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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
第一章 ベアトリス、レベル99の少女編

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第39話 エレンスト先生、ベアトリス現象について語る。

冷却魔法と、ベアトリスという現象



 魔導薬学研究室に籍を置いて、どれほどの年月が経っただろうか。


 研究とは静謐で、孤独で、時に人間の限界に挑み続けるものであると、かつての私は信じて疑わなかった。感情の起伏など必要ない。ただ淡々と、日々を繰り返すことで進歩は成されるのだと。


 だが、それは——ある少女が研究室に現れるまでの話だ。


 ベアトリス・ローデリア。


 王立学術院で“破天荒な優等生”として知られる彼女が、私の元に助手として配属されたとき、正直に言えば眉を顰めた。彼女の論文は時に奔放すぎ、理論よりも直感に寄りすぎているように思えたからだ。学術の場において、それは危うさでもある。


 だが、数か月が過ぎる頃には、その考えも少しずつ変わっていった。


 彼女は、常に私の予想の斜め上を行く。


 たとえば“氷の菓子”——アイスクリームなどという、くだらない甘味の研究。最初にその提案を受けたとき、私は本気で時間の無駄だと思った。だが、彼女は真剣だった。ただの遊び心ではなく、冷却魔法の持続性に注目し、それを実験し、理論に昇華させてみせた。


 魔法陣の組み立て、温度推移の制御、冷却媒体の選定。それらすべてが“美味しいものを作りたい”という動機から導き出されたものでありながら、そこには確かに、応用魔導科学としての価値があった。ベアトリスは、純粋な好奇心と研究者の情熱を、見事に両立させている。


 彼女はいつも、学術の枠を越えている。


 それは決して「軽さ」ではない。真面目一辺倒では見逃してしまうような、“人のための魔法”という観点。私が失いかけていた“なぜ研究するのか”という問いの根源に、彼女は常に寄り添っているのだ。


 記憶を失い、結晶に囚われていた間、私は多くのものを失った。それでも再びこの世界と向き合う勇気を得られたのは、彼女の存在あってこそだった。


 ……いや、彼女だけではない。今の私は、かつてよりも多くの人と繋がりを持った。だが、その中でも特に強く、深く、私の時間に刻まれた存在。それが、ベアトリスという現象だった。


 氷を操る魔法の中で、彼女の言葉と笑顔は、いつもどこか温かい。


 たとえば、冷却術式の実験中。魔導鍋を覗き込んで「うまくいってる……」と小さく呟いたあの声。子どものようにはしゃぐ表情の裏にあった、緻密な計算と集中。どれほど突飛な提案をしても、彼女はその根底に“理”を通している。それが、私にはとても眩しく見えた。


 かつて私は“研究者とは孤独な道”と信じていた。だが、彼女と日々を過ごすうちに、その信念すら揺らいでいる。助手としてではなく、対等な研究者として、あるいは……。


 ——いや、それ以上の存在として。


 そう考えてしまう自分が、時折、いるのだ。


 彼女は気づいていないだろう。だが私は、ふとしたときに思うのだ。もし、彼女が私の元を去る日が来たら、自分は平静を保てるだろうかと。


 今、研究室の窓辺には初夏の陽光が差し込んでいる。静かな時間が流れ、かすかにバニラの香りが残っている。


 彼女が手にしていた“魔導冷菓”は、学院内で話題になりつつある。私たちの研究が、こうした形で世に受け入れられることに、私は奇妙な誇らしさを覚えている。ベアトリスの名が、学術院ではなく、子どもたちの間でさえ語られることに、なぜか胸が温かくなるのだ。


 ……冷たい魔法で生まれた甘味に、確かにぬくもりが宿っている。


 ベアトリス・ローデリア。彼女の名が示すその存在は、私にとって「再び歩き出す理由」なのかもしれない。


 孤独な研究者が、ふと足を止めた先で出会った、ひと匙の魔法。


 彼女が振り返って笑うたびに、私は思い出す。


 この世界には、まだ知らない可能性がいくらでもあるのだと。


 そして、それを共に見つける者がいるのだと。

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