ずんだの作り方
※東北弁は本場人ではないので使わず、変換しているということで。
今日は、友達の家に遊びに来た。
正確に言うと、友達の実家にだ。
彼女の実家は、宮城県にあった。
大学生活に刺激を見いだせないと話していた私に、じゃあうちに来なよと友人は言った。
ちょうど夏休みだったし、バイトばかりで終わるのも嫌だったから、友人の誘いにのることにした。
私には、特に何か趣味というものがない。
だから、日々の生活に退屈をしていた。
自分で楽しみを見いだせない性格だから。
私は彼女がうらやましかった。
彼女は、日常な些細な事に楽しさを見つけて、日々を謳歌していたから。
そんな彼女が、なぜ私と友人でいてくれるのかわからないが、彼女と一緒なら楽しいことができそうな気がしていた。
そして、私は彼女の実家に来た。
「お邪魔します」
そう言って、彼女の実家に足を踏み入れた。
まずは、穏やかに家にいた彼女の母親と話をした。
持ってきたお土産を渡し、それをさっそく皆で食べた。
お土産が何だったかを話すのもわずらわしい。
特筆すべきものでもない、よくある定番のつまらないものだ。
だが、彼女の母親は喜んでくれた。
これが好きなのに、東京に行かないと売ってないから、もらえると嬉しいと笑顔で話をしていた。
定番のお土産だけど、定番のものはやっぱり飽きない味なのよね、と言っていた。
そういう考え方もあるのか、と私ははっとした。
やはり彼女たちは、根本の考え方から違うのだ。
果たして私は、彼女たちのように世界を面白くとらえるようになれるのだろうか。
いつまでも、彼女から楽しみを受け取るだけでは良くない。
そう思ってはいるのだけれど、私はその道のりは遠いことのように感じられた。
それでも、少しずつでもそれに近づけられれば。
しかし、そう言った矢先から、だんだんと手持無沙汰になり、私はそわそわし始めた。
「そういえば、ずんだは食べたことがあるんだっけ?」
彼女の母親が、明るい調子で聞く。
「あ、はい。ずんだ茶寮のずんだシェイクを飲みましたし、ずんだ餅も食べました」
「全部私が連れていきました」
私が強張った顔で答えた後に、はははーと彼女は明るく笑いながら言った。
彼女の母は、あんた好きだものねぇと彼女と全く同じ笑い方をした。
私は、この明るい笑い声が好きだ。
「そんだけつきあって食べてくれたなら、ずんだは嫌いではないよね?」
「はい。食べやすくて好きです」
「じゃあ、作りましょうか」
そう言うが早いか、彼女と母親は立ち上がった。
私は何が起こったのかわからないまま、二人を見上げていると、友人が私の手を取って引き上げた。
私は促されるままに立ち上がる。
「一緒にやろ」
そう言って、手を引かれてキッチンの方に行った。
「はい、ではずんだ餡を作っていこうと思いますー」
彼女の母親はそう言いながら、冷蔵庫や棚からてきぱきと材料を出してダイニングテーブルに置く。
置かれたのは、房のついた枝豆と、上白糖の袋。
「これで、できるの?」
「そうだよ。あんこも、小豆と砂糖でできるでしょ? 一緒だよ」
「あんこを作るところも見たことないよ……」
「あ、そうなの?! じゃあ初あんこだね!」
「う、うん……」
初あんことは何だろうと思いながら、彼女のぱっと明るく輝く顔にこちらもにこやかに返した。
「はいはーい。ではまず、この枝豆を洗ってくださーい」
彼女の母親は、枝豆を手に取って、流しへと向かった。
手招きをされたので、彼女と私も母親の近くへ寄る。
ざるいっぱいの枝豆を流しに置き、それをざる二つに分ける。
水道から水を出し、彼女と二人で洗い始めた。
ちょうど初夏の頃、水は冷たく心地良かった。
枝豆など洗ったことがなかったから、どういう風に洗えば良いかわからないが、いつも野菜を洗っているのと同じように、水にすすぐように洗った。
「うんうん、いいわね。じゃあゆでていきましょうか」
そう母親に声をかけて見ると、コンロに置かれた鍋を手で示された。
鍋の中には水が入っており、火がつけられていた。
「これが沸騰したら、その枝豆を入れてね」
まだ鍋の中の水は、揺らぐ気配も見せていなかったので、私と友人はそのまま見守った。
いくらか経った頃、小さな泡がふつふつとたち始め、やがて大きくなってきた。
「入れようか」
彼女が声をかけて、私と彼女は一緒に鍋に枝豆を入れた。
枝豆が鍋に入ると、お湯は一瞬落ち着きを見せたが、またすぐに中に入った枝豆を揺らし始めた。
「これで、二十分ぐらいゆでるよ」
そう言うと彼女の母親は、また何かを戸棚から出してきた。
「ずんだと言えば、お餅だよね」
そう言って、見覚えのあるパッケージを取り出す。
「切り餅!」
