第九十二話 廃鉱山ダンジョンへ
そこでまずはストランドさんが倉庫の床にあるマジックゲートを解除することになった。
「大量の鉱石の運搬に使えるはずです」と笑顔のストランドさんだが、重量が半減だと、徒歩での運搬ではちょっと心許ない。
本来荷馬車なんかが必要になるのだろうけど、今回はオレのマジックバッグがあるので、問題ないだろう。
ストランドさんが「解除」と唱えると、真っ黒い穴が消えて、直径三十センチくらいの金色の輪っかが現れた。
念のため王子にもう一度判定をして貰ったところ、
マジックリング、使用者の「設置」のキーワードで任意の場所に設置出来る。設置した状態でマジックゲートとなり、無機物の収納が可能。設置に魔力は不要。マジックゲートへの収納には魔力が必要、但し極小。という結果となった。
ふとオレのマジックバッグも王子に判定して貰おうかと思ったのだけれど、回数制限ありとか、一定の期間収納したままだと収納していた物が消えてしまうなんて話になると怖い。マジックバッグの使い方は一通り分かっているので、聞かずに済ませた。
それから一階の作業場でテーブルを囲み、ロータスさん、ストランドさんと今回の冒険行の打ち合わせをした。
書かれている地図を見ると南にある街までは街道を行き、そこから南東の森、そして山へと入る感じになる。
片道五十キロくらいなので往路で二泊三日くらいになりそうだ。
往復を含めて往復で五、六日、ダンジョンは小さいみたいなので、探索に一週間として合計二週間くらいあれば良さそうに思える。
そんなことを説明しつつ、五人で旅に必要なものについて話し合った。
まずはオレ達三人ともFランクの冒険者だけれど、全員がレベルアップ済みで、ダイゴは弓の名手で魔法が使えること。
ユーシンはスラッシュやシールドバッシュを習得した片手剣と盾遣い、オレは大太刀でダンジョン都市の東のダンジョンを探索し、オークやハイオークと戦っていたとの話をすると、意外だったのか二人に驚かれた。
二人はキャンプ経験がないとのことなので、寒さ対策で毛布は厚手のものが二枚か三枚あったほうが良いこと、そしてオレ達はマットを使っている話をしたが、これはちょっと高いものだし、鎧で寝るのでなければ無くても問題なさそうな気がするという話をした。
テントはケイトさんが使っていた小さめのものがあるので、ロータスさんに使って貰うことにして、ストランドさんはちょっと狭くはなるがオレ達と同じテントで寝て貰うことになった。
調理器具や食器類などはあるので、共同で購入するものとしては主に食料だ。
オレ達がパーティーの皆でお金を出してプールしておく冒険財布を作っていることを話し、今回の冒険が二週間と想定されることから、取りあえず一人あたり大銀貨七枚(七万円相当)でどうでしょうかと提案し、二人の了解を貰った。
ついでということで、ストランドさんからは今日のオレ達への報酬、一人一枚の大銀貨を貰い、お互いにニッコリ笑ってお礼を言い合った。
もちろん王子のピコーン杖は追加報酬としてタダである。
因みにピコーン杖は、作動させるとコップ一杯程度の水を浄化する魔道具で、七色の光は杖を触媒にするために必要なもので、ピコーン音はギミックでしかないらしい。
王子もピコーン音に気を取られていて判定していなかったらしく、目を丸くして驚いていた。
他に必要なものは、落雷避けの雷獣のヒゲと雨に備えてポンチョくらいか……と思ってそう言うと、雷獣のヒゲはロータスさんが持っているとのことだ。
そしてユーシンから、
「椅子を作るから布があったほうが良いよ」との意見が出た。
そこで二人にキャンプ椅子を作るという話をしたところ、二人も椅子用の布を購入することになった。
ロータスさんが縫製スキルを持っているので、オレ達が買ったような袋状に縫製してあるものではなく、布を買って作るらしい。
王子はピコーンした後、自分の靴を指差してから頷いている。
そうだ。靴も重要だ。ナイスな意見に王子に親指を立てて頷く。
ロータスさんは足の甲を覆う金属プレートが付いたワークブーツなので問題がなさそうだけれど、ストランドさんはビジネスシューズのような革靴だし、そうした靴は持っていなさそうなタイプだ。
そこで「靴も頑丈なものがお勧めです。靴下も厚めのものの方が良いから、これも買っちゃいましょう」とストランドさんに話す。
移動手段については、南への乗合馬車が毎日運行しているし、周辺の農家の人達も朝方荷馬車で野菜や肉などを運んで来ているとのことなので、乗合馬車もしくは街へと作物を売りに来た農家の人の荷馬車で南にある街を目指し、街で一泊した後、歩いて廃鉱山へと向かうことに決まった。
