を出る前の手元」


リオが、その言葉を札へ書いた。


`塔を出る前の手元`


札を置くと、出口の灯りの向こうから外の音がもう少しはっきり聞こえた。


ネオン雨。


遠いサイバリアの根音。


街の低いざわめき。


どれも、答えを急がせる音ではなかった。


外にも、聞き返せる場所がある。


そう思えた。


ククルーが封筒を拾った。


拾う前より、指先が少し楽に見えた。


「行こう」


ククルーが言った。


旅人は、出る前の仮置き場を見た。


そこには、何も置き去りにされた感じがなかった。


持って出るもの。


残るもの。


あとで聞くもの。


それらは、きれいに分けられていない。


でも、見える高さにある。


それで十分だった。


ミャオリンが出口の灯りを見て、低く言った。


「外に出たら、みんな聞くにゃ」


リオが少し緊張した声で言う。


「何が分かったか、ですか」


「たぶんにゃ」


「どう答えますか」


旅人は、布をたたみながら答えた。


「分かったことだけではなく、まだ置いていることも話します」


「置いていること」


「はい。塔の中に置いてきたのではなく、見える高さに置いていること」


塔守りの声が、初めて少しだけ近く聞こえた。


「よい出方です」


旅人は、低い出口の灯りを越えた。


足元で、ここが、だった、の返事道が細く光った。


その光は、外へ続く道ではない。


でも、外へ出ても戻って聞ける場所があると教える、低い線だった。


塔の白さが、背中で少し遠くなった。


ネオン雨の音が、もう一歩近づいた。


旅人は振り返らなかった。


振り返らないことを、証明にはしなかった。


ただ、出る前に置いた手元が、まだ見える高さにあると感じながら、次の灯りへ歩いた。

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