彼女は、目を輝かせた。
「これを用意して、良い頃合いで焼いて、ずんだ餡が出来上がったら一緒に食べるようにしましょう」
「さすがお母さ~ん」
彼女は、甘えるような声を出した。
そして、トースターにアルミホイルをしき出した。
母親は袋から餅を出し、トースターに並べていく。
「一人何個がいいかしら?」
「五個は食べるかなぁー」
「並べきれないわよー」
二人は揃って、あははと笑いだす。
ふと気づいたように、二人は私を見た。
「ねぇ、何個にする?」
二十分経過して、枝豆の火を止めると、流しにあるザルの上に出した。
水で冷やし、さやの中の豆をみんなで取り出していく。
こういう単純作業をずっと続けていくのは好きだった。
つい集中して、無言でやっていた。
自分のをし終わって、ザルの豆をとろうとしたら、ザルは空になっていた。
「あら、もう終わっちゃったのね」
母親がそれを見て言う。
そして、むき終わった豆を手に取り、置いてあった計りにのせた。
おっけーと言いながら、豆を避け、皿を乗せて砂糖を計り始めた。
「ほんとに、なんか黙々とやっちゃうね」
彼女は私の方へそう言った。
「なんか、楽しかったな」
私は、こぼすように言った。
「でしょー!?」
すると、彼女は喜々とした顔で近づいた。
私は驚いて身をのけぞらせてしまったが、彼女に聞かれると何だかくすぐったい気持ちになり、思わず笑みが出た。
「そうだね」
だよねなどと言いながら、彼女は元の位置に戻る。
「さて、ではこれをすり潰していきますよ~」
彼女の母親が、私たちにもったいぶった言い方をする。
「待ってました~」
すると、彼女もそれにのる。
私は、またもそのノリについていけず、彼女たちを戸惑った表情で交互に見る。
それに気づいた彼女たちは、私を見て微笑んだ。
「ここは、やっぱりゲストにやってもらわないとね」
「そうだね」
そう言って、むいた枝豆が入ったすり鉢を私の前に置いた。
そして、彼女はすりこぎ棒を持っていた。
「この作業が一番楽しいと、私は思うんだよね」
「さっきの枝豆をむく作業が好きなら、きっと好きだよ」
二人はそう言って、さらに私の前に棒と鉢を差し出した。
私はそれを受け取り、棒を握りしめた。
すりこぎは、ごますりをした時に使ったことがある。
同じようにやれば良いだろう。
それと同じように、まずは豆をぎゅっと押して潰した。
そして、あとは横移動をし、鉢の中を円を何周も描いていく。
最初はゆっくりと様子を見るように動かしていたが、だんだんと要領がつかめてきて早くなる。
「いいねいいね、その調子」
彼女が合いの手を入れてくれる。
そうすると、私の気分も高揚してきて、より力を入れて潰した。
「疲れたら言ってね。交代するから」
「そんなに量も多くないから、大丈夫ですよ」
どこか自分の声にも、力がこもっているように感じた。
こんなに自信を持って取り組めたことが、今まであっただろうか。
豆の粒は、みるみるうちに砕かれた。
見た目だけなら、しっかりとしたずんだ餡だ。
「うんうん、素敵ね。ここに砂糖を入れるから、ちょっと失礼するわね」
すり鉢を覗き込みながら、彼女の母親は言った。
私は一旦手を止めると、彼女の母親は先ほど計った砂糖を一気に入れた。
そして、どうぞと言うように手を差し出した。
私はそれを見ると、また棒を動き出した。
すり潰した枝豆と、砂糖を一つにするように、棒を使って混ぜ合わせていく。
ぐるぐるぐるぐる。棒を動かしていくと、白い砂糖が緑色の枝豆の中に消えていく。
濃く香る枝豆の香ばしい匂いと、砂糖の甘い匂いが合わさり、私の知っているずんだ餡の匂いになってきた。
「うん、もう良さそうね」
そう彼女の母親に声をかけられ、私は手を止めた。
すると、彼女と彼女の母親はすり鉢を覗き込んだ。
「うーん、良い匂い」
「うんうん、これだよ」
彼女も、同じように覗き込んで笑顔になる。
私も、これまでにない達成感に包まれていた。
そして、できたずんだを焼いた餅につけて皆で食べていた。
自分で作ったものは格別だったからか、すぐになくなってしまった。
「あれだけ枝豆を用意しても、結局これだけなのよねー」
「あんこを自作しないで、買ってきたくもなるよね。手間がかかるわりに、消費はあっというまだから」
なるほどそういうものかと思いながら、私はまだ口の中に残るずんだ餡の風味を楽しんでいた。
「でも、たまに作るのはやっぱり良いわねぇ」
「買ったものからじゃ味わえない風味と楽しみがあるからね」
そう言うと、二人は私の方を見た。
私は、自然と笑みが出た。
「そうですね。とても楽しかったです」
私がそう答えると、二人は安堵したように微笑んだ。




