第75話 一葉の家
あれでよかったのだろうかと、俺は思う。
一葉に手を貸さないという結論に至った。だけど、今からでも一葉に連絡を取った方が良いのではないかという思いが生じる。
迷うなあ。なんて思っていると、
一葉から電話がかかってきた。
それは無事に問題が解決したという電話なのかもしれないし、助けを求める電話かもしれない。
俺はすぐに電話を取った。すると、
「恭介君、少しいい?」
そう、一葉の声だ。
俺は恐る恐る、
「どうした?」
と訊いた。すると、
「勇気が出ない」
そう、言われた。
「勇気が出ない?」
「うん。私怖いの」
あまりこんなことを想ってはいけないかもしれないが、少しほっとした自分もいた。何しろ、一葉に助けを求められた、一葉の助けになれるというのが俺にとっては最上級に嬉しい事だった。
俺は今まで一葉に助けられっぱなしだ。だからこそ、一葉を助けたいという気持ちがある。
「今すぐ行こうか」
勿論、一葉の元にだ。
「うん、お願い」
一葉のその声を聴けば俺はすぐに駆け出していた。
とにかく、走り走り走りいく。
「お待たせ」
俺が息をたらしながら言うと、
「速」
そう、一葉に言われた。しかも驚いたような表情で、
「そうかな」
そう俺が言うと、
「速いよ」
一葉に言われた。
「じゃあ、ゲームしよ」
「は?」
「ゲームしようよ」
一葉は俺の手を取り言った。
「どういうこと?」
俺が訊くと、彼女は良いじゃんと言って笑った。
くそ、よくわからん。
「家の中に入ってよ」
「おう」
俺は言って入った。一葉の新居。そこに入るのは正直かなり久しぶりだった。
そして、中に入った瞬間、今まで一葉が来て欲しくないと言っていた理由が本当の意味で分かった気がした。
それこそひどい光景だった。荒れているように思える。
それは雰囲気面が大きい。
そんな目に見えて荒れている訳ではない。ただ、なんとなくそんな感じがする。
それこそ、普段はこのリビングはあまり使われていないのだろうか。
しかも上からぎしぎしと小さな音がする。何とは言わないが、相当に暴れているようだ・
そんな感じがしてならないのだ。
俺は小さく息をのむ。
「でしょ、これがもう三ヶ月くらい経つの」
「それは酷いな」
「うん」
酷い。ひどすぎる。
しかも、フランスに一緒に来いと脅されていたと言っていた。
「ごめんな」
俺は言った。
「一人で行かせてしまって」
「いや、私が一人で行くって言ったから」
気にしないでと、一葉は言った。その言葉に俺は小さく頷いた。
そして、一葉の部屋に入る。その部屋は何となく緊張する。香りが鼻腔をくすぐる。別に一葉の匂いなんて言う物が部屋中に充満している訳ではない。だけど、女子の部屋と言う事で緊張でもしているのではないだろうか。
ドキドキしていると、
「照れてるの?」
そう、一葉がニマニマとしながら言った。
「照れてねえよ」
俺がそう返すと、
「本当に?」
なんて言ってくる。
くそっ
「緊張はしてる」
「え、本当に」
「本当だ」
俺がそう言うと一葉は俺の手を取った。
その手は暖かかった。
そして、
ベッドに2人腰掛けて、ゲームをする。
俺の家にあるゲームとは少し違った。
カートレースゲーム等はあったが、こちらはチーム対抗バトルがあった。
今日はそれをすることになった。
ルールは単純で4対4の陣取り合戦で、技ゲージが溜まるとスペシャル技を放てる。死んだら15秒から20秒のロスタイムがある。それくらいだ。俺たちは当然同じチームだ。
「一葉、それ使うのか」
俺は驚いた。彼女の持つキャラは扱い難いと有名なキャラだった。そう、クセのつよいキャラなのだ。そのため1割の天才が使えば、強いキャラなのだが、9割の人が使うと、すぐ死ぬ雑魚になるのだ。
「うん。恭介くんはそれね」
「なんだよ」
「初心者向けのキャラだなって思って」
「悪いかよ」
俺は唇を尖らせた。
「悪くないよ。ただ、私のほうが活躍できるなって」
「ムカつくな」
そして最初のゲーム。互いに活躍をした。
だけど、MVP————一番貢献ポイント稼いだのは一葉だった。
「やったー!!」
一葉は喜んだ。そこから2戦も一葉がMVPだった。
「ねえ、恭介くん。弱くない?」
「言ってろ」
ムカつくけど、雑魚には返す言葉がない。一葉よりもうえに立たなければ。
「俺も使う」
そして、最高級難易度キャラを用いることとしたのだ。
結果は悲惨だった。足手纏いになってしまった。そのおかけで一葉の連続MVPも途切れてしまった。
敵を倒し続けていたのに、それが難しくなったのだ。
一葉が集団に囲まれること多数。その結果一葉の活躍を封じられたせいで俺たちのチームは負けてしまった。
「恭介くん禁止」
「え、」
「それ使ってたら弱いじゃん。いつものキャラ使ってよ」
一葉は軽く笑いながら言った。俺はその言葉に静かに頷くのだった。




