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プリン食べたい!婚約者が王女殿下に夢中でまったく相手にされない伯爵令嬢ベアトリス!前世を思いだした。え?乙女ゲームの世界、わたしは悪役令嬢!レベル99になってシナリオをぶち壊す!  作者: 山田 バルス
第一章 ベアトリス、レベル99の少女編

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第38話 ベアトリス、夏はやっぱりアイスです!

冷却魔法と、はじまりのアイスクリーム



 魔導薬学研究室の窓から、初夏の柔らかな陽射しが差し込んでいる。


「……で、なぜ私は朝から、甘いものの話を聞かされているのかね?」 


 研究台に腕を組んで座るエレンストの顔は、いつにも増して難解な表情をしていた。その前で、ベアトリスは両手にノートと、何やら色とりどりの材料を載せた籠を持っていた。


「先生、この研究はれっきとした“応用魔導科学”の一環です! 目指すは――冷却魔法を使った、最高に美味しいアイスクリームの開発です!」


「…………」


「ちなみに、王都の貴族子女たちの間で最近、流行ってるらしいんです。『氷の菓子』って名前で」


「はあ……また俗っぽい話を……」


 エレンストはため息をついたが、それでも結晶によって記憶を取り戻してからというもの、どこか以前より柔らかくなったように思えた。かつての冷たい表情ではなく、今の彼は“目の前の生徒の提案”を一応は聞くくらいの余裕を持っている。


「まあ、いいだろう。どうせ今日は結晶の分析装置も調整中だし、君の“菓子作り”に付き合ってみようじゃないか。で、君の案というのは?」


「はい、こちらです!」


 ベアトリスは勢いよくノートを開いた。そこには「冷却魔法応用案:低温持続フィールドによる魔導冷却装置試作計画」と、真面目とも悪ノリとも取れるタイトルが走っていた。


「冷却魔法は通常、対象の温度を一時的に下げるだけですが、それではアイスを作ってもすぐに溶けてしまいます。そこで、私が提案するのは“冷却の持続性”を高めた新術式。これで、氷菓を安定して冷やすことができます!」


「ふむ。術式の設計図……いや、これは……面白い着眼点だな」


 エレンストは目を細め、ノートに記された複雑な魔法陣と、温度推移の予測図に目を通していく。単なる思いつきではない。ベアトリスは本気で研究していたのだ。


「ただ凍らせるだけではない。温度を“零下三度”付近で制御し、素材の食感を保つ……この制御術式は、魔導保存技術にも応用できるかもしれない」 


「でしょう!? 実用化できれば、魔導食堂で冷たいメニューが増えるだけでなく、魔法薬品の保存にも――」


「……よし。やろう。だが君、実際に“材料”は?」


「あります!」


 籠の中から、ベアトリスは手早く材料を取り出していく。山羊乳、甘味草から精製した魔導糖、希少なバニラの種子、そして冷却媒体となる魔石。


 ……そして、実験は始まった。


◇ ◇ ◇


「温度安定……よし、魔法陣起動……っ!」


 研究台の上に描かれた魔法陣が、淡い青光を放つ。エレンストが展開した冷却持続魔法〈フロスト・セル〉が、実験用の魔導鍋に宿る。


「攪拌開始!」


 ベアトリスは、鍋の中の白く濃厚な液体を、魔力を帯びたスプーンでかき混ぜ続ける。魔法の冷気が鍋の外周をゆっくりと包み、じわじわと素材が凍り始めていく。


「おぉ……これは……!」


「うまくいってる……“滑らかな凍結”が成功してる……!」


 エレンストの眉が上がる。これまでの冷却魔法では“急冷”によって氷の結晶が粗くなり、味や食感が落ちるのが常だった。しかし、ベアトリスが設計した魔法陣は、凍らせるというより“緩やかに凝固させる”冷却を可能にしていた。


「さあ、先生……試食タイムです!」


 彼女は銀のスプーンに、白いアイスクリームをすくって差し出す。エレンストは少し警戒しつつも、一口、それを口に含んだ。


「……ッ……!?」


 その瞬間、思わず目を見開く。


 濃厚な甘みと、バニラの香り。口の中でふわりと溶けていく滑らかさ。ひんやりとした冷気が舌を包み込み、最後には、ほのかな余韻を残して喉の奥に消えていった。


「……これは……本物だ……

 

「ふふん。言ったでしょう? “最高のアイス”だって」


 ベアトリスが得意げに胸を張る。


 それを見て、エレンストは思わず笑ってしまった。


「まったく……君という生徒は、常に私の予想の斜め上を行く……」


「だって、先生の助手ですから」


 ふたりは、しばし研究の緊張を忘れ、静かに笑い合った。結晶に宿っていた記憶の闇とは対照的な、淡く、やさしい時間。


◇ ◇ ◇


 そして、翌週。


 魔導薬学研究室の前には、なぜか長蛇の列ができていた。


「先生! あのアイス、ほかの生徒たちにも試食させたら、すっごく評判で……!」


 「……どういうことだ、これは……?」


  驚くエレンストをよそに、ベアトリスは手際よく魔導鍋に魔力を流し、再び冷却魔法を起動させる。


 「研究資金の足しになるかもしれませんよ? “魔導冷菓・第一号”。学院限定販売です!」


  冷却魔法と、ひと匙の魔法菓子。


  忘れられた記憶の先で、確かに彼女たちの“今”が動き出していた。

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