話の流れで二人にはマジックバッグのことを話してしまったので、水筒や行動食など、携行したほうが便利なもの以外の荷物はオレが運ぶことも伝えた。
ロータスさんが、それじゃあ着替えとか、包丁や調味料なんかを持っていって大丈夫だな。と言って嬉しそうにしていた。
なので、収納出来るものに制限があります。と言ってマジックバッグの入り口の大体の大きさを両手で作ってみる。
最後に、翌朝七時にストランドさんの店の前に集合と決まり、集合後ユーシンの引率でロータスさんとストランドさんは買い物、靴と毛布とキャンプ椅子用の布などを購入後、ストランドさんの店賃と借金を返済に付き合うことになった。
そしてオレは王子と冒険者ギルドで廃鉱山とその周辺地域の情報収集をした後、屋台で食べ物を購入することに決まった。
その後、南側の城門で合流して出発、食べ物については五人で二週間だとかなりの量が必要となるため、屋台の食べ物については、食材と共に次の街でも購入の予定となる。
そんな話をしてストランドさんの店を出て、ロータスさんを家までエスコートした後、宿へと帰った。
* * * * * * *
翌日、ストランドさんの店に行くと、店の前にストランドさんとマーク君が待って居た。
ストランドさんは黒革のトレンチコートにハンチング帽で、革の手提げカバンを持っている。
冒険ではなく、商談にでも出掛けるのが相応しいようなダンディーな格好だが、足元を見ると素足にサンダルだ。
オレの視線に気付いたストランドさんが、
「靴と靴下は購入するので、これで良いんですよ」そう言ってニコリと笑っている。
トレンチコートは物理防御の魔法が付与されている逸品で、愛用の品らしい。
そんな話を聞きつつ、店に置いてあったストランドさんの荷物をマジックバッグに仕舞っていく。
杖やマジックスクロールは、ストランドさん自身のマジックゲートに収納するとのことで、革の手提げカバンにぺたりとマジックリングを設置して、次々に放り込んでいた。
「あとはマーク君のごはんですね……」と呟いているので、どうやらマーク君も冒険に参加するみたいだ。
「マーク君も連れて行くんですか?」
オレがそう聞くと、
「勿論ですよ。何しろマーク君はオスのサビ猫な上に、幸運を呼ぶ六本指の貴重なネコ君なんですよ」
そんな答えが返ってきた。
改めてマーク君の足元を見ると虎っぽくて、普通の猫よりも足が大きいことに気付いた。
そこでマーク君に前足の裏を見せて貰うと、掌球の先に指球が六個あった。
確かに六本指だ。
王子もピコーンと驚いている。
月岡君がヘミングウェイは六本指のネコのコレクターで、猫屋敷の住人だったなんて話をしてくれたのを思い出す。
今はその家がミュージアムになっていて、六本指の猫の子孫達が暮らしているという話だった。
ちょっと行ってみたいなあ……。でもストランドさんを見るに、本当に幸運を呼ぶのかなあ? などと考えていると、大荷物を担いだ革鎧姿のロータスさんがやって来たので笑顔で挨拶をする。
ロータスさんは一メートル六十センチくらいの槍、というか斧? を手にしていた。
両手持ちの斧の反対側にかぎ爪のような刃が付いていて、先端には槍が付いている、すごく格好の良い武器だ。
ロータスさんに聞くと、ハルバードという名前の武器で、二メートルから二メートル半くらいの長さのものが一般的だけれど、ダンジョンの魔物用に短いものを作ってみたのだそうだ。
単に柄を切ったのではバランスが取れないので、斧や槍も小さくて軽めのものを鍛造で製作したらしく、これは三代目とのことである。
ハルバードは突いたり切ったり引っ掛けたりと多彩な攻撃が可能らしい。
斧に興味を持っていたユーシンが大喜びでロータスさんにハルバードを借りて、笑顔で振り回していた。
そんな様子を見ながらマジックバッグにロータスさんの荷物も収納し、それから昨日計画した通り二手に分かれた。
オレは王子と冒険者ギルドで資料を確認し、ギルドの職員の人にも話を聞いたけれど、この国のダンジョンは北もしくは西にあって南にはなく、廃鉱山については鉄鉱石を産出していた鉱山で、二十年くらい前に廃鉱になったという情報しか得られなかった。
目的の山へと向かうルートとなる森にはコボルト、そして稀にオークが出現するらしく、定期的に騎士団が巡回討伐をしているとのことだ。
コボルトの狡猾さを思い出して顔を顰める。
しかし今のオレ達ならば何の問題もなく対処出来るはずだ。
そんなことを考えながら、屋台で食べ物を購入した後、ユーシンとロータスさん、ストランドさんと合流すべく南の城門へと向かった。




