第18話弾の異形
異形の体が、静かに崩れ落ちる。
黒い粒子となって、風に溶けていった。
剣真は剣を下ろす。
荒くなった呼吸を整えながら、周囲を見渡す。
「……終わった、か」
誰にともなく呟く。
そのとき。
――パチ、パチ、パチ。
乾いた拍手が、背後から響いた。
場違いなほど軽い音。
剣真の背筋に、冷たいものが走る。
ゆっくりと振り返る。
そこに――男がいた。
壁にもたれかかりながら、気だるそうに拍手を続けている。
年は20代前半ぐらい。
ラフな格好。
だが、その目だけが異様だった。
温度のない、観察者の目。
「いやぁ、ええもん見せてもらったわ」
男は手を止め、軽く首を鳴らす。
「自分と戦って成長、ってやつやろ?」
くすりと笑う。
「ベタやけど、嫌いやない」
剣真は無言で構え直す。
神谷も一歩、前に出た。
「……誰だ、お前」
男は少しだけ考える素振りを見せる。
「んー……」
そして、肩をすくめた。
「名乗るほどのものやない、けどあの化け物生み出したんは俺や。なかなか可愛い仕上がりやったやろ」
壁から体を離す。
その一歩で、空気が変わる。
男の手の中に――拳銃が現れる。
黒光りする銃身。
それを、何の迷いもなく剣真へ向けた。
「近接戦闘はなかなかいける口みたいやけど、こっちはどうやろな?」
軽く笑いながら、引き金を引く。
――パンッ!!
乾いた銃声。
だが、その瞬間。…‥リライト……
弾丸が“書き換わる”。
空中で歪み、形を変え――
小さな異形へと変貌する。
「っ!?」
剣真が目を見開く。
それは拳ほどのサイズ。
だが、速度はそのまま。
弾丸のままの速さで、牙を剥いて迫る。
「避けろ!」
神谷の声。
剣真は咄嗟に身を捻る。
だが――
一体だけじゃない。
二発、三発。
連続で放たれる弾丸すべてが、異形へと変わる。
空間を裂くように飛び交う、小さな“怪物”。
(数が……多すぎる!)
回避しきれない。
そう判断した瞬間――
閃光が走る。
一直線の光が、異形をまとめて貫いた。
「下がって」
瑠璃の声。
剣真の前に、静かに立つ。
その背中は、微動だにしない。
男は口笛を吹いた。
「へぇ……お姉ちゃんも銃使いなんや」
再び、銃を構える。
引き金が引かれる。
今度は――連射。
弾丸が雨のように放たれ、次々と異形へと変わる。
四方八方から襲いかかる。
だが瑠璃は、一歩も引かない。
光が展開される。
まるで結界のように、周囲を覆う。
その一瞬の隙。
瑠璃が、わずかに後ろを振り返る。
「剣真」
短く呼ぶ。
「ここは、私が引き受ける」
静かだが、絶対の意思。
剣真が息を呑む。
「でも――」
「時間がない」
被せるように言う。
その目は、すでに前を向いていた。
「機密資料の確保が最優先」
神谷も頷く。
「……行くぞ、剣真」
一瞬の迷い。
だが剣真は、歯を食いしばる。
(任せるしかない……!)
「……お願いします!」
そう言い残し、踵を返す。
神谷とともに駆け出した。
背後で、銃声が鳴り響く。
――パンッ、パンッ!!
「逃がすと思う?」
男が銃口を向ける。
だがその前に。
閃光。
瑠璃の一撃が、地面を抉る。
男の足が止まる。
「相手は、私だ」
静かに言い放つ。
男は数秒、沈黙し――
やがて、笑った。
「……ええやん」
銃をくるりと回す。
「最初からそっち狙いやったしな」
空気が、さらに重くなる。
「じゃあ、タイマンといこか」
瑠璃は構える。
光が、さらに強く収束していく。
遠ざかる足音。
近づく銃声。
そして――
二人の間に、張り詰めた殺気だけが残った。




