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第13話『父』


 ローゼンベリア家当主の父。その妻であり、母。そして双子の妹。

 三人が続いて部屋に入ってくる。

 父は首にも指にも、そこかしこに装飾品をつけていた。富を主張しようとする、悪癖だ。

 母も同じようなもので、目が痛くなりそうな真紅のドレスに身を包み、部屋中に漂うような濃い香りを纏っている。

 

 セレスティだけは変わらない。月の光を浴びたような真っ白な髪によく似合う、白いドレスを纏っていた。聖女と崇められるのも無理はない。穏やかな笑みでさえ神秘的に見えた。


 三人は向かいのソファへと腰掛ける。

 父の舐めるような視線が向いた瞬間、ノワールの体は硬直した。

 父と母。この二人の視線がノワールへと向いた時、それは大抵体罰を伴った。

 それは立つ場所が邪魔だという理由だったり、呪われた目で見たという理由だったりしたが、結果は変わらない。いつだって痛む体を引きずって自室へ逃げ帰るだけだ。


 だが、今日だけは違う。

 父と母はいつになく上機嫌だった。父は早々に口を開く。


「ようこそいらっしゃいました、ローゼンベリア家へ。昨晩は、娘が見苦しい姿をお見せしてしまいまして、ご迷惑をお掛けしました。全く、恥ずかしいことです」


 父が言っているのは大人数の前で婚約を破棄された件だろう。

 確かにあれを家の恥と言わずに何という。いたたまれなくなって、ノワールは膝に視線を落とす。


「見かねて連れ帰ってくださったのが、まさか――かのヴァレンシュタイン家だったとは!いやはや、ありがたいことで。こんな娘の身に余るドレスまで着せて下さり……」


 必死に媚びを売る姿を直視することも出来ない。その言葉のほとんどが耳に入らないほど、ノワールは氷のように冷えた指先を握るだけで精一杯だ。

 ヴィクトリアは唇に形の良い笑みを湛え、片手を上げて父の話を遮る。


「礼を言うのはこちらの方だ。ローゼンベリア家当主殿」

 

「と、言いますと……?」

 

 父の目がぎらりと輝く。利益や金の匂いを嗅ぎつけた時の顔だった。

 ヴィクトリアは視線だけでレオンハルトを指し示してみせる。


「実はこの我が弟、レオンハルトがノワール嬢に一目惚れしてしまってね。彼女は昨晩、第二王子殿下との婚約が破談となったばかりだろう。どうしてもこの縁を逃したくないというのだよ」


 少々芝居がかった言い回しでヴィクトリアは続けていく。

 青い顔をしたノワールの隣には、対照的に少しばかり頬に朱の差したレオンが座っている。彼は羞恥心を堪えるように目を伏せていた。


「そこでだ、どうだろう。ノワール嬢をヴァレンシュタイン家へ嫁がせる気はないだろうか?神子には月に一度神殿で祈る義務があるというが、当然それは続けさせよう。北の我が領地に新たに神殿を建てさせてもいい」


 父が食いつかないはずがなかった。

 王族との繋がりは、第一王子と婚約しているセレスティだけで十分だ。使い物にならない、忌まわしいもう一人の娘が、公爵家との縁を結んでくれるなど願ってもない話だろう。

 今にも頷きそうな勢いで目を見開いた父は、一度きつく唇を引き結ぶ。


「ありがたい話でございます。が、ノワールを公爵家へお渡しするとなれば、こちらも色々と準備が必要になりますな……。何せ大切な娘のことですので」

 

お読みいただきありがとうございます。

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