出張帰りのぽんしゅ館
「「お疲れ様です」」
出張での大事な案件が終わり、ホテルへの道すがら、俺たちはそうお互いに言い合った。
「あー、終わったなぁ」
「今日はどうします? ぱーっといっちゃいますか?」
「いや、明日は休みでゆっくり帰れるから、寄りたいところがあるんだ。そのために今日はすぐに休もう」
「え?」
部下は、怪訝な顔をして俺を見ていた。
「まぁ、俺を信じろ」
「……はぁ……」
笑顔で親指を立てて自分に向けて言ってみたが、部下の表情は変わらなかった。
とりあえず、不服ながらに従ってくれたので、それでよしとする。
そして翌日。
「新潟駅に来ちゃいましたけど、ここからどうするんですか?」
部下は、相変わらず不審を明らかに表した顔をしている。
「まぁまぁ。俺についてこい」
俺は自信があった。
あそこに連れていけば、誰も文句は言えない。
「さぁ、ここだ」
「ここは……?」
入口に立って、部下は周りをきょろきょろと見回す。
「ぽんしゅ館だ」
「ぽんしゅ館?」
俺の言葉に、部下は眉をひそめた。
「とりあえず、俺についてこい」
「はぁ……」
部下の気のない返事をよそに、俺は意気揚々とレジへ向かった。
「すみません、二人分お願いします」
「はい。いらっしゃいませ。どうぞ」
千円を差し出すと、レジの店員はコイン十枚を出す。
俺はそれを手に取り、五枚を部下に渡した。
「これは何ですか?」
「ここでのお金だな」
俺が歩き出すのについて、部下も続く。
「お金?」
「こいつに入れるんだよ」
たどりついた先を、俺は親指を立てて示した。
そこには、数々の酒の銘柄が描かれた箱が並んでいた。
すると、部下は一気にその表情を明るくした。
「これ、もしかして全部日本酒ですか?!」
酒と聞くと目がない部下だからこそ、連れてきたら喜ぶと思った。
思った通りの反応で、俺も嬉しかった。
「そうだ。そして、コイン一枚分でこれ一杯分だ」
そう言って、俺は渡された二つのお猪口のうちの一つも渡した。
部下はそれを受け取ると、さっそく目を輝かせながらどれにしようかななどと歌い出しそうな調子で向かっていった。
俺も、銘柄を物色しながら壁一面の箱のそばをゆっくりと歩いていく。
「おすすめとかありますか? 日本酒好きなんですけど、あんまり種類知らなくて」
部下がこちらを見て言った。
「こんなにたくさんあると迷うよな」
「はい。それに、せっかくなら飲んだことないものを試してみたいですし」
「俺もそれ、よくわかるよ」
そう言って、任せておけと親指を自分に指し示した。
「でもな、たまに銘柄が変わるから、実際のところ俺もよくわからないんだ。ということで、こういうのは店員さんに聞くのが良い」
「えー」
部下は、笑いながら声を上げる。
俺は、すみませーんと、近くにいた店員に声をかけた。
店員に聞くと、人気のあるもの、変わり種、定番、甘口辛口などの好みに合わせて説明をしてくれた。
礼を言うと、店員は軽くお辞儀をして下がった。
「さて、今の説明を聞いて、どれにする?」
「変わり種を攻めていきたいですけど、飲んだことのないど定番も入れておきたいですね」
そう言いながら、部下は前に出る。
「あぁ、あと普段高くて飲めないようなやつとか」
「それ、このコイン五枚で飲み切れるのか?」
部下が喜々として話すのに、俺は思わず苦笑した。
「とりあえず、越乃寒梅ですよねー」
俺の軽口は適当に流され、部下はまず一つを手に取った。
俺もそれを狙っていたので、部下が取った後に手に取る。
「それじゃあ、かんぱーい」
どちらともなしに、御猪口を掲げた。
ぐいっと一気に飲み干し、感嘆のため息をつく。
「はぁー、うまーい」
部下は声を抑えようともしない。
「お前、ちょっと自重しろよ。飲み屋じゃないんだからな」
「あぁ、すみません」
照れ笑い浮かべて誤りながら、次の瞬間に部下はまた大声をあげていた。
「え、先輩、おつまみがあるじゃないですか!」
そう言う部下の目線は、カウンターに向けられていた。
そこには、冷やしきゅうりなどの日本酒にあい、かつ立ちながら食べやすい酒のおともも合わせて売られていた。
「そうそう。酒だけだとどうしても酔いの回りが早いからな。助かるよな」
「これは食べないと損じゃないですか!」
言うが早いか、部下は一目散にカウンターに向かい、二人分の冷やしきゅうりをもらってきてくれていた。
「さぁて、これで怖いものなしですよ。次はどうしましょうかねぇー」
言いながら、もう彼の目線は次の酒へと向かっていた。
「次はこれですかねー」
「待て待て。そんなさっさと飲むものじゃないぞ。ゆっくり味わっていけ」
「じゃあ、先輩はどうするんですか?」
「そうだなぁ……」




